『社会司牧通信』150号 / イエズス会社会司牧センターのいま【社会司牧通信150号】

『社会司牧通信』150号
イエズス会社会司牧センターのいま
 
イエズス会社会司牧センター・スタッフ一同
 「社会司牧通信」は今号で150号を迎えた。2ヶ月に1回の発行だから、創刊からちょうど25年になる。A4判でわずか8~10ページの小さなニュースレターだが、そこにはイエズス会社会司牧センターの28年の歴史のエッセンスが詰まっている。社会司牧通信の歴史を振り返りながら、センターの現在の活動全体をご紹介したい。

社会司牧通信150号
 1981年4月、イエズス会社会司牧センターが、現在の新宿・河田町に設立された。2006年7月には、四谷のカトリック麹町(聖イグナチオ)教会ヨセフホールで、25周年記念講演会・交流会を開催し、翌2007年6月15日には『設立25周年記念誌1981-2006』を発行した。この記念誌から、「社会司牧通信」の歩みを振り返る。
 実は、81年4月のセンター設立にさかのぼること4ヶ月前、1980年12月に、すでに「社会司牧通信」の前身、Social Apostolic Letter(SAL)が発行されている。「25周年記念誌」から引用する。

 Social Apostolic Letter:SAL
 設立されたセンターの最初の仕事は、管区の会員に直接届くコミュニケーション・システムの確立だった。ヴェクハウス神父のイニシアティブで1980年12月6日、Social Apostolic Letter(SAL)の発行が始まった。SALは当初、月1回発行され、日本管区の社会司牧センターの活動を会員に知らせた。管区長は、安藤勇、林尚志、久我純彦、リントホルスト、薄田昇、山田経三の6人からなる特別な委員会を設置した。委員会はヴェクハウス神父を補佐して諸問題を討議し、SALの内容をはじめ、社会使徒職のさまざまな問題についてアドバイスした。
 SALは6つの分野をカバーした。①論説/現代の社会問題、②管区の会員から出された質問に対する管区長からの回答、③『私たちは何をしているか』=社会使徒職で働くイエズス会員からの短い報告、④『私たちは何をすべきか、何ができるか』=意見と提案、⑤『私たちは何をすべきか、何をやめるべきか』=意見と提案、⑥新しい問題、統計資料、センターの活動など。SALは1983年3月31日、第29号で終刊し、84年5月、社会司牧通信として再出発した。(11ページ)
 ヴェクハウス神父は「社会司牧通信」の発刊前にドイツに帰国した。その後、所長が安藤神父に代わり、84年にセンターで勤め始めた柴田幸範が編集に携わって、「社会司牧通信」が発刊した。再び、「25周年記念誌」からの引用。

 社会司牧通信(Social and Pastoral Bulletin)
発刊(1984年5月)
 SAL(Social and Pastoral Bulletin)にかわって、B5判(92年9月からA4判)8~12ページ、隔月刊、日本語と英語で発行。SALがカトリックの社会教説や神学的考察を中心としたのに対し、社会司牧通信は、特に90年代以降、カトリック内外の社会運動の現場からの情報を柱としてきた。(16ページ)

 それ以来、「社会司牧通信」は25年間、休むことなく発行されてきた。「社会司牧通信」は原則として日本管区のイエズス会員全員に無料で届けるほか、海外のイエズス会の社会使徒職関係者や、センターの活動に協力してくださる方々に贈呈している。また、購読料(年6回発行で送料共1200円)を支払って購読してくださる方もいる。読者数は、2009年6月12日現在で475人(日本語338、英語137)、うち有料購読者は98人となっている。
 「社会司牧通信」はイエズス会社会司牧センターの活動や理念を一般読者に伝える一方、日本や世界の社会問題を、日本管区をはじめ世界のイエズス会員に伝える、「情報の窓口」の役割を果たしてきた。現在は、イエズス会社会司牧センターのホームページでも、98年以降のバックナンバーを閲覧できる。

センターの目的とネットワーキング
 センターの活動は、日本のイエズス会社会使徒職のさまざまな側面を証している。私たちは、イエズス会のアイデンティティに合致した活動を選択している。イエズス会社会使徒職は、人々が神の似姿としての尊厳と自由を享受し、差別されることなく平和に生きることができる健全な社会秩序、人々が人間として成長し、社会の向上に貢献できるような社会秩序の建設に、深く参与している。他方でイエズス会は、信仰への奉仕と正義の推進を、イエズス会の優先的なミッションと定めており、社会の貧しい人々を優先的に選択することを強調している。
 センターの活動の一つの柱は、ネットワーキングだ。私たちはローマのイエズス会社会使徒職事務局や、東アジア・アシスタンシー(イエズス会管区連合)の社会使徒職ネットワークとの協力を重視している。かつてSELA(Socio Economic Life in Asia:イエズス会アジア社会経済委員会)が存在した頃、当センターは事務局をつとめるなど重要な役割を果たしていたし、現在でもイエズス会難民サービス(JRS)アジアに協力している。また、日本国内をはじめ、アジア諸国で、難民・移民支援、反貧困、人権擁護、死刑廃止、地雷廃絶などの活動をしている市民団体と、常にオープンに協力している。
 センターはイエズス会員や他のグループと協力して、私たちが直面する現実を注視し、分析して、自らの限界を自覚しながら、どう行動することが適切かを模索している。

AIA:足立インターナショナル・アカデミー
 足立インターナショナル・アカデミー(AIA)は、東京郊外に設けられた、在日・滞日外国人のための小規模な学校だ。その設立の背景には、イエズス会社会司牧センターが長年続けてきた、在日・滞日外国人への支援活動の経験がある。イエズス会社会司牧センターは発足当初から、タイの難民キャンプや日本に避難してきたインドシナ(ベトナム・ラオス・カンボジア)難民への関わりを、優先課題としてきた。その後は、在日・滞日外国人への支援が当センターの関心事となった。日本の市民団体やキリスト教団体も次第に、難民や滞日・在日外国人の司牧や法律問題、シェルター(一時避難所)や健康相談、家族問題など、さまざまな分野で積極的に活動するようになってきた。他方、慢性病など特に注意が必要な問題に関して、日本語を習得することの難しさからくる、コミュニケーション手段の欠如が問題となってきた。こうした問題は、国籍を問わず、あらゆる在日・滞日外国人に共通の問題であるにもかかわらず、地方自治体や教会での無償の日本語学習プログラムはきわめて少なく、問題の解決にはほど遠い。私(安藤)自身、かつて東京・足立区の梅田カトリック教会で、日曜ごとに日本語をボランティアで教えていた。それだけでなく、アパートを借りる手続きをはじめ、あらゆる問題に関して支援するグループの事務局メンバーをつとめてきた。
 ある日曜、二人のフィリピン人が相談に訪ねてきた。雇い主が月曜から仕事に来なくていいと言ったそうだ。クビになったのだ。だが、彼らはどちらもクビになった原因に見当がつかなかった。彼らに、何か書類はもらわなかったか尋ねると、彼らは自分たちが署名した一枚の書類を見せた。彼らはそこに書かれた日本語を読めなかったが、雇い主はこう書いていた。「私、署名人は、○月×日(月)から、当社を辞めることに同意します」。彼らは汚いペテンでクビを切られたのだ。
 これは、何十万という滞日・在日外国人が十分な日本語教育を受ける必要を示す、一つの例に過ぎない。大部分の外国人は日本語学校に行く費用を出せず、教会や自治体の無料日本語教室では、支援にかぎりがある。
 2008年7月6日、足立区梅田の古い日本家屋を借り上げて祝別を受けた後、AIAは正式に運営を開始した。足立区にAIAを設けたのは、この地域に多くの滞日・在日外国人が暮らしているからだ。
 4つの修道会がこのプロジェクトに賛同し、信徒メンバーと共に運営にあたっている。実際、この学校というより「寺子屋」は、9月に13人の子どもたちが登録して始まった。AIAは午前10時半から午後8時半まで、いつでも生徒を歓迎している。高校までの子どもたちと大人向けの日本語クラスの他、英会話や算数、コンピュータのクラスもある。授業方法は一対一で、生徒の時間の都合と関心のあるテーマを一番に考えているため、たくさんの先生が必要だが、財源が限られているので、ボランティアに頼らざるを得ない。
 他方で、運営に携わっている修道会は、修道者や、修道会が経営している大学の学生を、ボランティアとして派遣することに同意している。AIAの事務局の主な仕事の一つは、毎日のボランティアと生徒を確認して、クラスがスムースに運ぶようにすることだ。生徒には、ボランティアの交通費を補助するために、毎月低額の会費を支払うよう求めている。
 この11ヶ月で、生徒の数は延べ2,203人に上っている。登録しているボランティアは約50人で、半分が学生、14人が修道者、10人が一般の人だが、そのうち実際に働いているボランティアは35人で、17人が学生、10人が修道者、8人が一般の人だ。


ジャパ・ベトナム(日本ベトナム民間支援グループ)
 ジャパ・ベトナムは、イエズス会社会司牧センター所長の安藤神父を代表に、1990年に発足した市民団体だ。事務局をイエズス会社会司牧センターに置き、柴田が事務局員をつとめている。他に5~6人のボランティアが、月1回のミーティングやイベントに参加している。
 ジャパ・ベトナムは、約300人の会員からの寄付によって、ベトナムの市民が行う草の根開発プロジェクトに支援している。プロジェクトの内容は、農村では橋造りや井戸掘り、「牛銀行」や養豚プロジェクト、識字教室の建設、診療所の建設や運営費援助など:都市部では、ストリート・チルドレンやスラム居住者、HIV/AIDS感染者の自立プログラムを支援している。支援額は年間約250万円で、平均3000ドルを8ヶ所程度に支援している。
 活動は年1回のベトナム訪問、年2回の会報発行、年1回の総会・ベトナムツアー報告会、年1回のチャリティ・コンサート、年2回のバザーなど。今年も7月30日~8月15日、安藤神父と柴田がベトナムを訪れる予定だ。また、10月末か11月はじめには、総会・ベトナムツアー報告会兼チャリティ・コンサートも開催する予定だ。


「死刑を止めよう」宗教者ネットワーク
 「死刑を止めよう」宗教者ネットワークは、死刑に反対するカトリック・プロテスタント・仏教・神道など、超宗派の団体・個人が集まったネットワークだ。2003年にイタリアのカトリック社会団体、聖エジディオ共同体が東京で開催した死刑廃止セミナーをきっかけに発足した。当初はアムネスティ・インターナショナル日本に事務局を置いていたが、2008年からイエズス会社会司牧センターに事務局を移し、柴田が事務局員を務めている。
 実は、その6年前、1997年にセンターが行った地雷廃絶キャンペーンで、カトリック・プロテスタント・仏教という超宗派の協力関係が生まれた。それが後の2001年には、死刑囚の絵を展示する「いのちの絵画展2001」という別の形で発展する。こうした経験が、「死刑を止めよう」宗教者ネットワークの事務局としての働きに生かされている。
 「死刑を止めよう」宗教者ネットワークは現在、カトリック、プロテスタント(日本キリスト教協議会)、真宗大谷派、天台宗、生命山シュバイツァー寺、大本など5~6教団を中心に、年2回の「死刑廃止セミナー」、年1回の「死刑執行停止を求める-諸宗教の祈りの集い」、死刑執行停止を求める署名、死刑執行抗議声明などの活動を行っている。
 「死刑を止めよう」宗教者ネットワークでの経験や人脈から、柴田は最近、カトリック正義と平和協議会死刑廃止を求める部会の立ち上げに参加したり、死刑に反対する市民団体が新たにスタートさせた「死刑に異議あり!」キャンペーンに参加するなど、ネットワークを広げている。

「心の悩み」タスク・チーム
 イエズス会社会使徒職委員会は2004年10月、日本管区の全イエズス会員を対象に「社会問題に関するアンケート」を実施し、優先課題として浮上した三つの問題-移民・外国人労働者、グローバル化と貧困、現代の日本人の心の問題-のそれぞれに、タスク・チームを組織して取り組むことになった。
 「現代日本の心の悩み」タスク・チームは、英・吉羽・松井の3人のイエズス会員に、柴田ら信徒・シスター4人を加えた7人で、2005年に、「心の悩み」に関するイエズス会員向けの追加アンケートを実施し、十数回にわたるミーティングを経て、下記のような基本方針を確認した。

理論や考察だけでなく、現場や個別の当事者への関わりが不可欠だ
問題点の指摘だけでなく、生き生きした成功事例を紹介する必要がある
原因を個人の資質に還元するのではなく、人々を生きづらくしている社会のゆがみを明らかにする必要がある
 こうした視点から、チームのメンバーが執筆を分担して、2007年4月に冊子『心の悩みを受けとめるために』を、3回に渡って印刷し、延べ1700部を発行した。キリスト教的視点から心の悩みを考えるこの冊子は、カトリック教会の関係者に好評を持って迎えられた。
 冊子の発行後、しばらくはタスク・チームの活動を休止していたが、2009年5月から英・吉羽・柴田の3人で活動を再開した。今後は、「心の悩み」に関する入門セミナーのような、実践的な活動をめざして、準備を重ねていく予定だ
カンボジアの友と連帯する会(通称:かんぼれん)
 かんぼれんは、2003年のカンボジア・スタディー・ツアーに参加したメンバーの総意によって誕生した。代表はボネット神父で、このセンターに事務局を置き、300人余りの会員が支えている。現地のカウンターパートは、イエズス会サービス・カンボジア(JSC)で、特にタイ国境近くのシソポンの活動を中心に協力している。
 かんぼれんは、次のことを大切にして活動している。
 ●物質的な支援のみでなく、教育・保健活動・農村開発など、「人間を中心とした」活動を支援し、カンボジアの友と連帯していくこと、●少しでも会員自らの消費を減らして、その分を支援に当てること、●少しでも自らの時間をかけて、カンボジアの友の状況を知るようにすること、このため、毎年カンボジアへのスタディ・ツアーを行っている。
 これまでの支援は、地雷被災者家族への家造り、村の共同のため池、15ヶ所の移動図書館、学校や学習センター建設、学校のベンチ付の机、学校のトイレ、車椅子、牛銀行、井戸、その他教材や備品・教師の給料の一部などで、当事者もできる限り貯めたお金や労働力を提供する。支援プロジェクトは現地を訪ね、当事者や現地JSCスタッフとよく話し合って決める。翌年にまた訪ね、かんぼれん会員に、年1回の報告会や、年2回の会報で報告している。
 スタディ・ツアーは、支援先への道路事情も考慮し、毎年2月頃の乾季に9日間実施。支援先やJSC障がい者の為の職業訓練校や子どもの家などのプロジェクトだけでなく、プノンペンではポルポト時代のキリング・フィールドや強制収容所跡見学、難民家族訪問、シエムレアプでもJSCの幅広いプロジェクトを訪ね、地雷除去NGOでも話を聞き充実。最終日にはアンコール遺跡観光も組まれている。社会人や学生合わせて10名程で、バン1台で移動する。

ソマリア難民家族を訪問、ツアーで
セミナー「アンソレーナさんと開発を語ろう」
 1994年に始まり、毎年4~7月に、月1回開催している。今年は岐部ホールで、「貧困者と支援者による居住運動30年の歩み」というテーマで、フィリピン、アフリカ、インドシナ半島、パキスタンを各回取り上げて、居住運動の歩みを振返り、その発展状況や今後の展望について紹介している。
 アンソレーナ神父は長年、世界中の途上国の貧困者を訪問し、人と技術を交流している。居住環境改善に取組む住民組織やNGOsを支援し、政府をも巻き込みながら、貧困者の自立を願って尽力している。毎年ほぼ半年間、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカ各国を訪問し、その豊富な経験から、毎回新しい切り口で報告している。

セミナー「社会に響く、教会の声
      ~カトリック教会の考え、社会問題について~」
 2007年に始まり、昨年からは、麹町聖イグナチオ教会と共催して、信徒会館で開催している。現代の、私たちの身の回りの社会問題からテーマを取り上げて、ボネット神父がコーディネートの中心となり、主にイエズス会神父が講師になって輪講で行っている。
 まず、そのテーマの現状を報告し、次の回でそれについてカトリック教会がどのように考えて、声を発しているのかを紹介している。今年のテーマは、大きく4つで、①「貧困と戦争、日本の貧富の格差」→「カトリック教会による現状告発と呼びかけ」、②「人権の歴史、その光と影」→「人権とカトリック教会、教会の社会教説と平和」、③「日本の労働の現状、外国人・非正規労働者から見えてくること」→「働くことの意義と働く人の権利、ヨハネ・パウロ2世『働くことについて』」、④「人殺しの3種類-殺人・戦争・死刑-」→「教会の声『死の文化』・『いのちの文化』」。
 参加者はカトリック信徒だけでなく、様々な人が集まり、時間のゆるす限り質疑や意見を交換するようにしている。

 
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