福島原発事故避難者の住まいを奪わないで

信木 美穂
きらきら星ネット事務局

避難者を支える市民グループ 〈きらきら星ネット〉
  私が活動する〈きらきら星ネット〉は、東京電力福島第一原子力発電所事故により奪われた避難家族の日常生活を取り戻すため、彼らを少しでもサポートしたいと集まった有志によって作られた小さな市民グループです。2011年9月の設立当初から、福島原発事故の避難区域内外からの避難家族(特に母子避難の親子など)、津波や地震の被災者・避難者のみなさんとかかわりを続けています。

188_04  定期的な活動としては、小中高校生の勉強の自習の見守りを行う学習支援(勉強ひろば)、家族で参加できる交流さろん、避難者も福島在住者も参加できる保養プログラム(放射能による内部被ばくやさまざまなストレスなどからの健康回復・リハビリテーションのため)、遠足やチャリティイベントなどです。また、現在は山形県の米沢市と山形市(カトリック山形教会)の二カ所で、2~3カ月に一度の交流さろん・相談会を開催し、現地の避難家族との交流やつながりづくりを続けています。私たちの活動には、さまざまな小教区のカトリック信者が参加し、それぞれがこの活動と自分の教会での働きを結びつける役割も担っています。

住まいを失ったら難民かホームレスになるの?
  私たちが日常的にかかわっている避難家族は、その多くが原発事故による避難区域に指定されていない「避難区域外」からの避難者です。今、その避難者の多くが、「自分は来年の今頃、外国の難民のようにあちこちをさまようことになるんじゃないか」「住まいを失って一家でホームレス状態になるのではないか」ということに怯えて過ごしています。そのことを、みなさんはご存知でしょうか。

  原発事故の避難区域外からの避難者は、避難区域内避難者とは異なり、国や東京電力からの賠償もほとんど受けられません。ただ、国と福島県からの支援策のひとつとして、「避難住宅の無償提供」があります。原発事故発生後、避難区域からの避難者のみならず、福島県のあちこちの避難区域外から、多くの人が放射能の被害を避けるために全国に避難したため、国と福島県は、その避難者たちに住まいを提供しました。

  福島県内や被災県である岩手県や宮城県などに避難した人たちの多くは、建設型仮設住宅を提供されてそこに入居していますが、被災していない都道府県に避難した場合は、さまざまな公営住宅や民間の住宅が「応急みなし仮設住宅」として、避難者に無償提供されています。ただし、区域外からの避難者については、この避難住宅の「提供期間」が細切れに延長されてきました。

  「福島原発事故は収束した」「放射能の問題はほとんどない」「一部の避難区域以外は安全だ」と主張したい政府にとっては、避難区域外からの避難者を、なるべく早く福島県へ帰還させたかったのでしょう。避難者を帰還させ、その実数を減らすことは、原発事故の被害をできるだけ小さく見せ、事故の影響がほとんどないと示したい態度の現れであり、原発事故に関する収束宣言を、より具体化するひとつの手段だったのではないかと思われます。

  区域外避難者たちはそういう国の帰還推進政策に翻弄されてきたのです。彼らは、おおよそ2年ごとに住宅提供期限を区切られ、その期限が迫ってくるたびに、国会議員や政府へのロビイングや署名活動などの当事者運動を展開して、住宅提供の延長を何度も求めて、ようやく「住まい」としての避難住宅を勝ち取ってきたという経緯があります。それも、数年先までの期限付きの提供をとりあえず約束されるだけで、安心してずっと暮らせると保障されているものではありませんでした。

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  昨年の2015年6月、福島県は区域外からの避難者が暮らす「応急みなし仮設住宅」の無償提供を、2017年3月末で打ち切ることを決定しました。これにより、来年の2017年4月以降、福島県から全国に避難している区域外避難者のみなさんは、「避難住宅」としての「住まい」を失うことになりました。

住まいがなくなったらどうなるの?
  区域外避難者には、母子で避難しているために、夫や家族と離ればなれになりながら二重生活を続けている人、その二重生活のために出費がかさみ、貯蓄を切り崩して生活している人、家族で避難していても以前と同じような収入が得られる仕事にはつくことができない人、避難生活がきっかけとなって離婚や別居など家族関係が変化して、経済的に困窮している人なども多く、いまだに日常生活を完全に取り戻せているとはいえません。避難者たちは、避難生活を余儀なくされているがためのさまざまな困難を抱えています。その上、避難のために無償で提供されている「住まい」を奪われるとなると、住まいを自分で確保しなければならなくなります。すると、家賃を払わなければならない、あるいは、住宅を購入しなければならないといった大きな経済的な負担がのしかかり、避難生活を続けられなくなります。無償提供の打ち切りは、避難者の生活を根底から揺るがし、暮らしの破綻に直結します。

  また、来年の春以降の生活の見通しが立たないことで、避難家族の子どもたちの学校や進学などの教育問題にも深刻な影響が現れます。子どもたちにとっても、自分がどこに住むことになるのかという見通しが立たない、どこの学校に行くことになるのかわからない、という不安と現実を抱えることは、将来につながる大きな問題です。

  ある避難者は、「今まではホームレスや難民のことは、自分からは遠くかけ離れたものだと思っていたが、住まいを失うという現実を考えると同じ境遇だ」と話しています。また、「公園でテント暮らしをすることになっても良いから、ここに住めるという保障のある場所で避難生活を続けたいと思ってしまう」「ホームレスの人が小さな小屋に住んでいるのを見ると、自分の家があって羨ましいと思うほどだ」という人もいます。避難者はそれほど追いつめられているのです。子どもたちも「東京の中学に行けるの?」「福島に戻らなくてはいけないの?」「家がなくなるの?住めなくなるの?」と親たちに不安を訴えるケースが多いと聞きます。原発事故による避難者は、安心して暮らしていた故郷を追われ、住まいや暮らしを奪われただけでなく、精神的にも追いつめられているのです。

避難者を放浪させない、その小さき声を聞いてください
  今回の大震災と原発事故は未曾有の災害であり、福島原発事故はチェルノブイリ以上の過酷事故とも言われていますが、それに伴い、避難者の避難生活も過酷で長期にわたっています。日本では、原発事故被害者・避難者への対応はこれまで想定されておらず、特に区域外からの避難者については、その場しのぎの対応が何年も続いているように思われてなりません。

  そもそも原発事故による避難者は、事故の被害者です。事故による放射能の被害や危険から、その生命と暮らしを守るために避難しているのです。来年になされようとしている区域外避難者の避難住宅の無償提供打ち切りは、その被害者である避難者を「避難先にもいられず、放射能の被害や危険が残る福島にも帰れない」という、行き場なく放浪する難民状態に追いつめ、「住まい」という生活の基盤を失うホームレス状態に追いやることそのものです。原発事故により深く傷つき、翻弄されている避難者たちが常に不安と苦難に直面し続け、さらに放浪への恐怖を抱いているという現実を、私たちは知り、彼らが安心して暮らせる社会を作らなければなりません。私たちは、こんな小さな国に暮らしているのです。隣にいる人の小さき声は、私たちが耳をすますことさえすれば、しっかりと聞くことができるのではないでしょうか。

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