[報告] 地域の教会はいま/柴田幸範(イエズス会社会司牧センター))【社会司牧通信149号】 |
|
||||||||||
柴田幸範(イエズス会社会司牧センター) | ||||||||||
私は東京教区のある教会で教会運営委員をつとめて、今年で4年目になります。私はふだん、日曜の朝早いミサ(7時30分)に出ているので、自分の教会のことを、実はあまりよく分かっていませんでした。しかし、この3年あまり運営委員として働いてきて、自分の教会が抱えるさまざまな問題について理解を深め、そうした問題は、日本各地の教会にも共通するものだと実感するようになりました。 そこで、私の教会の現状と問題、そして教会の取り組みを皆さんにご紹介したいと思います(なお、諸般の事情から、教会名や地名は仮名とさせていただきますので、ご了承下さい)。
この広い地域に信徒数は約1000世帯・2000人と、東京教区でも五本の指に入るような、大きな教会です。これほど教会の規模が大きいにもかかわらず、助任司祭がいたのは、一昨年から今年にかけての2年間を含めて、合計で4年あまりに過ぎません。以前は東京教区の神学生や助祭が手伝いに来てくれていましたが、神学生不足の現在はそれも難しいようで、4月からはまた、司祭一人になりました。
土地代と建設費は合わせて3億円にもなり、東京教区から借りたお金を30年がかりで返しています。しかし、教会維持費や建設協力金を支払っているのは、信徒全世帯の6割に過ぎず、しかもその割合は年々減っています。 |
「督促状を出そう」とか、「自動引き落としを導入しよう」とか、いろいろなアイディアは出ますが、特効薬はなさそうです。
一方、運営細則では、結婚式や葬儀、教会の建物管理や資料管理、納骨堂の管理運営など、細部にわたる規則が定められました。これによって、従来は習慣的に処理されていたさまざまな事柄が明文化され、手続きや責任の所在がはっきりしました。 こうした一連の規則の検討を通して、教会がいかに広い分野にわたって活動してきたか、それにもかかわらず、教会の組織整備がいかに遅れていたかを、改めて痛感させられました。 |
|||||||||
|
||||||||||
典礼グループとは、ミサの先唱、朗読、聖歌隊をはじめ、結婚式や葬儀の奉仕者、教会案内係や外国人の世話係など、典礼活動を支える活動。 信仰養成グループとは、入門講座や聖書研究会、カテキズム(教理の勉強)、教会学校などです。 管理グループとは、教会の受付・事務、会計、建物や設備の管理、教会ニュースやお知らせなどの広報活動が含まれます。 そして、もっとも広範囲にわたるのが奉仕グループです。ここには、壮年部から高齢者の会、病院訪問や高齢者訪問の会、売店やコーヒーショップ、マイカークラブ(駐車場管理)、一粒会(東京教区の召命促進)、手話の会、精神障害者の家族の会、バザー委員会など、あらゆる年代や活動内容のグループが20近くあります。 これら4グループには、それぞれ担当の運営委員が付いて、日常的な連絡に当たるほか、年2回、各奉仕活動部の代表が集まって、活動の現状を報告します。こうした奉仕活動部からの現状報告には、教会が抱える悩みが具体的に現れています。
そこで、何とか地域活動を活性化しようと、司牧委員会を中心に、地域活動のビジョンについての話し合いが始まりました。ところが、その矢先に主任司祭が交代し、しかも助任司祭がいなくなってしまいました。この広い地域をたった一人の司祭で司牧するのは、いくら車があっても難しいことです。まさに、信徒一人一人が宣教司牧の担い手となることが求められているようです。 |
こうした少子高齢化と同時に問題なのは、働き盛りや子育て真っ最中の信徒が、教会活動になかなか参加できないことです。運営委員会や各奉仕活動部でもメンバーの高齢化が進み、「世代交代」が求められていますが、世代交代が実現したのは、司祭がメンバーを指名できる運営委員会ぐらいです。多くの奉仕活動部では、30~40代の信徒は仕事や子育てに忙しくて活動に参加できなかったり、ベテランのメンバーとの間で価値観に違いがあったりして、世代交代はなかなか進みません。 私は個人的に思うのですが、日本社会全体がこれだけ高齢化しているのですから、無理に若い人中心にせず、ベテランの方々が現場の先頭に立って、引っ張っていってもよいのではないでしょうか。
こうした多国籍化に対応して、これまでも月1回、ポルトガル語のミサが行われてきましたが、昨年からは月1回、フィリピン人の司祭を招いて、英語のカテキズムも行われるようになりました。また、昨年のバザーには、ブラジル人やフィリピン人の信徒が実行委員会に加わって、多国籍なバザーが実現しました。さらに、今年の1月には市民団体の主催で、N教会を会場に外国人無料健康相談会が開かれ、教会の信徒も多数ボランティアとして協力しました。 |
|||||||||
|
||||||||||
このように外国人向けの活動が活発になったのは、昨年度から運営委員会にフィリピン人がメンバーとして参加するようになったからです。外国人信徒はもはや、教会の「お客さん」ではなく、共に教会を運営していく仲間です。外国人信徒が教会運営に参加することは、教会の活動を活性化させるだけでなく、異なる価値観によって私たち自身の信仰のあり方を問い直すきっかけにもなります。
発行再開までの道のりは平坦ではありませんでした。特に問題となったのが、個人情報保護と情報公開のバランスでした。2000人もの大所帯の名簿となると、悪用された場合の危険は軽視できません。かといって、あまりに情報を制限すれば、肝心の教会活動に支障が出ます。運営委員会でも1年がかりで、さまざまな観点から議論しました。 |
結論としては、「私たちは福音宣教をめざす共同体なのだから、最低限の約束事を決めた上で、福音宣教の目的にかなう名簿を作ろう」ということになりました。とはいっても、10年ぶりに2000人の名簿を作るとなると、データの確認だけでも大仕事です。ミサ後に信徒の皆さんに直接、データを確認してもらうほかに、未確認の方には手紙で問い合わせるなど、数ヶ月かけてデータを更新しました。 最終的には7割を超えるデータの確認がとれ、未確認データと合わせて約1000世帯・2000人の名簿が、8ヶ月がかりで完成しました。
実は先日、名簿の完成と「運営細則」の施行を祝って昼食会が開かれたのですが、その席で口々に言われたことは、「名簿づくり」も「規則づくり」も「教会づくり」にほかならないということです。 私たちのN教会は、たしかに大変な努力を払って教会を新築しました。しかし、教会が実際に生き生きと動いていくためには、名簿や規則をつくり、組織を整備する必要がありました。それは、単に形式を整えることではありません。「何のために、どんな規則や組織、名簿をつくる必要があるのか」を議論していく過程で、私たちがどんな教会をつくりたいのかが明らかになってきたのです。それこそが信徒による福音宣教の第一歩です。 東京教区の宣教協力体(3~4教会が協力して宣教司牧に当たる体制)というやり方は、少なくとも私たちの教会が属する宣教協力体ではうまく働いていません。規模も違えば、歴史も地域事情も異なる教会同士が協力するのは簡単ではありません。でも、各教会の信徒が自分たちの手で教会をつくりあげていこうという熱意を失わないかぎり、協力の可能性は閉ざされることはないと思います。教会とは「与えられる」ものではなく「つくりあげる」ものだということを、私はこの3年間の運営委員の仕事を通して学びました。 |
|||||||||
===== Copyright ®1997-2007 Jesuit Social Center All Rights Reserved =====
|