「京浜便り(37)」 静かなスタート 【社会司牧通信154号】

阿部 慶太(フランシスコ会)
 春は、新たなスタートの季節です。小学校ではピカピカの1年生、会社では新卒の社会人1年生、教会も、復活祭に受洗した兄弟姉妹を迎える季節です。そのため春は、この希望に満ち、新たなメンバーを迎えてにぎやかな雰囲気のイメージがあります。
 さて、海の向こうでは、音のない世界から新たにスタートを切る準備をしている子どもたちがいます。フィリピン・サマール・カルバイヨグ市のフランシスカン・デフセンターでは、聾者の子どもたちが、小学校から大学までの聾のクラスに通うため在籍しています。
 このセンターでは、日本人の佐藤宝倉(ほうぞう)神父(フランシスコ会)が奉仕しています。毎年、数名の子供たちがこのセンターで新たな生活を始めますが、フィリピンは胎性風疹が原因で生まれながら聾者になる子どもたちが多く、街から離れた場所に住む子どもたちは、学校にも行けず、手話も全く分からないで、家の中で体力の続く限り家事手伝いをするしかない状況です。佐藤神父はそうした家庭を訪問し、家族と話し合い、センターでの生活をスタートさせることに尽力してきました。
 その尽力のかいもあって、サマール・カルバイヨグ市内にあるクライスト・キング・カレッジの付属小学校・高校に聾者のクラスが設けられ、そこで高校卒業の資格を取得し、さらに勉強を続ける学生は、聾者を受け入れてくれる大学に進学します。このクライスト・キングの付属小学校・高校に入るためには、ある程度のレベルをパスする必要があるので、子どもたちもある程度の基礎学力などが必要になりました。
 2年ほど前から、小学校に入る準備をする就学年齢の児童を対象に、リテラシー・クラスという教室を始めています。確かに、6歳、7歳、また、ある子どもは10歳くらいまで、学校で集団生活をしていなかったり、授業というものをまったく受けていなかったりするので、すぐに授業や学校生活をするのは難しいものがあります。
ですから、基本の基本を身につける必要があるので、このクラスが開設されたのです。
 私が初めてこのセンターを訪問したのは、今から5年前の2005年でした。そのときセンターはまだ古い建物で、山間部からやってきた1年目の子どもたちは、自信がないせいなのか、引っ込み思案な感じで、手話のコミュニュケーションも不十分な印象を受けました。それから、数年後、当時の1年生たちは手話も上達し、寄宿生活にも慣れ、下級生を指導する立場になっていました。訪問した私にも、手話でコミュニュケーションをとろうとして、私に手話のA.B.C.を教えました。ずいぶん成長するものだと感心しました。
 このセンターでは、手話のミサや祈り、ミーティングも行われますが、すべてが手話のため、手の音や衣擦れの音以外は聞こえません。つまり、日常の生活は静かな、ほとんど音のない中で行われるわけです。本人たちも音が聞こえません。スタッフは聾でない人もいますが、外部と連絡する以外はすべて手話です。
 さて、リテラシー・クラスの子どもたちは、手話によるA.B.Cや簡単なコミュニュケーションを覚え、勉強の仕方、そして、整列や先生の指示にあわせて動くことを、時間をかけて身につけると、新学期に1年生としてスタートを切ります。去年出会った子どもたちも、いよいよ新しいスタートを切りますが、音のない手話での挨拶からの静かなスタートです。
 
 
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