「京浜便り(31)」 報道についての識別 【社会司牧通信148号】

阿部 慶太(フランシスコ会)

 2月6日に、四谷の幼きイエス会ニコラバレ修道院において、正義と平和協議主催の講演会「権力と企業とジャーナリズム」(講師・斎藤美奈子氏)が行われ、その中で、報道と権力、企業の力関係、報道側の自主規制についての話がありました。
 興味深かったのは、新聞記事の中でもニュースそのものが正しく報道されていないケースがあることや、新聞記事にならずに埋もれてしまうニュースがあること、新聞記事にならないニュースの中には、権力者側にとって都合の悪い出来事や、広告を提供する企業に不利になるニュースのため掲載されないものがある、という点でした。
 話には聞いていましたが、実例について聞くと「なるほど」という部分がありました。講師の希望により詳細については触れませんが、過去現在にわたり、新聞社などが取材をしているはずなのに、まったく報道されなかったものがあると思いました。

 

 私自身の経験では、平成18年12月15日、新しい教育基本法が第165回臨時国会において成立し、12月22日に公布・施行される前後に、これに反対する動きがあり、国会前に多くの人が詰め掛けてデモを行ったり、日比谷公園で千人以上の反対集会があって参加したことがあるのですが、その日のテレビ・ニュースでも、翌日の新聞でも報道されませんでした。
 また、この2月16日にヒラリー国務長官来日にあわせて、大阪のアメリカ領事館前で「在沖米海兵隊のグアム移転に係る協定」締結への緊急抗議行動というものが行われたり、各地でこうした集会が開かれました。これは、2014年までに海兵隊のグアム移転を完了させるべく、61億ドルもの負担を日本政府に求めるとともに、普天間基地代替施設として沖縄県名護市辺野古への新基地建設を押し進める動きに対して、アメリカ総領事館前その他の場所で、反対のアピールを行う運動です。しかしこうした動きが各地であったはずなのに、翌日の新聞にはそうした記事は見当たりませんでした。
 紙面を飾ったのは、来日したヒラリー米国務長官の明治神宮参拝や皇后との会談、「在沖米海兵隊のグアム移転に係る協定によって日米の関係が強化される」といったものが多く、大手新聞社の記事で協定締結を問題視する記事はほとんどありませんでした。
 しかし、沖縄の琉球新報には次のような記事が掲載され、ホームページで読むことができました。以下に記事をご紹介します。
 県内移設本文に明記 グアム協定、合意推進鮮明に(東京)

 クリントン米国務長官と中曽根弘文外相が(2月)17日に署名する条約「在沖米海兵隊のグアム移転に係る協定」に関し、前文に米軍普天間飛行場移設の日米合意推進が盛り込まれるだけでなく、条約本文でも県内移設実現に向けた両政府の強い意志が表明されることが13日分かった。条約本文にまで盛り込むことで、米軍再編ロードマップ(行程表)のより厳格な実施をアピールする形だ。代替施設の名護市辺野古建設に反対する県民世論の封じ込めや、沖合移動を求める県、名護市の要求を事実上押さえ込む格好ともなりそうだ。
 協定は10条程度。条文では、代替施設の沖合移動を求める地元要望や基地負担軽減には触れない。
 政府は協定の内容について「あくまで日本の財政支出の負担について取り決めることが目的」と説明。だが協定の精神をうたう前文にはグアム移転、普天間県内移設、嘉手納より南の基地返還を「パッケージ」として明記する。(以下省略)
<2009年2月14日琉球新報(那嶺路代)より>

 最近、沖縄の辺野古や高江の基地施設反対運動の現場を視察してきた人の話によると、現地とほかの都府県の情報の差が関心の温度差につながっていることを痛感した、という話を聞きました。
 こうしたことに留まらず、ほかにも多くの重要なことが報道されずにいることがあるのですが、大きく報道されないものの中に私たちの生活や平和に関わる問題があることをもっと意識し、報道されたニュースもよく識別することの必要性を感じました。

 
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