社会使徒職のイエズス会的アイデンティティを育成する

梶山 義夫 SJ
イエズス会社会司牧センター所長

  今年8月13日から17日にかけて、チェンマイのイエズス会黙想の家Seven Fountainsで、アジア・太平洋地域の社会使徒職が主催する研修会が開かれ、32名が参加した。日本からは中井神父と筆者が参加した。主要な内容は以下のとおりである。

  「私たちの社会センターとNGOの違いは何か。私たちのセンターに関してイエズス会とは何か。」このことを私たちはしばしば自らに問うが、この問いかけを本当に真剣に受け止めているだろうか。多くの社会センターは個々のイエズス会員によって始まり、会員の存在は彼らの組織のアイデンティティの目印とみなされてきた。しかしこれで十分だろうか。

  アジア・太平洋地域社会使徒職分野の今年の研修主題は、「社会使徒職のイエズス会的アイデンティティを育成する」である。この研修会ではこの問いかけに答え、イエズス会の社会センターでしばしば見受けられる組織の弱点に取り組んだ。
 

  研修会は、4つの部分で構成されていた。研修会の最初の部分では、アジア・太平洋地域上級長上協議会議長Tony Moreno神父が、36総会のメッセージと現在作成中のイエズス会全体の使徒職優先課題に基づく和解のメッセージの観点から、アジア・太平洋地域のイエズス会が取るべき新しい方向性について語った。

  次いで、Xavier Jeyaraj神父(ローマの社会正義とエコロジー事務局秘書)は、本会が長年にわたってたずさわってきた社会正義をめぐる関心と今後の新たな課題について述べた。私たちは、今日、特に民主主義の危機、エコロジー面での深刻な悪化、移住の増大から、深刻なチャレンジに直面している。

  アジア・太平洋地域の社会使徒職担当者であるBenny Juliawan神父は、社会経済的格差の拡大、工業化と工業化がもたらすさまざまな課題、終身雇用の終焉と新しい搾取形態、政治的ポピュリズムの4つの状況に関して問題提起した。
 

  第2部では、私たちのアイデンティティとは何かを追求した。Julie Edwardsさん(Jesuit Social Services AustraliaのCEO)は木のイメージを用いて、私たちの使徒職を説明した。木の根にあたる部分は、私たちの信仰、そしてイグナチオの遺産とイエズス会の伝統、つまり聖書、特に福音書に示されるイエスの生きざま、そして『霊操』と会憲、最近の総会文書である。そこにしっかりと根付いていることが、イエズス会の使徒職に不可欠であり、それは会員のみでなく、使徒職にかかわるすべての人、特に指導的立場にある人はこの部分をしっかりと身につけることを求められる。幹の部分は、組織の諸活動における基本理念、活動の枠組み、運営方法を表す。葉は、組織で奉仕する人々、活動の成果であるが、同時に組織に活力をもたらす希望と喜びの源でもある。

  Garry Roachさん(JSS AustraliaのPractice Development総責任者)は、これらの原則をどのように実践できるかを説明した。彼は、組織で奉仕する人々に一致をもたらす物語やストーリーを形成すること、その人々にわかりやすい形でそのストーリーを語ること、さまざまな形で、しかも言葉と行いで、語られている内容を実現させていくこと、語られている内容を実現する過程を評価すること、組織で奉仕する人々を雇用の最初から最後までサポートすることに注意を払うよう、参加者に勧めた。
 

  第3部では、イエズス会の社会センターがしばしば抱える2つの状況、すなわち緊張関係が生じやすい環境で仕事をしなければならないこと、また社会的な研究と活動をいかに組み合わせるかについて取り上げた。本質的に、イエズス会の社会使徒職は、政治的に微妙な状況で働いたり、旧来の伝統に挑戦したりしながら、問題を解決しようと努める。

  Fernando Azpiroz神父(マカオのCasa Ricci Social Services所長)は、中国での経験に基づいて、政治的に制約された状況の中での対話の枠組みを概説した。イグナチオの霊性とイエズス会の伝統は、この点で多くの洞察を提供している。

  またPedro Walpole神父(イエズス会アジア・太平洋地域における創造との和解分野のコーディネーター)は、ミンダナオにおけるさまざまな研究と実践、特に地域共同体と共に社会変革を行うための研究方法を説明し、学術研究と地域の人々のニーズとのギャップを橋渡しする戦略を提案した。
 

  第4部では、以上の提起された内容を参考にしながら、地域別に使徒職の在り方を振り返り、全体で分かち合った。あまりにもしばしば、イエズス会の社会センターはその設立者のカリスマや創立当初の活動に縛られている。

  Christina Khengさん(East Asian Pastoral Instituteで教会運営などを教えている)は、「計画立案しても、通常ごく少数の人々しかかかわっていない。プログラムを実施するスタッフを忘れている」と言う。使徒職の計画作成のもう一つの重要な課題は、組織の基本的な使命をいかにして行動や活動に接続、再接続するかということである。「私たちの仕事は、基本的に教会のミッションであることを忘れないでください。それは単なる仕事でもビジネスでもない」と彼女は語った。
 

  5日間の研修であったが、事前学習として多数の資料を読み、また当日も講話、個人的振り返り、グループの分かち合いなど、多様な方法を用いて研修が進められた。この方法は、社会使徒職を実践するに際して有益であろう。

  Kristiono神父は第三修練を終えたばかりであるが、ジャカルタ大司教区のコミュニティ開発事務局長に任命された。彼は、「イグナチオの精神は、社会への私たちの奉仕職に強固な基盤を与えると確信している」と語った。マカオ政府のソーシャルワーク部門の責任者だったCasa RicciのPeter Auさんは、「これは、特に私たちの日々の仕事に意義を与えるミッションを常に意識する点に関して、政府の働き方とはまったく異なる」と語った。また中井神父は、「イエズス会の中で、同じ使徒職にたずさわる人々が年に一度集い、共に学び、共に祈り、共に楽しいひと時を過ごすこと自体、重要である」と話した。

  Benny Juliawan神父(インドネシア管区)は、この研修会をもって、イエズス会アジア・太平洋地域社会使徒職コーディネーターの仕事を終える。彼は次のように述べた。「この研修会が、ほとんどが小規模で、会員以外の協働者に頼っている私たちの事業体に欠けている大切なことを穴埋めすることに役立てばいいと思います。」

Comments are closed.