東アジアの移住

安藤 勇 SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ

  移住という現象は、現代では2億人以上の人々に関わる、世界的な人口移動です。1970年代に湾岸諸国で起きた石油ブームは、多くのアジア諸国で労働者たちが活発に移住するきっかけとなりました。絶対数として、中国、バングラデシュ、およびインドは、世界でもトップ10に入る移住国であると思われます。東アジアのフィリピンは約350万人もの移住者を抱えており、地域の中や外に移動する移住者にとって、今なお重要な起源国です(図1)。
アジアのトップ移住国

  世界のトップ10の移住回廊地帯のうち、4つはアジア諸国に存在します。2005年には350万人もの移住者がバングラデシュ-インド間を利用しました。インド-アラブ首長国連邦間では220万人、フィリピン-アメリカ合衆国間では160万人です(世界銀行、2008年)。非合法移住はアジア地域の中でますます問題になってきています。バングラデシュ-インド間だけでも、約1700万人もの人々が関係していると思われます(図2)。
アジアからの移住者受け入れ国

教皇フランシスコの世界難民移住移動者の日メッセージ
  2014年1月19日、世界難民移住移動者の日にあたって出されたメッセージの中で、教皇フランシスコはこう述べました。「私たちの社会は、これまでにない形で、世界規模で相互に依存し、関わり合っています」。
  「私は今年の世界難民移住移動者の日のテーマを『移住者と難民、よりよい世界へ』としました」。「『よりよい世界』を築くとは何を意味するのでしょうか。このことばは、個人や家族の全面的な真の発展を求めること、そして創造物という神のたまものが確かに尊重され、守られ、育まれるようにすることを目標としています」。「教皇パウロ6世は、現代の人々の願望を次のように説明しました。『より大きな存在になるために、より多くのことを行い、知識を深め、より多くを所有すること』(回勅『ポプロールム・プログレシオ』6)」。
  「人間への配慮が最優先され、霊的側面を含むあらゆる次元で人間が全面的に高められ、貧しい人、病者、囚人、困窮者、移住移動者を含むあらゆる人がないがしろにされることのないときこそ、よりよい世界が訪れるのです」。
  「現代における移住の流れは、民族移動ではないとしても、人々の移動としては史上最大です。教会は、旅をし続ける移住者と難民に付き添うにあたり、移住の原因を理解するよう努めると同時に、移住がもたらすよくない影響を克服するために活動しています」。
  「私たちは、様々な形で貧困が生じているというスキャンダルを見過ごすわけにはいきません。移住と貧困は結びついているのです。何百万もの人々がよりよい未来への希望を抱きつつ、または自分のいのちをひたすら守るために、貧困や迫害から逃れて移住することを選択しています。移住には、新しく、適切かつ有効な手段で取り組み、対処しなければなりません。そのためには、心からの連帯と思いやりの精神が求められます。教皇ベネディクト16世は次のように説明しています。『このような政策は、移民の本国と目的国との緊密な協調から出発すべきです』(回勅『真理に根ざした愛』62)。こうした協力関係は、各国が国内の経済や社会状況、雇用機会を改善させる尽力から始まることを強調すべきです。
  「正しい情報を得、先入観を克服し、移住者や難民に対する態度を変える必要があります。人間の尊厳は、人は神の姿にかたどり、神に似せて造られたまさに神の子であるという事実に根ざしています」。

(教皇フランシスコのメッセージからの抜粋)

JCAP地域のイエズス会員と移住
 migration01  2009年のはじめ、アジア太平洋地域のイエズス会管区長会議(JCAP)は社会問題の地図作成を始めました。それはイエズス会員とその協働者が現在携わっている社会的関心を評価するため、そして国際協力の可能性を探るために始められました。「ソーシャル・マッピング・レポート」の最終結果からは、イエズス会員とその協働者が、アジア太平洋地域における社会的課題に広範囲に取り組んでいるということが明らかでした。
  アジア太平洋地域の現状は、より合理的な戦略と、地域のイエズス会管区間のさらなる協力を必要としています。弱い立場に置かれた移住者の数、不平等な経済発展、軽んじられた人々への脅威、根深い対立、環境の不正、それらはますます増え続け、地域の緊急の課題となっています。そしてそれらは、イエズス会員とその協働者により大きな役割を要求しています。

  事実として、「移住」と「環境保護および天然資源の統治」はアジア太平洋地域のすべての国に関わる、使徒的最優先分野であるとみなされています。しかしながら、それが有効であるためには、社会正義に関するイエズス会の取り組みを見直し続け、派遣の使命を帯びた国際共同体を築いていく協力的努力が必要です。実際に、貧しい人に付き添うことや社会正義に対して、イエズス会員の取り組みは不十分であったと思われます。その他の弱点も「ソーシャル・マッピング・レポート」によって明らかにされました。様々な使徒職の間、特に社会使徒職や知性使徒職といった分野の間で連携が不足していました。
  アジア太平洋地域では、祖国の外で不安定に暮らしている人々の尊厳や人権は十分に尊重されていません。それには難民、国内避難民、非合法滞在者、移住労働者、人身売買の被害者など、すべての弱い立場の人々が含まれます。

migration02  35年前に設立されたイエズス会難民サービス(JRS)は現在、強制的に追放された人々に注目しています。国際イグナチオ・アドボカシー・ネットワークは移住を重要な焦点のひとつとみなしています。さらにJCAPは、2009年8月、アジア太平洋地域における行動と連帯のための最重要課題として移住問題を選びました。日本では、イエズス会社会司牧センターを通じて、いくつかの仕事が移住労働者と共に行われています。韓国ではイエズス会移住者センターによって、台湾ではレールム・ノヴァールム・センターによって、そしてインドネシアではサハバト・インサンによって活動が行われています。フィリピンではUGAT機関が、移住労働者の残された家族と共に働いています。
  通常提供される直接のサービスには、教育プログラム、法的援助、司牧活動および共同体形成、労働問題に関するサポート、避難所、あるいは物的支援などが含まれています。移住者にとって、職場での怪我、雇用者からの酷使や不公平な待遇への支援が、一般的にもっとも必要とされます。
  発展途上地域を見ると、自然災害、あるいは人災によって移住を余儀なくされるケースが、アジア太平洋地域に共通してますます増えてきているようです。増え続けている移住配偶者という現象もまた、関心の領域です。
  アジア太平洋地域にいる移住労働者、あるいはアジア太平洋地域からの移住労働者は、著しく大きなグループを形成しています。そのため、労働者を送る国と受け入れる国との間で、相互の努力がより一層必要とされています。組織化された情報と経験のやり取りは、イエズス会の結びつきを超えて、ネットワークを確実に改善し、発展させることができるでしょう。
  移住の問題は、貧困、人権、開発援助、環境保護、自然災害、平和構築そして紛争解決といった幅広い領域と、強く結びついています。

2009年以降の具体的歩み
  2010年8月、東アジアと太平洋地域のほとんどの管区を代表するイエズス会員の特別な集会が、インドネシアのクラテンで行われました。移住への焦点は、議論の主要な成果のひとつでした。アジア太平洋地域の移住という共通分野で、すべてのイエズス会使徒職が支持と取り組みを探り、発進国と受け入れ国の間の協力を促進することが重要であると考えられました。
  2010年10月、「世界移住フォーラム4」の前に、29か国を代表する94人がエクアドルのキートに集まり、世界的レベルで移住に関するイエズス会の使徒的ネットワークを形作るだけでなく、行動と方法の優先順位を明らかにしようと試みました。私たちJCAP地域からは、3人の代表を送りました。移住によって引き起こされる挑戦は、イエズス会全体にとって、使徒的優先事項です。
 migration03  2011年5月、イエズス会員と協働者から成る小グループは、東アジアのいくつかの国で移住労働者と共に働き、ソウルにおいて特別なセミナーを開いて、情報とネットワーク計画を共有しました。
  最近では、今年の6月に行われた、移住について働くイエズス会機関の代表者(ディレクター)の会議において、JCAP移住ネットワークは勢いがついたように見えます。会議の場所はインドネシアのジャカルタでした。イエズス会のベニー・ジュリアワン神父がアジア太平洋地域における移住者のためのネットワークの頼りになるコーディネーターとして任命されました。それによって地域の中に強い協力がついに作られるとグループには感じられました。
  ジャカルタの会議において代表を務めた私たちの機関は主に、移住労働者と非合法滞在者を取り扱います。そしてこれらの主要なグループを中心にして、3年間(2014~2017年)の活動計画が入念に練られました。参加者間のひとつの大きな関心は、地域のいたるところにいる移住労働者のリクルートと就職あっせんに強く影響を与えている仲介システムに取り組む必要でした。
  相互協力の新しい具体的プログラムは、3年の間、限られた研究助成金を支払うことです。そして、選ばれたトピックは次の三つです。(1)移住者の子どもの幸福、(2)移住者の帰還と再び自国に適応する策、(3)移住の仲介システム。

  私はイエズス会社会司牧センターによって活発に支持されている二つの主要な発展をここに加えたいと思います。一つは、足立インターナショナル・アカデミー(AIA)が2007年に創立されたことです。ここでは東京の郊外に暮らす移住労働者やその子どもたちが、日本語や日本文化などの基礎的教育を受けています。それから3年後の2010年には、社会司牧センターは移民デスクをオープンしました。それは、弁護士と協力して、移住労働者が日々の暮らしの中で直面している法的問題に対処するためです。その他にも、当センターは移住の問題は重要であると確信して、アジア地域のすべてのネットワークを促進している他のグループとの協力のため、いつでも開かれています。

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