「京浜便り(35)」 近くて遠い韓国で 【社会司牧通信152号】

近くて遠い韓国で
阿部 慶太(フランシスコ会)
 私事で恐縮ですが、最近、修道会(フランシスコ会)のJPIC(正義と平和と被造物の保全)委員会の日韓合同会議のため韓国・ソウルに行きました。会議のほかに北朝鮮との平和問題、歴史認識、社会問題の現地研修も行われました。
 韓国は訪れるたびに、街の様子が変わっています。毎回驚くのは、歴史施設や観光地の日本語表記が増えていることです。日本からのツアーや日本語を話す観光案内所のスタッフも多く、ハングルの看板などがなければ、日本のどこかの都市と錯覚しそうな場所さえあります。
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 さて、今回の合同会議の中で、改めて驚いたのは、憲法9条改正反対の動きと、新しい政権のマニュフェストについての関心が高いことでした。反面、日本の憲法9条改正反対の動きには賛成でも、韓国の政府に対して憲法9条のような平和憲法を取り入れるように要求できない国の事情についても説明を受け、南北問題が難しいこの国の状況を理解することができました。また、お互いに本音で話し合うことや、交流会の時間などで会話も弾み、楽しい時間をすごすことが出来ました。
 しかし、南北の平和問題や歴史認識についての現場研修では、近くて遠いといわれる日韓の違いをもろに感じてしまいます。日本語で、いわゆる従軍慰安婦問題といわれている挺身隊問題では、今も毎週水曜日にソウル市内の日本大使館前で「水曜集会」というデモが行われていますし、日本の対応だけでなく、韓国政府の対応についても訴えが続いています。こうした問題が起こる背景には戦争がありますが、軍事と女性の人権問題がセットになっていることも、今回感じたことです。
 韓国にも沖縄のように米軍基地があります。現在、韓国内には96箇所、軍専用施設があると言われ、その多くは、旧日本軍の軍事基地だったところです。米軍は「日本から接収した土地であるので、韓国に返す義務も必要もない」と言っています。
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 朝鮮戦争の最中、1950年の7月に大田(デジョン)協定(正式名称:駐韓米国軍隊の刑事裁判権に関する大韓民国と米合衆国間の協定)が締結され、その後、韓米安保条約が締結されます。
しかし、韓国に駐留する米軍の「治外法権」ともいえる状態が持続されることになります。女性への暴行などの事件も多くそのたびに、沖縄と同様に、「国家の安全」という大義名分の影で忍耐を強要させられてきました。
 そんな中で、1992年に尹今伊(ユン・グミ)という基地で働く女性が、米軍人によって無惨に虐殺され、その犯人の米軍人は、韓国側の調査もできないまま、韓米駐屯軍地位協定によって保護されました。その事件が発端となって、国民の積もり積もった反米軍感情が爆発し、1993年「駐韓米軍犯罪根絶運動本部」が結成された頃から、韓国側の米軍駐留についても、次第に国民の意識も変化しつつあります。
 しかし、それでも北の脅威から、非武装・反米軍基地を国民全体が叫ぶことの出来ない現状があります。韓国は、北朝鮮という国と非武装地帯をはさんで、いつ有事になっても対応できる体制になっています。それだけ至近距離に北朝鮮があり、そのことを常に感じることができるからでもあります。
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 北朝鮮と韓国の国境周辺にある統一展望台付近の案内してもらい、説明を聞きながら、日本国内に米軍基地があるにしても、国が常時脅威にさらされていることを意識して生活することはないことや、徴兵制度がない点で、大きな違いを感じざるを得ませんでした。まだまだ、韓国は近くて遠い国だな、と感じながら、展望台から見える北朝鮮の景色や、監視のための軍事施設を眺めていました。



 
 
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