CAM香港報告 ―働く若者よ、尊厳のために闘おう!―

柳川 朋毅
イエズス会社会司牧センタースタッフ
東京JOC(カトリック青年労働者連盟)リーダー

CAM2015香港
  今から100年以上前に、ベルギーのカルデン神父(後に枢機卿)によって始められた青年労働者の運動「JOC」は、今では日本を含め、世界中に広がっています。JOCの国際書記局はベルギーにありますが、大陸ごとにも書記局が存在します。日本の属するアジア太平洋地域の書記局は現在香港にあり、Asia-Pacificを略してASPAC(アスパック)と呼ばれています。

  JOCでは4年に一度(オリンピックと同年)、全世界の代表が集まる国際評議会が行われます。前回(2012年)はアフリカのガーナで行われ、次回(2016年)はドイツで開催される予定です。この4年間、JOCではすべての人が「正当な労働」、「社会保障」、「性の平等」、「質の良い教育」を得られるよう目指して、四本柱の国際活動プランを実行中です。

  アジア太平洋地域では2年に一度、CAM(大陸活動会議:Continental Action Meeting)という会議が開かれます。前回(2013年)はフィリピンで行われたのですが、今回は今年の10月に香港で開かれ、私と札幌JOCのリーダーが、日本の代表として参加してきました。

  大陸「活動」会議という名前の通り、CAMの中では、各国のJOC活動の様子が報告され、社会・政治・経済・文化の観点から分析を加えていきます。そこから見えてきた現代世界の働く若者の現状に対して、特に四本柱の国際活動プランを意識しながら、大陸の活動プランを考えていきます。

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アジア太平洋地域のJOC活動
  ASPACの管轄に置かれているアジア太平洋地域の国は現在8か国(パキスタンインド、スリランカ、インドネシア、フィリピン日本オーストラリア、中国)ですが、そのうち中国はエクステンションと呼ばれ、準メンバー国のように扱われます。以前はもっと多くの国(例えばタイや香港)にもJOCは存在していたのですが、次第に数が減っている状態です。今回のCAMには、残念ながら、パキスタンとスリランカの代表が参加することができませんでした。そのかわり、中国から一人の青年が参加できたことは、大きな喜びでした。

  各国の代表からは、各国のJOCが取り組んでいる、働く若者の問題についての説明がなされました。以下簡単に、各国のJOC活動を紹介したいと思います。

  フィリピン代表からは、ペディキャブと呼ばれる三輪タクシーのドライバーの権利擁護や、金の鉱山で働く若者の労働環境改善に取り組んでいるという話がなされました。私が特に驚いたのは、鉱山で働く人の中には、まだ10代前半の少年の姿もあったことです。彼らは極めて過酷な労働条件で働いており、時には落盤事故によって命を落とすことも珍しくありません。

  オーストラリアのJOCは、特に外国人留学生や移民労働者、難民・亡命希望者の権利擁護に努めているそうです。こうした外国人たちは多くの差別や偏見に苦しみ、社会の周辺に追いやられているので、人々の意識を変革することにも取り組んでいます。

  インドでは、若者の失業の問題が大変深刻らしく、雇用の促進や起業の支援に取り組んでいるそうです。また、子どもへの教育が十分ではなく、児童労働も横行している現状から、教育の重要性が強調されました。

  インドネシアでは、大企業の衣服工場で働いていたメンバーが、JOC活動を通して労働者の権利を主張したところ、最終的には全員が解雇されてしまうという出来事が数年前に起きました。彼らはそれ以降も、大企業相手に闘いを続けていましたが、最近、クビになったメンバーを集めて、服やデザインを手掛ける小さなお店を開店したと語ってくれました。

  中国JOCはまだ発足したばかりで、しっかりとした体制が出来上がっておらず、また政治的な事情からこの場で彼らの活動を具体的に紹介することができません。けれども今回、中国の青年と個人的にいろいろな話をすることができました。特に、国家外交面では両国がこじれているように見えても、私たち市民の間では、歴史の問題も含めて、関係を修復していこうと話し合えたことは、大変意味のある経験でした。

  今回参加できなかった国については、その国を訪問したASPACメンバーから報告がなされました。スリランカのメンバーは、主に服をつくる女性たちで、その権利擁護をしているそうです。パキスタンのメンバーの多くは、レンガづくりに従事している青年で、ほとんどが16歳以下だそうです。低賃金、長時間労働に加え、レンガづくりは危険な作業で、事故や怪我が頻発しているので、仕事の安全性や社会保障を求めて活動しています。社会の中での女性の地位がまだまだ低く、また借金のかたとして子どもがとられることもあるなど、一つひとつの話が衝撃でした。

  日本のJOCは他国と比べると少し特殊で、ある特徴(例えば職業や性別など)でグループ分けをせず、一つのグループの中には正規・非正規労働者、失業者や学生、病気や障がいを抱えている人などが混在しています。青年によって具体的な要求は異なるため、日本JOCとして一つの闘いに絞ることはできません。ただし、日本の若者たちに共通しているのは、人間関係や他者とのコミュニケーションに大きな困難を感じていることです。能力や成果、経済的な利益を偏重する過度な競争社会の中で傷ついた若者は、低い自己肯定感と孤独のうちに苦しんでいます。日本JOCではそうした若者たちが、本当の自分をさらけ出しても受け入れられ、共に闘う仲間をつくることのできる「居場所」を築くことに取り組んでいると発表しました。

尊厳のための闘い
  CAMの中では、多くの課題や困難も浮き彫りになりました。ASPAC間でどのように協力体制を築き上げていくかは大きな課題ですし、そのためには、言葉の問題や財源の不足など多くの壁が存在します。

  来年の国際評議会に向けた、大陸の活動プランを考えるにあたり、「尊厳(Dignity)」という言葉が注目されました。暴力的な資本主義と新自由主義の中で、働く若者は尊厳を失って生きています。「一人の働く若者は、世界のすべての金銀よりも価値がある」というカルデン枢機卿の信仰に基づき、私たちはすべての人が尊厳ある生活を送るために、正当な労働と社会保障によって十分な収入を得られるように闘うことを決めました。

香港の外国人家事労働者
  CAMでは毎回、会議に加えて、エクスポージャーとして、開催地のJOC活動や働く若者の現状を見学しに行きます。二年前のフィリピンでは、ペディキャブのドライバーたちと交流し、彼らの仕事や生活の状況を見学したそうです。現在香港にはJOCのベースグループがなくなってしまいましたが、私たちは日曜日に、ヴィクトリア・パークという大きな公園に連れて行ってもらいました。そこには多くの若いインドネシア人女性が集まっていました。彼女たちは、香港の家庭で家事労働をするために、いわゆる「出稼ぎ」に来ている女性たちで、今回は2つのインドネシア人労働団体から、家事労働者の実態について聞くことができました。

  彼女たちは最低賃金(月4210香港ドル)すれすれの給料で雇われており、同居している主人からの深刻なパワハラやセクハラが横行しているそうです。実際、いくつかの虐待事件も報道されていますが、家庭という見えない密室で行われる性質上、それらは氷山の一角でしょう。日本でも外国人家事労働者の受け入れが検討されていますが、彼女たちから語られる生々しい人権侵害の話を聞きながら、人権後進国の日本では、到底運用できる制度ではないと感じました。

  そうした中でも彼女たちは、週に1日の休みである日曜日には、主人と仕事から解放されて、こうしてヴィクトリア・パークに集まり、料理を囲んでおしゃべりをし、遊びや歌や踊りに興じ、コーランや労働者の権利について学んでいます。
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