イエズス会社会司牧センターの37年間の歩み

安藤 勇 SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ(初代所長)

  イエズス会員がかつて東京で行っていた上智セツルメントやクリスマス・ビレッジなどの福祉事業、社会司牧プログラムは、ある程度、すべてが上智大学と直接関係していた。ところが、時代の変化に伴い、イエズス会が望んでいるような社会との深いかかわりを、大学とのつながりだけで果たすことが困難になってきた。

  第二バチカン公会議による教会の改革を受け入れ、イエズス会は1970年代から、修道会として選んだ優先的使命が「信仰への奉仕と正義の促進」であることを宣言してきた。その当時から、社会使徒職にかかわっていたイエズス会員は独立した「社会センター」の必要性をたびたび日本管区に訴えてきたが、「人も場所も見つからない」という返答が続いていた。

  ところが、1980年に、まったく予期しない出来事が起こった。イエズス会と親しかったエリザベス・ペドロという女性が亡くなり、彼女の全財産が日本管区に寄贈された。こうして、彼女の住んでいた建物に新しいセンターが生まれ、3人の会員がそこへ派遣された。その内2人は上智大学での任務を続け、私(安藤)だけが大学を引退してセンターの専従職員になった。

 
日本社会の変化に向き合って
  生まれたばかりの東京の社会司牧センターは、世界中に散らばる「イエズス会社会センター」(2005年現在324か所)を参考にして、国内・外の社会問題の状況把握に努め、社会分析をやりながら優先課題を選択し、教会やイエズス会の指針に合わせて発進した。

  しかし、「新しいセンター」ができたといっても、私たち数人の会員は、すでに社会使徒職に関する重要で具体的な活動、および研究を行っていた。そこで、センターでも引き続き、それを受け入れるようになった。現に設立当初から、日本とアジアとの関係はセンターの一つの特徴だった。その時代には、現在と違ってイエズス会アシステンシー(Assistancy:地域総支部)の組織はまだなかったが、東アジア諸国とのつながりは日本でも重んじられていた。同時に、フィリピン、香港、日本と韓国では、社会使徒職に関心の高い数人のイエズス会員が、カトリックの社会教説を東アジアで広げ、実施するためにSELA(Socio-Economic Life in Asia Committee)というネットワークを東京会議で立ち上げた。今回記念する「社会司牧通信200号」を機に振り返った、センターの最初期に出版された「通信」の中から、日本とアジアの社会センターの歩みを詳しく見ることができる。

  2006年7月8日、東京センターの設立25周年のお祝いをする際、当時センター長であった私はその25年間の歩みを発表した。以下、それを概略してみる。

 
「社会センター」の設立
 ◎ センターの特徴:社会問題の研究や出版活動
 ◎ 世論喚起や人間開発
 ◎ 貧しい人とともに行動する

① ネットワーキング
 * センターの母体であるイエズス会日本管区以外
   ローマの社会使徒職本部
   マニラの東アジア地域支部(JCAP)
   タイのバンコクにあるJRS難民支局
 * カトリック団体
   日本カトリック正義と平和協議会
 * 市民NGO団体
   ジャパ・ベトナムかんぼれん(カンボジアの友と連帯する会)RASA(アジアの農村と連帯する会)JCBL(地雷廃絶日本キャンペーン)AIA(足立インターナショナルアカデミー)、むすびの会、ハビタット・フォー・ヒューマニティー・ジャパン日本弁護士連合会、「死刑を止めよう」宗教者ネットワーク、アムネスティ・インターナショナル日本

② 難民・流民
  JRS(Jesuit Refugee Service:イエズス会難民サービス)との関係…当センターは日本におけるJRSの連絡事務所である。
  市民団体の「流民の会」(日本と難民の受け入れ)

③ 外国人労働者
  日本社会の新しいチャレンジ、カトリック教会の重大な課題である。
  「むすびの会」を通じて、東京の「足立区」という現場での協力:司牧、日本語教室、生活支援、警察・収容所への面会など

④ 開発プロジェクト「東アジア」への協力
  「貧困」との戦いへの支援・協力
  日本の学生や教育者のエクスポージャー・プログラム(1970年代から)タイを中心に⇒RASA団体の設立、「センター」内にあるRASA窓口
  ベトナムで自立プログラムを支援する市民団体ジャパ・ベトナムとの協力関係、かんぼれん(カンボジアの友と連帯する会)との協力関係

⑤ 出版物
  ◎ 「社会司牧通信」
  ◎ 本とブックレット
  ◎ セミナー報告書

⑥ 意識化啓蒙プログラム
  カトリック社会教説セミナー、社会分析、ボランティア養成、第三世界の状況を知る体験プログラムなど
  全国キャンペーン:地雷廃絶、ジュビリー2000(国際債務の帳消し)、死刑を止めよう

 
社会使徒職に関するペーター・ハンス・コルベンバッハ元総長のビジョン
  2000年の大聖年にあたって、コルベンバッハ神父は全イエズス会員に手紙を送った(2000年1月19日)。その中に、現代社会におけるイエズス会の働きが要約されている。私はこの手紙を、日本におけるイエズス会の使徒職のためのガイドであり、私たち社会司牧センターにとってはその貢献度をはかる尺度であると考えている。

  コルベンバッハ神父が指摘したもっとも重要な言葉をいくつか引用してみよう。第二バチカン公会議後の4つの総会議の発展をしっかりと統合しながら、イエズス会会憲の補足規定は次のことを確認している:「本会の現代的ミッションは、信仰への奉仕と神の愛と世を救う憐れみの受肉である、福音的正義の社会における促進である。・・・このミッションは、一体のものでありながら、多面的なものであり、多様なあり方で展開される。・・・社会使徒職は、あらゆる種類の私たちの使徒職と同様、ミッションに由来する。信仰の奉仕における本会の現代的ミッションを果たす際の私たちの使徒的活動計画において、社会使徒職は最も重要なものの一つであり、その目的は、共生する人間の社会構造を、正義と愛のより豊かな表現によって形造ることである。・・・社会使徒職は、社会研究や出版、アドボカシーや人間開発、貧しい人々と共に、また貧しい人々のための直接的活動など、様々な形態をとっている」(会憲補足規定245番、298-300番参照)。

  「私たちのミッションの社会的次元というこの意識は、社会使徒職の主要な活動の中で、必ずしも常に具体的に表現されているわけではない。それどころかむしろ、難しい問題が明らかである。社会使徒職に携わるイエズス会員の数は少なくなっており、そのための養成も減ってきている」。

  「経験は、イグナチオの霊性とイエズス会の伝統という礎の上に、私たちの社会奉仕がきちんと根ざしていると教えてくれる。・・・苦しむ人々のためにイエスの愛を分かち合わないのならば、イエスの友と呼ばれることはできないということを私たちは知っている」。

  コルベンバッハ神父は再度、社会使徒職の膨大な豊かさを構成する無数のアプローチや様々な方法、組織的方法について言及しつつ、そのためには十分な調整が必要であると述べている。「同時に、管区内で、また管区を越えて、社会使徒職における有益で最新の情報交換を活発に行う必要がある。・・・イエズス会の社会使徒職は、草の根から国際機関のあらゆるレベルで、その存在とすべてのアプローチ――奉仕の直接的な形、団体や運動との協働、研究、考察、出版――が注目されている」。

  最後に、イエズス会員と協働者のふさわしい協力なくして社会使徒職の発展はない。管区内で、あるいは管区間でよく準備されたプログラムが練られる必要がある。同時に、「若い会員は養成中に、貧しい人々と、時たまではなく、より継続的な仕方で触れ合うべきである」(34総会教令67番)。そして、イエズス会員ではない協働者に対しては、学び、考察、祈り、必要とされる継続的な養成の機会を提供しなければならない。

  「信仰生活の根源は、万民のための正義の促進という表現をとり、これにイエズス会は全面的にかかわっている」(34総会教令33番参照)。そしてそれは、私たちにとって大いなる恵みである。

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