日本における外国ルーツの子どもたちの状況: 現場レポート

安藤 勇 SJ
NPO法人足立インターナショナルアカデミー(AIA) 理事長

 
  最近、毎日新聞やYahoo!ニュースのようなマスメディアのいくつかは、日本の義務教育制度にカウントされていない多く(2万人以上?)の外国ルーツの子どもたちの教育状況は実際どうなっているのかと、文部科学省の注目を集めています。憲法上、日本人であろうとなかろうと、日本に滞在するすべての子どもに義務教育を受ける権利があるにもかかわらず、日本人のすべての子どもたちが義務教育を受けていることに対して、明確なデータを表す全国調査が事実上存在しないので、日本に滞在する2万人ほどの外国籍の子どもたちの義務教育の状況が把握されていません。

  この記事の内容は、いくつかの誤解を引き起こす可能性があるかもしれません。確かに、外国籍の子どもたちが抱える重大な教育の課題に対して国は放置してきましたが、一部のところではその問題解決のために、数年前から市民グループと教育関係者とが一緒に、前向きな動きを起こしてきました。

  私はここでは、両親が国際学校(インターナショナルスクール)やエリート学校で教育を提供することができる外国籍の子どもたちについて話していません。ここでの主な問題は、日本社会に無視され、見捨てられた子どもたちにあります。実際、これらはおそらく、日本の教育システムにカウントされていない2万人のうち、90%以上になるでしょう。

 
  そもそも彼らが直面している主な問題は、まず間違いなく、日本語の読み書き能力が不十分だということです。多くは移民や難民の経歴を持っており、両親は建設現場での肉体労働か、不安定な日雇いのアルバイトをしているだけです。子どもたちは日常的な差別に慣れており、日本人の親しい友人を持てず、孤独で夢もありません。自分たちの伝統的な文化、言語、習慣は日本の一般社会では評価されていません。彼らが本来持っている人間的価値観、豊かな経験や知識を同年代の若者たちと共有することはほとんど不可能です。自分たちはよそ者であり、日本社会に見捨てられていると感じています。

  なぜそうなのかと疑問に思うかもしれません。彼らの声を聞くことができる普通の手段はありません。にもかかわらず、一般の日本社会で見られるような共通問題は、彼らに対して不親切な態度を示すのをやめ、どうにかして不信感を持って見ないようにすることです。これに関しては、日本社会の玄関口と思われる出入国在留管理庁に対する批判が止みません。確かに、私たちの社会を構築する堅固な構造は、彼らのニーズや希望に関して柔軟性を示していません。

 
見捨てられた子どもたちに希望を与え、教育を促進する民間団体

  大阪府の教育者や活動家たちは、外国ルーツを持つ子どもたちが公立高校に入学できるように、困難な教育問題と戦い、解決することを決意しました。私が誤解していなければ、その結果、2001年に、そうした子どもたちが高校に入学するための「特別な入学枠」を獲得しました。実は現在、大阪府内の7つの公立学校が引き続き、その割当制度を利用しています。

  そうした高校の先生は、教室で簡単な日本語を使っており、時には英語で説明することさえあります。そして場合によっては、一部の生徒の母語を使うこともあります。子どもの両親は、日雇いまたは月給制の労働者で、自分たちは高校教育を受けられずに日本で働き、困難な生活を経験してきているため、子どもには高校への進学を望んでいます。

  外国ルーツの子どもたちはまた、日本の子どもたちの9割が高校に通うことができる一方、高校に受け入れられないことによる社会的差別を経験します。若いおかげで、親と同じような熟練のいらない仕事を見つけることはできますが、それ以上の教育の夢が持てません。さらに、日本の社会的な壁は大学レベルで広がり、その上、若者がまともな雇用を求めているときにもさらに大きく立ちはだかり続けています。もちろん例外もありますが、外国にルーツを持つ若者の大多数は、その社会的な壁を乗り越えることが不可能に近いのです。

 
私立学校に関する興味深い質問

  ここで、キリスト教系学校が深く関わっている私立教育に関する興味深い質問を紹介します。私立学校、特にキリスト教の背景を持つ学校は、大阪府のいくつかの公立学校が示している手本を真似することはできないでしょうか?

  私の質問は、特別な学校づくりではなく、外国ルーツの子どもたちを一般の日本人生徒と統合する具体的な方法を見つけることです。もちろん、学校の運営には、新しい教職員や資金など、真剣な変更や追加が必要になります。実際、多くの場合、学校教育は多様な文化的背景を持つことで充実し、同時に、社会的に見捨てられた子どもたちとその家族に与えられる支援は莫大になります。

  また、今後、外国籍の子どもたちへの日本語指導がますます必要になります。実際、いくつかのNPOや民間団体がこの分野にますます活発に関わっています。私が東京都足立区で13年前から関わり始めたNPO足立インターナショナルアカデミー(AIA)は、外国籍の方々を対象に日本語教育を行っています。子どもだけでなく大人(両親)も、そこを居場所として、気楽に日本語の基礎や会話を無料で学んでいます。

  AIAは、イエズス会を含む4つのカトリック系団体によってサポートされており、ボランティアの協力を得て運営されています。ちなみに、今般のパンデミックの影響を受け、AIAの教育の特徴だった対面方式を部分的に中止し、オンラインシステムに変えました。結果、AIAの活動を促進および拡大するのに役立っています。

 
  さらに、日本語教育も含めて、子どもたちが高校入学できるために専念する「フリースクール」のような組織が設立されました。しばらくの間、そういう場所で勉強した16歳のエチオピア人少女の体験を紹介したいと思います。

  彼女は中学生の若さで自分の国、エチオピアの5,000m走で優勝を飾った成績を持っています。現地でそれを視察したあるスポーツ団体代表の日本人は「この子なら日本のマラソンの選手として十分に期待が見込める」と思い、日本に来るように招待しました。そして、スポーツ専門高等学校の留学手続きを済ませました。

  ところが、毎日長時間のトレーニングが続き、数か月後に、トレーニングの最中、脚の事故に遭ってしまいました。結局、その高校ではもう役に立たないと見なされ、学校に見捨てられました。何の援助もなく、17歳だった彼女はたったひとりになってしまいました!

  あまりにも酷い扱いのため、少しずつ教会関係の支援者が現れました。AIAの私たちも彼女を受け入れ、基本的な日本語を教えることにしました。彼女は高校に進学したい夢を抱いていたので、紹介した他のボランティアグループの協力で「フリースクール」に入りました。1年以上が経過しましたが、見事に、この4月に高校入試に合格しました。

 
  これらは、外国にルーツがあるため、毎日の生活の中で社会に落胆し、見捨てられていると感じる多くの子どもや若者に希望を持たせるほんの数例に過ぎません。考えてみると、同時に、ボランティアの協力者は、自分たちの努力もあって、これらの子どもたちが夢に描いていた高校へ進学した喜びをともに感じることができると思います。

  社会的に見捨てられた若者たちの深刻な教育問題を解決するにあたって、すでに協力している人々に耳を傾け、彼らを真似することを決心すれば、きっと解決の道を見つけられます。具体的な解決策を起こす手段があります。具体的に決心することは重要です。確かに、支援するボランティアは、希望と明るい未来をもたらします。

 
  ご意見・ご感想をぜひお聞かせください。

 

NPO法人足立インターナショナルアカデミー(AIA)
〒121-0816 東京都足立区梅島1-16-21
TEL. 03-5888-5206
http://www.aia-migrantschool.org/

 

『社会司牧通信』第223号(2022.4.15)掲載

Comments are closed.