むすびの会
 足立区は埼玉県境に位置し、東京の中でも外国人労働者が多い区である。人口は63万人、比較的低所得の世帯が多いことで知られている。伝統的に零細の家内工業が盛んで、いつの時代にも外国人、とりわけ韓国・朝鮮人を寛大に受け入れてきた。最近、新しい現象として、アジア各国からの何千という人々が足立区に住みつくようになった。韓国・朝鮮人の次に人口が多くなったのがフィリピン人だ。
 カトリックのシスターやボランティアが彼らを助けるために働きはじめてから、もう10年にもなる。滞在資格が不備なために、医療扶助を受けられなかったり、未払い賃金を確保できなかったり、公共サービスを受けるのに必要な最低限の書類もそろえられない外国人たちを支援している。ときには、警察や入国管理事務所に収容されている外国人を訪問しなければならない。その一方で、外国人自身が、ときには不法滞在のフィリピン人も、ボランティアとして働いて、仲間を助けている。外国人コミュニティの近くにある教会での英語ミサを通じて、日本人と外国人の交流は次第に増している。とはいえ、こうした活動はバラバラに行われていた。外国人たちのニーズは深刻であり、種々の活動の調整が不可欠だったので、イエズス会社会司牧センターが乗り出した。慎重に話し合ったうえ、できるだけのことをしようという結論に達した。
 こうして小さなチームが結成されて3年になる。「むすびの会」と呼ばれるこのチームは、日本人とフィリピン人が共に参加して、これまで行われてきた種々の活動を一つに結びつけるべく働いている。むすびの会はイエズス会社会司牧センターから財政的な支援を得て、柔軟性のあるプログラムを展開してきた。むすびの会が働くのは足立区内である。過去3年にわたって、外国人たちの日常的なニーズに応え、彼らが壁に行き当たって助けなしには進めないときには、いつでも積極的に支援してきた。


 むすびの会で働くあるフィリピン人女性は、次のような感想を述べている。
 「私がむすびの会で働くようになって1年近く経ちます。兄に紹介されたのですが、その兄は2年ほどむすびの会で働いた後、フィリピンに戻りました。」私たちがフィリピン人から相談を持ちかけられる場所は、普通はカトリック教会です。日曜のミサが終わると、フィリピン人はたいてい教会に残って交流するのです。私たちは故郷のこと、家族のこと、日本で暮らす上で困ったことなどについておしゃべりします。
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オーバーステイ(超過滞在)がもっとも大きな関心事です。ミサ出席者の半分くらいがこの問題を抱えています。最近、オーバーステイのためにクビにされたり、搾取されるケースが増えています。時には、オーバーステイのため給料をピンハネされたり、支払われなかったりすることもあります。滞在資格が不備な人たちは、クビにされるのを恐れて、長時間のきつい仕事に就きますが、フィリピンに送還されることを恐れて、当局に不満を訴えることはまずありません。

また、医療費が高くつくので、フィリピン人たちは年に一度の健康診断さえ受けません。健康問題は仕事のために脇に押しやられています。というのも、彼らの給料は日給が多いからです。法律問題は彼らにとってタブーです。それは仕事のじゃまになるばかりで、おまけに高い費用がかかるからです。

フィリピン人女性が日本人男性と結婚するときには、結婚問題も生じてきます。文化的な背景が違う上に、話す言葉や家族観の違いから、フィリピン人の妻に対する夫の暴力がはじまり、妻が心身共に傷ついて離婚に至るケースもあります。
 私もむすびの会の一員として、フィリピン人の仲間と日本人スタッフの間の仲介役をつとめています。私はフィリピン人の話を聞いて、私たちのグループ・ミーティングに連れていきます。私は教会で仲間のフィリピン人たちに、彼らのどんな問題にも解決方法があること、助けを求めれば、彼らの問題を解決するために支援してくれる人や組織があることを、いつも強調しています

 外国人労働者はしばしば、日本の役に立つ公共サービスを知らないので、特に法律サービスや医療サービスの利用に関する信頼できる情報を提供して、必要なら付き添ってあげることも、むすびの会の大事な仕事の一つだ。むすびの会では、文化的なことがらから宗教的な記事に至るまで、有益な情報を載せたニュースレターを定期的に発行しており、約250人に配布している。足立区の小教区教会である梅田教会は、日曜ともなると500人以上の外国人労働者であふれるが、その大部分はフィリピン人である。私たちは、司牧的なプログラムの他にも、2月にはある医療機関と共同で、レントゲン診断を含めた無料健康診断を実施した。健康保険に加入していない90人以上の外国人が受診して、結核診断を受けた。



 保険のない外国人にとって病気は一番心配な問題で、相談件数も多い。治療費が高いばかりでなく、治療費を持っていても断られるケースがある。
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 顔見知りの日本人4人に荒川の土手で殴られ、怪我をしてお金までとられたイラン人のAさん。数人の友達がかけつけ、病院に連れていったが、2軒の病院に断られた。困り果て、スタッフの家に電話をかけたり、足を運んだりしたが留守で、4回目にきたとき、ちょうどスタッフが帰ってきた。
 さっそく話を聞きながら彼の家に行くと、友達の真ん中に、まるで別人のように顔を腫らし、目をまっ赤に充血させ、頬に切り傷を創った彼がいた。見るとそれほど深い傷に見えなかったので、「大丈夫!」と言うと、みんな一斉に「何が大丈夫か!」と言う。何とやさしい仲間たちかしらと思いながら、とにかく断られた病院へ行った。
 受付の人の応対がとても冷たい。まずスタッフの住所と氏名を描くようにいわれ、「あなたが治療費を払ってくれるのですか」と念を押す。「もちろん本人でしょう」と答える。荒川土手からここまで、Aさんはどんな気持ちでいるかと思い、本当に外国の方たちが日本で生活するのは何と大変なことかと心が痛んだ。

 朝6時、入管の職員が数人、オーバー・ステイのイラン人、Kさんのアパートにきて、一斉に各部屋のドアをたたいた。このアパートは、家賃が月2万5千円と安いので、外国人の入居者が多く、この日はイラン人2人、中国人2人、パキスタン人2人、インド人1人が入管に連行された。Kさんはまだ眠っていたので、突然のことで頭が混乱し、パスポートや銀行の通帳・印鑑をおいたまま、入管に連れて行かれた。
 その日の午後、スタッフのもとに「入管に来てほしい」と連絡が入り、翌日入管に行く。面会時間は10分しかないので、部屋の鍵をもらい、してほしいことを聞く。アパートの部屋に入って、まず貴重品を探し、銀行からお金をおろしたり、荷物の整理、友人との連絡。土日以外は毎日面会に行って、帰国に必要な準備をイラン人、日本人で行い、2週間後に無事帰国できた。


 フィリピン人男性から「急にクビになった」と相談の電話。話を聞くと、「朝、会社に行ったら『仕事をしなくていい。明日から来なくていい』と社長に言われた」とのこと。その一ヶ月くらい前に、字の読めない彼に、「残業をしない、という書類にサインをして」と言われてサインしたのが、実は社員からアルバイトに格下げする書類だった。
 そこで、労働基準監督署に一緒に行って、いろいろ相談する。「突然の解雇なので、解雇予告手当を請求するように」と教えられた。「来なくていい」というのは「解雇」の意味かを確かめて、「解雇」ということであれば手当を請求できるという。さっそく社長に確かめて、請求を内容証明郵便で送る。1ヶ月後、平均賃金の30日分が送られてきた。
 会社で働いていたり、ビザがあればこういう不正な扱いに対して訴えられるが、夜にパブで働いている女性たちは、「客が少ないから」とか「店の経営が大変だから」ということで給料の一部しか渡されず、それが何ヶ月も続くと生活できないので、未払いの給料を受け取らないまま、次の店へ行くことも多い。
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 いろいな事情で出産する費用が足りない人には入院助産制度があることを伝え、望めば一緒に福祉事務所に行って申請するのを手伝っている。2年間で6人以上の女性が適用を受けて無事、出産している。
 一人のフィリピン人は、その申請をする前に7ヶ月で出産(早産)した。生まれた赤ちゃんは小さいので、保育器の中で育てなければならない。その費用が一日1万円、2ヶ月入院すれば60万円。どうしたらよいか困っていた。その赤ちゃんの父親は、妊娠3ヶ月で逃げてしまった。日赤のケース・ワーカーのすすめで区役所に医療補助の申請をした。まだ返事はない。妊娠・出産と大事なときに、男性がいなくなって、女性にだけ精神的・経済的負担がかかっているケースが多い。

 以上のように、仕事、医療、ビザ、警察、入管などの問題に加えて、女性や子どもの問題が多くなってきている。妊娠、出産、離婚、夫の暴力、子どもの教育の問題、人間関係の問題など、一日中いろいろな相談があり、その必要に応えきれないほどだ。
 言語、習慣、文化の違う国で生きることがどんなに大変なことか。さらに過酷な労働条件の中で、滞日外国人の状況はますますきびしくなっていると感じる。しかし、日曜日、教会で彼らと共に祈るとき、彼らの深い信仰が伝わってきて感動する。彼らはここから生きる力をもらっているのがよく分かる。
 むすびの会は組織としては小さく、専門家もいないので、ケースによって法律関係、労使関係、医療関係などの専門家、また区役所、その他すでに活動しているいろいろなグループと連絡をとりながら、彼らのニーズに応えている。滞日外国人と「支援する・される」という関係ではなく、「共に手をむすんで歩んでいきたい」というのが「むすびの会」という名前にこめられた私たちの願いだ。
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