[映画]ずっとあなたを愛してる 【社会司牧通信153号】

映画
http://zutto-movie.jp/
 
 舞台はドイツ国境に近いフランスのロレーヌ地方。6歳の息子を殺した罪で、刑務所で15年服役して、出所した40代の美しい女性が、暗い眼差しでタバコを吸いながら、誰かを待っている。そこに現れた30代はじめの女性は、15年ぶりに会う妹だ。二人はおずおずと抱き合う。妹は、姉が仕事を見つけて落ち着くまで、自分の家に引き取るつもりだ。
 映画は、姉妹の暮らしを淡々と描きながら、二人をとりまく環境の複雑さを明らかにする。二人の両親は、姉が逮捕されて以来、彼女との接触を一切断ってきた。数年前に父親が亡くなって以来、母親は認知症の兆候が出始め、今は施設で暮らしている。イギリス出身の母親は、時どき英語を口走る。妹夫婦には子どもがなく、ベトナムから二人の女の子を養子にしている(妹が子どもを産みたくないのは自分のせいだと、姉は感じる)。妹の夫の父親は、第二次大戦中にポーランドからフランスに逃れてきた。病気で倒れてからは、口がきけない。
 息子殺しという罪を犯した主人公に、周囲の目は冷たい。最初に面接を受けた工場の社長は、彼女が息子を殺したと聞いたとたん、「出て行け」と怒鳴る。妹の夫でさえ、「家政婦が休みなので、姉に子守を任せた」と言われて、「自分の息子を殺した人に、子守を任せるなんて!」と怒り出すのだ。
 だが、息子を殺してしまった自分を誰よりも許せないのは、主人公自身だ。彼女は自分を罰するかのように、固く心を閉ざしている。その殺人には、実は悲しい事情があったのだが、主人公は裁判でも何も言わず、妹に対しても打ち明けようとしない。いつも暗闇を見つめているような、主人公の空虚な眼差しに、彼女の深い絶望が感じられる。
 その一方で、彼女を温かく迎え入れる人たちもいる。妹の娘たちは、突然現れた無愛想な「おばさん」に戸惑いながらも、明るく話しかけて、次第に主人公の心を開く。妹の夫の父親も、口がきけないが、いつもニコニコして自室で本を読んでいて、本好きな主人公はたびたび彼の部屋を訪れる。妹の同僚の大学教員は以前、刑務所で教師を務めていたことがあり、主人公の境遇に理解を示す。妻を事故で失った彼は、やがて主人公に行為を抱くようになる。また、2週間に一度、所在を届け出るために出頭する警察署の警察官は、妻と離婚して、娘と離ればなれで暮らしている寂しさから、主人公と会うたびに身の上話をする。カナダの大河オリノコ川に行くのが夢だという彼は、ある日、主人公に、「とうとうオリノコ川に行くことにした」と打ち明けるが、その直後に自殺してしまう。
 それぞれに心の傷を抱えながらも、主人公に温かく接する人々とふれあいながら、主人公は次第に心を開いてゆく。その過程で、主人公の表情が次第にやわらかくなっていくのが印象的だ。そして最後に、妹に殺人の事情を打ち明け、抱き合う主人公の目から、ようやく一筋の涙が流れ落ちる(それまで主人公は、感情が凍り付いたように、決して涙を見せなかったのだ)。そして、家を訪ねてきた妹の同僚が、「どこにいるの?」と呼びかけるのに対して、「私はここにいる」と、何度も何度もつぶやくのだ。
 私たちは罪を犯した人、殺人を犯すような人は、怪物だと思い込む。でも、彼らの中にも人間らしい心はある。去年の12月に来日した、韓国の李神父(前ページ参照)は、矯正プログラムを受けて、笑顔を取り戻した死刑囚たちの写真を見せて、何度も言った。「どうです、彼らが怪物に見えますか? 死刑囚でもこんな笑顔になれるんですよ」。彼らはボランティアたちの奉仕によって心を開き、人間性を回復した。人は人と出会うことによってのみ、変わることができるのだ


【 社会司牧センター柴田幸範 】
 
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