沖縄の小さな島で起こっていること ――宮古島からの報告――

坂口 聖子
日本キリスト教団宮古島教会牧師

  宮古島(沖縄県宮古島市)は沖縄島から南西へおよそ300キロメートルに位置し、北東から南西へ弓状に連なる琉球弧(りゅうきゅうこ)のほぼ中間にある群島だ。那覇からは飛行機で約35分のところにある、人口5万5千人ほどの小さな島々である。宮古島は沖縄諸島の中でも特に素朴な自然が豊かに残り、そこに暮らす人々の心も優しく温かい、癒しの魅力にあふれる南の島だ。

  宮古島は急激に軍事化への動きを見せ始めた。南西諸島島嶼(しょ)防衛を目的に、自衛隊ミサイル基地の建設が行われ、それに伴う様々な軍事施設が島のあちこちに建設されている。2019年3月には、基地内の住居が完成し、同時に380名もの自衛隊の先遣部隊が入居する予定になっている。

  約4年前になるが、南西諸島の自衛隊配備が決定され、2017年11月に島嶼防衛のためのミサイル基地が建設され始めた。住民の反対を押し切り、新しい基地が建設され、島の自然が壊されていく様を目の当たりにした。宮古島は山がなく、標高の一番高いところでも約115メートル、飛行機から見ると島がいかに平たいかが良くわかる。そこにはかつての沖縄戦の時代から日本軍の基地があり、米軍統治の時代を経て現在は航空自衛隊の駐屯地がある。戦争が終わり、沖縄は日本に返還されても基地だけはそこに残っている。そこからほど近い旧千代田ゴルフ場に新しい基地が建設されている。

  そこはミサイル基地であり、自衛隊員800名とその家族が暮らす住居もある。さらに建設当初には予定されていなかったヘリパットも作られ、保管庫と称した弾薬庫のような形状も設置された。この弾薬庫の数十メートル隣には燃料給油所があり、100トンの燃料タンク7機がすでに埋め込まれている。ここには車両用だけではなく、ヘリコプターのための航空燃料も保管される。しかしこの施設の真下には活断層が通っていることが、「宮古島のミサイル基地に反対する住民連絡会」から防衛省への資料開示請求で確認された。琉球大学の地質学と工学部の合同調査の解析によると、この施設の14メートル地下には明らかに空洞があり、その下には住民の飲料水も含めた生活用水の元となる地下水が流れている。宮古島の全ての水は雨水が蓄積された地下水に頼っており、さらに沖縄の中でも一番活断層が多い。この真上に基地が作られているのは異常な事態だ。大きな地震が来て、重油やミサイルの原料となる鉛が地下水を汚染すれば、水道法に抵触し、直ちに水が飲めなくなる。また地下水の汚染は、浄化されるまでに1500年もの期間を要する。

  さらに弾薬庫と思われる施設は、防衛省は「小火機」としての施設だということをすでに認めているが、その施設と住民が暮らす地区とは100メートルほどで、明らかに火薬類取締法に抵触する。

  また、基地ゲートの出入り口では、常にダンプなどの工事車両が出入りしており、タイヤに付着した泥を落とすためにタイヤへの散水が行われているが、使用されている水は作業員宿舎(数百名)の下水浄化槽のものである。浄化をしているから直ちに健康被害はないと防衛省の見解では言われているが、基地ゲート前の反対のためのスタンディング行動をしていると、汚水のような匂いが立ち込め、マスクをしていても喉の奥にピリピリした痛みを覚えるときもある。この仕事に従事する作業員の健康被害も懸念される。

  さらには、基地内に御嶽(うたき)といわれる沖縄の民間信仰の拝み所があるが、7300㎡が維持されるところを現在は4000㎡しか残されていない。そこに暮らす人々の祈願の場だ。森を壊したらその機能を果たすことはできない。住民の願いもむなしく、森は縮小され、井戸は埋め立てられてしまった。

  さらには多くの外国人労働者(技能実習生)も建設工事に携わっているが、ベトナムからの作業員の日給はわずか4500円ほどである。宮古島の作業員は日給1万円、日本本土からの作業員は日給2万円を超えるという。外国人労働者の明らかに不当な労働環境、生活環境も懸念される。しかし防衛省に問いただしても、主体は契約する業者に任せていると言い、実態は何一つ把握をしていない。
 
 
 

  宮古島の抱える課題はこれだけに留まらない。島の東の保良(ぼら)という地域には大規模なミサイル保管庫の建設がなされようとしている。この地域にはカトリック教会もあり、弾薬庫予定地から白く美しい屋根とそびえ立つ十字架をはっきりと肉眼で確認できる。保良鉱山は元々は琉球大理石を掘っていた跡地だが、弾薬庫がここに建設される。この保良鉱山から住民が暮らす集落までは約200メートルしか離れていない。火薬類取締法の基準に照らせば、住宅地から400メートルの保安距離は必要にもかかわらず、法令を適応しない。

  さらに、宮古島の平良(ひらら)港は現在クルーズ船を停泊させるための岸壁工事が急ピッチで進められている。これは単に観光のためではなく、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」を空母として改装し、垂直離着陸も可能な「F35B戦闘機」とともに運用する計画がすでに防衛省見解で明らかになっている。

  宮古島と橋でつながっている下地島の空港はこの3月からジェットスター航空が成田との直行便を就航させるが、20年前は普天間米軍基地の代替地候補として挙げられ、当時の防衛大臣が視察にきていた。何度も軍民共用の空港が作られようとした空港である。

  また、米軍と自衛隊の一体化した水陸訓練場が高野(たかの)漁港に作られようとしている。米軍と自衛隊が一緒に宮古島の有事の際にはこのようにミサイル部隊を配置し、攻撃をするという予測訓練の写真が米軍のFacebookページにも記載されている。

  挙げればキリがないほど島のいたるところで基地建設が静かに進んでいる。陸、海、空のすべての軍事施設が整えられている。市長はいまだに国の専権事項と言って、新基地建設について住民に説明責任を果たしていない。

  さきほど地下水のことを挙げたが、これは雨水が自然に地下に貯められたもので、住民だけではなく多くの観光客もこの水を利用する。島では大型リゾートホテルの建設も進んでおり、年間100万人近くの観光客が訪れ、2019年にはそれを上回る観光客が宮古島にくることが予想される。住民だけではなく自衛隊員800名とその家族が宮古島に移住すれば、いつかこの地下水は枯渇する可能性も十分に考えられる。新しい基地ができることは戦争を作りだすことであり、環境そのものが破壊される。この美しい島には誰一人として住めなくなってしまう可能性がある。
 

  以上が2019年2月末の宮古島の現状であり、現在も島の状況は変化している。しかし、この事態は宮古島だけでは留まらず、隣の石垣島、更には奄美諸島にも同様の自体が起こっている。南西諸島の小さな島々が危機に晒されている。辺野古、高江と同時に動く、南の島の軍事化の問題を見過ごしてはならない。

  ではキリスト者としてどのようにこの問題に取り組めばいいのか。残念ながら、小さい者の声は叫んでも消される、聞き届けられないという状況にある。同じ沖縄県下であっても、辺野古への道順を300キロも離れている私に連絡をくださるときもある。宮古島や南西諸島の軍事化を知る人々は少ない。

  宮古島に古くから根付いた「愛(かな)す」という言葉がある。意味は「哀しいほど愛おしい」という言葉だ。それは主が「はらわたが痛む(スプランクニゾマイ)」と言った「憐れみ」につながる。

  私は沖縄生まれではないが、最も小さくされた者(マタイ25:40)の視座に立ち続けたいと願う。私たちのできることは何か。まず「知ること」につきるのではないか。そこから、私たちが連帯する希望と方法が鮮やかに拓かれていくことを、私は信じている。

追伸
  2019年中に私たちの教会では、ゲストハウス(安く)をオープンしたいと考えています。まずは気軽にお越しいただき、平和について一緒に考えていけることを、教会員一同心より願っております。愛を込めて。

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