社会司牧通信93号 99/12/15

 

堀内 紘子(イエズス会サービス・カンボジア)

皆々様、
 20世紀最後の年を如何お過ごしになりましたか。お陰様で私は病気一つせず、元気に動き回っています。一年の半分をプノンペンで、あとの半分をシエムレアップとシソフォン、そして4ヶ所の難民帰還村で過ごしました。1996年から97年にかけてクメール・ルージュが二つに分裂し、2万人以上がタイに逃げた。97年には野党のサム・レンシー氏に手榴弾が投げられ、多くの死者が出た。また、ラナリット氏や同派の幹部の家も破壊されるなど、この2年間に野党の100人以上が、現与党のフン・セン派によって殺されたと言れわるが、誰一人として逮捕されていない。

眠れる兵士=地雷

 1999年1月下旬から、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のもと9万人のカンボジア難民がタイから戻り始めた。クメール・ルージュの以前の2つの本拠地にほとんどの人が戻った。その地の様子、帰還者の状態、何の援助が必要とされているかを調べに行った。道路脇にいまだ地雷のあるところ。車が走れるようにと建設されたジャングル内の延長57kmの道を走る。行きは、空気が乾燥し切っていて、車の風よけガラスのワイパーを土ぼこりをとるためにつけっぱなし。5日後の帰り道には、どしゃぶりの雨。普通小型トラックのすべてがジャングル内の泥道に立ち往生。最近の雨量の増大で地雷が流され、とんでもないところに流れ着く。その地雷を踏んで両脚を無くした仲間の弟。「眠れる兵士」、だれかが踏んでくれるのを待っている地雷は、まだまだ多量に残る。地雷除去を行う政府のCMAC(カンボジア地雷行動委員会)幹部の多額の汚職。地雷原で、危険の中一生懸命除去に精を出す作業員たちとはうらはらに、エアコンのある安全な事務所で一生懸命CMAC用のお金を自分たちのポケットに入れる幹部たち。寄付は外国のNGOの地雷除去組織、ヘイロー・トラストやMAG(地雷アドバイザリー・グループ)にどうぞ!
横行する汚職

 カンボジアでは、お金が政府に入ると100%汚職につながるようだ。政治腐敗は全世界に見られる光景だが、カンボジアの腐敗は社会の下層から上層へ、上層から下層へ、完全に染み込み、制度化されている。政府の高官が、不法な森林伐採から有毒廃棄物の「輸入」に至るまで、あらゆることを促進することによって何億ドルもかき集めている。国道脇に警官5、6人が臨時の関所を設けては、トラック、タクシーをとめ、運転手からお金を集め、自分たちのポケットに入れる。月給20ドルでは警察官も食べていけないので、立腹もし難い。
 7月に、プノンペンの空港の税関で1日過ごした話を。オーストラリア人の指導でイエズス会カンボジア・サービスは小さい作業所を設け、蚊、しらみ、かいせん(皮膚病)の予防に石鹸をつくる。マラリアにかかって死亡しないようにと(今でもマラリアにかかった人の50%が死亡するカンボジア)。70万円相当の200kgのドラム缶を、そのオーストラリア人が寄付してくれた。このドラム缶を手に入れるために書類作りに3日かけた。現物を手に入れる当日、朝9時から午後5時まで税関で過ごした。
 そこでは6つのデスクを通らなければならないが、その度に賄賂を払わされる。最後のデスクでは、賄賂を払わぬ私は1時間待たされて、後からきた7、8人の人が先に出ていくのをながめていた。この1時間は貴重な体験であった。「百聞は一見に如かず」。この1時間に役人が業者たちから受けた賄賂の金額は150ドル。1日で600ドル、1週間で3000ドル、1ヶ月で1万ドル! 月給50ドルの役人が自家用車や立派な家などを持てる理由が分かった。
三歩前進、二歩後退

 寄付された7000ドルの材料、足りない材料は私たちが求め、カンボジア人の健康と命のためにつくっている、蚊、しらみ、かいせん防止用石鹸。買い手は他のNGO。そのNGOもただでカンボジア人にあげている。製造すればするほど赤字を承知の私たち。そこに1000ドル以上の関税をかけ、その75%が役人個人のポケットに入っていくかと思うとアホらしくなる。
 1997年、国際通貨基金は、森林伐採で年間1億ドル以上の国家に入るはずの収入が、数人の高官のポケットに入っている事実を知って、事務所をたたんでカンボジアから出ていった。国民の75%が賄賂を当たり前とし、60%が選挙の票買いを当然と見ているという。
 国家予算の1%も教育に充てていないカンボジア。国民の60%が小学校も卒業していない。月給20ドルの教師職に、誰がなりたいだろうか。たまたまカンボジアにいるのでカンボジアについて書いたが、全世界の80%の人々が貧困にあえいでいる。将来への夢と希望を持って、三歩前進、二歩後退しては、また三歩前進している私たちだ。
みんなが良くならなければ…

 「冷たい戦争」は終わったのに、なぜ世界のあちこちで戦争があとをたたないのだろうか! ジェット戦闘機から弾丸に至るまでの武器生産、すなわち軍事産業の利潤の大きさが莫大なためだろう。
1997年には800億ドルの武器が生産されたという。そのうち130億ドルあれば全世界の人々に雨をしのげる家、公共の下水道施設が作れるとか。世界の平和は、一人ひとりの人間が雨風をしのげる家を持ち、最低限度の栄養がとれる食べ物が口に入り、字の読み書きができるような社会に住めて、はじめて実現するだろう。
 「私さえ良ければ、家族や親戚さえ良ければ、自分の社会が良ければ、自国が良ければ」と一人よがりでおわらず、「自分が良ければ、他の人も良くなるように、自国が良ければ他の国も良くなるように」と努力するのが、富める国の人々の人間的義務ではないのかな? 
 それにしても、悪い指導者がいる国は援助の効果が薄い。皆さんの暖かいご支援、勇気づけ、ご寄付があってこそ、私が他の貧しい人々のために奉仕することができるのです。心から感謝します。同封の写真のコピーは、地方の典型的な家です。こんな傾いた家を、334ドルで新しい家に建て替えられます。皆さんのご寄付で、こんな雨漏りしない家を作ってあげているのです。


2000年が良い年でありますように。
紘子
レノンペンにて
1999年クリスマス