[映画]動物農場 【社会司牧通信147号】


 このコーナーでは、普段からまじめな映画ばかり紹介してきたので、たまにはアニメーションでも見ようと思って、この映画を選んだ。『動物農場』と聞けば、分かる人はすぐに分かると思うが、原作者はイギリス人の作家ジョージ・オーウェル(George Orwell)。1903年にインドで生まれたオーウェルは、その後パリやロンドンのスラム街を放浪する。1936年スペイン市民戦争に参加して、その体験を『カタロニア賛歌(Homage to Catalonia)』として著す。1949年には、政府が市民の生活すべてを支配する超管理社会を描いた『1984年(Nineteen Eighty-Four)』
発表し、全体主義の台頭に警告を発している。
 『動物農場』(1945年)も、単なる子ども向けファンタジーではない。ストーリーは、人間に搾取される農場の動物たちの革命と挫折、そして反革命の物語だが、実はソビエト連邦を描いた寓話だと言われている。つまり、動物たちを搾取する農場主の人間(ロシア皇帝)、動物たちに革命を説く老いた豚(レーニン)、動物たちの先頭に立って革命を率いる若い豚(トロツキー)、彼を追放して独裁体制を敷く悪賢い豚(スターリン)-といった具合だ。
 このアニメーション映画を作ったのは、1940~70年代に、世界的に有名だったイギリスのハラス&バチュラー(Halas and Bachelor Cartoon Films)だが、舞台裏に面白い話がある。当時(1947年)設立されたばかりのアメリカ中央情報局(CIA)が『動物農場』に目をつけ、反ソ連の宣伝に使おうと、この映画制作を企てたというのだ。もちろん、制作者にはCIAの存在は知らされず、CIAは匿名の出資者として何度も脚本の書き換えを要求したため、制作期間は1951年から実に3年にも及んだ。
 もちろん、CIAの意図は別にして、この作品は普通のアニメーション映画としても十分すばらしい。ストーリーはかなり硬派だが、映像や音楽のすばらしさが、オーウェルの原作の魅力を分かりやすく伝えてくれる。シンプルな革命の物語なのに、そこには登場する動物たちの強さと弱さ、気高さとずるさ、喜びと悲しみ、希望と絶望が生き生きと表現されている。なかでも、革命のスローガンを独裁者が次々とねじ曲げていく様子が印象的だ(<>の中が独裁者によって付け加えられた言葉)。


 ●「誰もベッドで<シーツを敷いて>寝てはいけない」(No Animal shall sleep in a bed <with sheets>.)→シーツを敷かなければ、寝てよい。
●「誰も<理由なく>他の動物を殺してはならない」(No animal shall kill another animal <without cause>.)→理由があれば、殺してよい。
●「すべての動物は平等だ。<だがある動物はもっと平等だ>」(All animals are equal, <but some are more equal than others>.)

 最後の文章は文法間違いではない。オーウェル独特の痛烈な皮肉だ。『1984年』では、このように矛盾した二つのことを一つの文章で言い表す表現を「二重言語=ダブルスピーク(doublespeak)」と名付けて、管理社会の重要な特徴としている。たとえば、「戦争は平和である(WAR IS PEACE)」「自由は屈従である(FREEDOM IS SLAVERY)」「無知は力である(IGNORANCE IS STRENGTH)」等々。定額給付金を国民全部にばらまいて、「プライドがある金持ちは受け取るな」と言うのも、同類だろう。
 最後に、なぜ今頃この映画が上映されるのか、ご説明したい。日本屈指のアニメーション作家、宮崎駿(はやお)は、自ら主宰するジブリ美術館(Ghibli Museum)で、世界の優れたアニメーション作品を収集し、紹介している。今回の『動物農場』も、ジブリ美術館が配給しているのだ。この社会司牧通信が発行される頃には、上映は終了していると思うが、おそらくジブリ美術館からDVDで発売されることになると思うので、ぜひご覧いただきたい。
「セレブって豚のことでしょ。今、豚は太っていないんだよね。ジムなんかにせっせと通ってスマートだったりするから」(宮崎駿)

<社会司牧センター柴田幸範>

http://www.ghibli-museum.jp/animal/
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