教皇フランシスコの来日にあたって

安藤 勇 SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ

  間近に迫った教皇フランシスコの来日に関して、様々な質問が飛び交っています。

  教皇フランシスコは日本でどんな発言をするのでしょうか? 来日の日程は短期間ですし、教皇は自由で思いやりある宗教指導者として知られています。彼の発言は、世界中で重く受け止められます。

  教皇は日本にいる間に、誰と会うのでしょうか? 教皇はバチカン市国の長であり、カトリック教会を代表する宗教指導者ですから、他の国を訪問したときのように、たとえ短い時間であっても彼の会う人々――たとえば若者、移民・難民、囚人など――は、象徴的で大きな意味を持つでしょう。

  教皇はどこに行くのでしょうか? 来日の公式スケジュールはすでに決まっていますが、他の国では様々な状況に応じて、ロヒンギャ難民やホームレスの方々のもとにも訪れました。
 

カトリック教会の既存の構造の変化と教皇フランシスコ
  私がここで焦点を当てたい重要なことは、日本では私たちカトリック教会の中でさえほとんど知られていないことです。それは、社会から排除された人々に対する、教皇のいつくしみ深い態度と真の優しさを示すものです。

  第二バチカン公会議後、カトリック教会内の多くの部署での「アジョルナメント(現代化)」に従い、教皇フランシスコは、教会は絶えず刷新される必要があり、また現代世界にキリストの救いのメッセージをより良く宣べ伝えるために重要な変化を行う必要があると強く信じています。今日の世界の多くの構造的社会変化もまた、キリストによって与えられた使命に忠実であるようにと、教会に促しています。

  9人の枢機卿から成る特別委員会(C9)はすでに教皇と共に、教会の確立されたグローバルな構造を変革し、新しい世界の状況に適応させるべく働いています。
 

人間開発のための部署
  2016年8月17日、教皇フランシスコは『ウマナム・プログレッシオネム(人間の発展)』と題した自発教令(motu proprio)において、バチカンの中に新しい部署(部門)を設立しました。2017年1月1日時点で、人間開発のための新しい部署には、「正義と平和評議会」、「開発援助促進評議会」、「移住・移動者司牧評議会」および「保健従事者評議会」が統合されました。

  このバチカンの部署にはまた、慈善委員会、エコロジー委員会、保健従事者委員会も含まれていて、それぞれがその基準にしたがって運営されています。

  部署の中の一つの部門では、移民、難民、奴隷制や人身取引の被害者に関する問題が具体的に取り扱われ、自国からの移住を余儀なくされた人々や亡命中の人々のニーズに関して、必要な注意を払っています。教皇は、部署の中に設けた移民と難民のための特別な部門を、「当面の間は」自らが指揮すると発表しました。教皇はカナダ人のイエズス会司祭、マイケル・チェルニー神父(最近枢機卿に任命された)とイタリア人のスカラブリニ宣教会司祭、ファビオ・バッジョ神父を、難民と移民に関する問題のための事務次官として任命しました。

  その名のとおり、人間開発のための部署は、福音の光に照らして、また教会の社会教説の伝統のもと、統合的な人間開発の促進に取り組んでいます。

  新しい部署の名前には深い意味があります。「人間開発(human development)」という用語は、聖パウロ6世教皇の1967年の回勅『ポプロールム・プログレシオ』の書き出しの言葉によって良く知られています。

  諸民族の進歩は、教会にとってきわめて重大な関心事であります。特に、飢えや貧困、風土病や無学から逃れようと努めている民族、文明のもたらす成果にもっとあずかり、自分たちの人間的資質をもっと積極的に発揮させようと努力している民族、さらに固い決意をもって自国のより完全な発展のためにまい進している民族の進歩について、教会は深い関心をもっています。

  「統合的発展(integral development)」という用語もまた、『ポプロールム・プログレシオ』のキーワードです。この用語は、開発を経済的、および物質的成長に限定することはできず、「各人および全人の開発を促進する必要がある」ことを明確にしています。人間こそが、私たちキリスト者にとっての中心事なのです(15‐17番参照)。

  人間開発のための部署はまた、貧しい人々、病気の人々、排除された人々を含む、人類の苦しみに対する教皇の配慮を表明し、故郷からの避難を余儀なくされた人、無国籍者、疎外された人、武力紛争や自然災害の犠牲者、投獄された人、失業者、現代の奴隷制と拷問の犠牲者、その他にも尊厳が危険にさらされている人のニーズと問題に特別な注意を払います。また、人間開発のための部署は教会の社会教説を研究し、それが広く知られ、実践されるように働き、そのようにして社会的、経済的、政治的関係がますます福音の精神に適うものとなるようにします。さらに、また、正義と平和、人間開発、人間の尊厳や人権の擁護と促進の分野における情報や研究データを収集します。たとえば、未成年者の権利を含む、労働に関する権利、移住の現象と移民の搾取、人身取引や奴隷化、投獄、拷問と死刑、軍縮と軍備管理だけでなく、武力紛争およびそれらが民間人と自然環境に及ぼす影響(人道的自然法)などです。そして必要に応じて直接介入できるように、そうしたデータを評価し、導かれた結論を世界の司教機関に通達します。

  世界的に拡大している人身取引は、移民や難民の若い女性や子どもを搾取することによって、今日収益性の高いビジネスの中心となっています。現時点では、新しい部署の活動の主要な焦点の一つです。その一方で、エコロジーに関する教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』を、世界の司教協議会を通して地方教会でも促進し実行することは、部署に与えられた主な仕事の一つです。

  教皇は、タイと日本という二つのアジアの国に短期訪問にやってきます。アジア地域では、紛争、貧困、自由の欠如のために数十万、数百万人もの人々が自国から去ることを余儀なくされ、しばしば外国の環境下で再び犠牲になります。

  もちろん、教皇が日本を訪れる際には、平和のメッセージが期待されています。にもかかわらず、日本に来た数万人の若い移住者や難民は、より良い生活を強く夢見ています。社会から忘れられた他の多くの犠牲者と同じく、彼らの側に立つ教皇を見られることを嬉しく思うでしょう。

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