『傷つけられた世界を癒すために―3・ 11後に日本で環境・原発問題について考える』(イエズス会社会司牧センター編 教友社発行)

本書は、イエズス会社会正義とエコロジー専門委員会によるドキュメント『傷つけられた世界を癒す』(2010)を中心として、特に「3・ 11」という日本社会に与えられた「時のしるし」から環境・原発・エネルギー問題を考えるための資料集です。  現代のイエズス会は、自らのミッションを「信仰への奉仕と正義の促進」(第32総会〈1974~75年〉第4教令)であると定義してきましたが、「正義の促進」は、近年その意味を拡げています。

人間の尊厳が圧迫される不正義の状況は、社会の仕組みだけではなく、より広く地球の自然全体にかかわるエコロジーの問題として考えねばならぬと意識されるようになりました。イエズス会の旧「社会正義事務局」も、「社会正義とエコロジー事務局」とその看板を変えました。  そして「3・11フクシマ」は、イエズス会の第35回総会が見出した三重の目標「神との和解」「人間相互の和解」「創造との和解」をことごとく断ち切る出来事でした。これにより、日本社会が見てこなかったこの三重の和解の欠如がもたらす弊害を暴露されたと思います。すなわち、私たちの人間が自然の支配者であろうとする過信は、「原子力村」と揶揄される弱い地域と人間の犠牲の上になりたつ不公正な閉鎖構造を生み出し、その結果、健やかに育つべき若いいのちや大地と海を汚され、福島に住む人々の生活は傷つけられ、破壊されました。  日本カトリック司教協議会は、2011年11月8日に『いますぐ原発の廃止を~福島第1原発事故という悲劇的な災害を前にして~』とのメッセージを発表しました。これを受けて私たちが、創造信仰と人類の子孫に負う倫理的責任において、これからの環境、原発、エネルギー問題のあり方を識別するために、この資料集は大いに役に立つでしょう。

 (書評:光延 一郎)

 

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