トランプ政権末期に死刑執行連発

―バイデン大統領誕生と米国の死刑廃止―

柳川 朋毅
イエズス会社会司牧センタースタッフ

  投票結果をめぐって大きな混乱が生じていた2020年アメリカ大統領選も、ジョー・バイデン候補の勝利でほぼ決着を見たようです。ジョン・F・ケネディ大統領に次ぎ、米国史上2人目のカトリックの大統領ということで、今後どのような政権運営をしていくのか、私たちも注目しています。現代のアメリカが、そして人類社会が抱えている課題は多くありますが、その中でも、「死刑」の問題について簡単に触れたいと思います。

  アメリカ合衆国では、州ごとに死刑制度の存廃が異なっています。すでに死刑を廃止した州は全体の半数近くに上り、執行停止(モラトリアム)を公式に宣言する州も年々増えています。ここ数年、実際に死刑を執行している州は、テキサスやアラバマなど、わずかな州に限られています。各州とは別に、連邦政府のレベルでも、死刑は未だ存在しています。ただし、近年の執行はジョージ・W・ブッシュ大統領時代の3件のみで、2003年以降長らく執行はなく、このまま死刑制度が廃止になるのではないかと見られていました。

  現職のトランプ氏は大統領就任以前から、死刑に対して熱烈な支持を表明していました。そして大統領となり実権を握ると、早速死刑推進へと動き出しました。その結果、2019年7月、連邦での執行を再開させると、ウィリアム・バー司法長官が発表するに至りました。

  それを受け、法律家や人権団体だけでなく、かねてより死刑に反対していた米国のカトリック司教たちを筆頭に多くの宗教者たちも、死刑再開を思いとどまるよう、繰り返し米国政府に対して要請を行いました。

  けれども非情にも、2020年7月14日、実に17年ぶりに死刑が再開されてしまいました。抗議の声に耳を貸すことなくその後も執行が相次ぎ、これまでに10名が処刑されました。任期終了間近のレームダック(死に体)政権は執行を控えるという131年続いた慣行をも破って強行し続け、来年1月の政権交代までに、さらに3件の執行を計画しています。アメリカでは毎日数千人の人がコロナで命を落としている深刻な状況の中、異常なまでに死刑にこだわっているのです。

  実はバイデン氏も長年、死刑賛成の立場をとってきたのですが、今回の大統領選は「死刑廃止」を含む刑事司法改革を公約に掲げて勝利しました。これには単に彼個人の宗教的信条だけでなく、国際社会の動きや国内の市民運動が大きくかかわっていますが、教皇フランシスコが2015年9月24日に米国議会で行った演説で、死刑廃止をはっきりと訴えたこと(当時副大統領だったバイデン氏は真後ろで聴いていました)、そして2018年に死刑に関する『カテキズム』(2267番)が改訂されたことも、決して無関係ではないでしょう。

  もちろん、死刑廃止を謳うバイデン大統領やカマラ・ハリス副大統領が政権についたからといって、すぐに米国から死刑がなくなるわけでありません。それでも、教皇が新回勅『Fratelli Tutti』(263-270参照)でもはっきりと述べるように、「全世界」から死刑をなくすために、日本のカトリック教会としても真剣に取り組む必要があります。まずは2020年が、9年ぶりに日本で死刑がなかった一年となることを切に願って。

 

『社会司牧通信』第215号(2020.12.25)掲載

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