[インタビュー] ニコラス総長は語る/アドルフォ・ニコラス(イエズス会総長)【社会司牧通信147号】

インタビュー
ニコラス総長は語る
 
アドルフォ・ニコラス(イエズス会総長)
このインタビューは2008年末のイエズス会総長アドルフォ・ニコラス師来日の際に、本紙のために行われた。事前に本紙が送った質問に、総長と社会使徒職事務局のフェルナンド・フランコ師が文書で回答し、その後、12月25日に東京で行われたインタビューで、総長がコメントを補足した(点線で囲んだクリーム色の部分)。
[聞き手:安藤勇(インタビューは英語で行われた)、翻訳:柴田幸範]
 2008年はじめの第35総会以後の、イエズス会社会使徒職の新たな特徴や方針は何でしょう?

 第35総会は、神の国の正義や他文化・他宗教との対話に奉仕する信仰を、言葉で宣言し現実に生きる、イエズス会の関与を再確認しています。その意味で、イエズス会の社会使徒職は昔も今も変わらず、イエズス会のカリスマに根ざしています。

ニコラス総長の会談風景

 しかし、イエズス会が今日直面しているチャレンジによりよく応えられるよう、社会使徒職や他の使徒職を助ける、いくつかの新しい要素があります。イエズス会のミッションは、全世界をおん父へと和解させるイエス・キリストの救いのみ業に共にあずかることです。貧しい人々と共に、貧しい人々のためにイエズス会が行う具体的な活動は、持てる者と持たざる者との間に橋を架けようという試みとして理解される必要があります。この働きはまた、人間を神や被造物と和解させる使命の一部でなければなりません。そこには、社会使徒職、正義のための働きを、人間同士の関係だけでなく、神との関係や被造物全体との関係にも関わる活動の全体として見ていこうという強い意志があります。イエズス会の正義の推進は、人々(の魂)が本当の自分を見出し、たった一つの地球を大切にする使命を見出すよう助ける働きと、深く結びついています。

 社会使徒職でも他の使徒職でも、しっかりした基礎を築くことよりも、「ネットワーク」に新しい重点が置かれています。というのも、貧困や失業、暴力といった諸問題は、どれも世界的に広がっているからです。私たちは「ネットワーキング」によってはじめて、これらの問題に対応できるのであり、また、「ネットワーク」は多方面に渡る解決のチャンスを与えてくれるのです。
 私は、イエズス会の関心事は、周囲のニーズによって変わると思います。イエズス会にとって真の関心事とは、自分自身の関心事ではなく、この世界の関心事-つまり貧困や失業、暴力、教育です。私は、スペインの「キリスト教と正義」センターが最近出した冊子に書かれている「4つの契約(contract)」に大きな感銘を受けました。それは私たちの取り組みに一つのビジョンを与えてくれます。

 1.社会的契約 すべての国家と国民には貧困や失業と闘う義務がある。
 2.自然的契約 私たちは消費主義的な生活で自然を損なってきた。もっと簡素に生活する義務がある。
 3.文化的契約 誰も教育から排除されてはならない。イエズス会的な意味で「卓越した」学校や、学校教育を補完する教育、国家に義務教育を保証させることなどは、イエズス会にとって非常に重要な優先課題である。
 4.倫理的契約 人々をモノではなく人として扱う。道徳的価値や人間性、人生の意味の倫理的再発見。

 社会使徒職に取り組む時は、常にこうしたビジョンに基づいて見直しをするとよいでしょう。

 イエズス会の使徒職全体の中で、社会使徒職に固有のもっとも大事な任務は何でしょう?

 前述のような全体的なビジョンに基づいて、社会使徒職はきわめて多様な状況に、具体的な行動で応えます。問題と対処は多種多様ですが、社会使徒職固有の任務は3つに分けられるでしょう。
1.貧しい人々に寄り添う イエズス会員は昔から貧しい人々や排除された人々に寄り添ってきました。この任務には、大いなる謙虚さと、我慢強く耳を傾ける態度が必要です。ラテン・アメリカやアジアには、先住民族や少数民族に寄り添うイエズス会員がいます。インドでダリット(被差別民)のために働く社会使徒職。貧しく荒廃した都市部で、ドロップ・アウトした青年や非行青年のために働く人。HIV/AIDSに苦しむ女性や子どもたちに寄り添う人。時には、貧しい人々に寄り添う任務が、教育や保健衛生などの社会サービスを提供することによって果たされることもあります。
2.不正の根本原因を分析する 寄り添うだけでは足りません。イエズス会には、「知的な使徒職」を活用して、貧困や排除の根本原因を考察する使命があります。社会研究に携わる社会センターがたくさんあります。社会問題を研究し分析するため、社会使徒職とイエズス会大学の協力もますます盛んになっています。一例を挙げれば、移民、温暖化が貧しい人々に及ぼす影響、開発による強制移住、小規模クレジット組合が農村女性にもたらす成果、食糧安全保障などの分野で、そうした協力が行われています。思うに、イエズス会はこの路線を推し進めて、使徒職の垣根を越えた協力体制を確立する具体的な道を見出す必要があります。ある管区では、社会センターとイエズス会大学の間でネットワークをつくる協定が交わされた例もあります。
3.政策提言 第三の、そしてもっとも重要な任務は、貧しい人々を苦しめるような決定が行われる権力中枢や政府の政策に影響を及ぼすことです。より正確に言えば、「政策提言(advocacy)」と呼ばれるものです。持てる者と持たざる者の間に正しい関係を築く任務は、貧しい人々を苦しめる諸問題や政策に対して、あらゆるレベルで政治的力を持っている人と関わることを意味します。それは、貧しい人々の代わりに行動することではなくて、排除された人々の声が尊敬を持って聞かれるようにすることです。多くのイエズス会員と協働者が、人権擁護のために働いています。今日、アフリカで、ヨーロッパで、米国で、多くの社会センターが、中部アフリカの貧しい人々を搾取する外国企業を監視しています。イエズス会員は、自分たちの土地を守るために闘うアマゾニアの先住民族を支援する、ある重要なグループを支援してきました。また、米国では、貧しい人々の居住権を訴える真剣な取り組みも行われています。ごく最近では、イエズス会員と協働者が政策提言に関する国際会議を開催し、その成果が期待されています。
 今日、「政策提言」がますますクローズ・アップされています。それは、政策が効果をもたらすよう、「実効性」を追求することですが、私たちの全エネルギーを吸い上げてしまいかねないこの「実効性」に、いつまでもこだわっていられません。
 実際には、決して解決しない問題もあります。その時、現実の問題に苦しむ人びとに対して、結果は芳しくなかったとしても、希望を失わせずに向き合うためには、どうすればいいでしょう?


 管区の垣根を越えたネットワークにおいて、社会センターはどんな役割を果たすべきですか?

 グローバル化した世界において、特に深刻な金融・経済危機と社会危機に見舞われている現在、社会センターは地域に根ざしつつ、世界規模で行動しなければなりません。社会センターをイエズス会の管区連合(Assistancy)/地域協議会(Conference)のネットワークの中に位置づけ、他の協力の枠組みと結びつけて機能させるために、多大な努力が行われています。使徒職の手段としてのネットワーキングには、明確な目標と人材や資金の投入が必要です。ネットワーキングとは、友人同士で冗談を交わすことではありません。ネットワーキングが、すでに過大な仕事を負わされている社会センターに、余計な仕事を追加することになってはいけません。ネットワーキングは「補助性の原理」(下部組織の自主性を尊重する組織原理)を強める方法でもあります。各国に社会センター同士のネットワークが築かれ、個々のネットワークが異なったテーマやキャンペーンで互いに助け合うのです。こうした方法論は自律性を尊重し、連帯性や普遍性を強めます。
 私個人としては、社会センターは体系的な考察や分析、調整の基礎であると思います。社会センターは、イエズス会の優先課題について、社会意識や政策提言、識別を重視します。一方で、イエズス会員の中には忙しすぎて、そうしたことがほとんどできない人もいますが、社会センターは一致した取り組みを呼びかけています。
他のことで忙しすぎる人々の問題の一つは「散漫」、つまり焦点や集中が欠如していることです。
 今日、これほどコミュニケーション手段が発達しているのですから、あまりに多くの問題を解決しようと欲張るのは、きわめて非効率的です。すでにあるエネルギーや働きをしっかりと見すえて、それが損なわれることのないように、また、優先課題が明確であり続けるようにしておく必要があります。


 JRS*の活動はよく知られています。でも、イエズス会自体では、貧困や移民、世界的経済危機、大量失業などの問題について、どのような研究や活動が行われているのでしょうか?
*JRS: イエズス会難民サービス。イエズス会が設立した国際的な難民救援団体で、多くの信徒や他の修道会の修道者がスタッフとして活動を支えている。

 私たちは不要な情報を消化しきれない一方で、自分たちがしていることについての情報不足に悩まされています。また、人類が直面するこれらの世界的大問題を解決する使命を、イエズス会が負っているわけではないことも、知っておく必要があります。自らの限界を知り、自分にできることや、他の人々といっしょにできることに集中する、現実性と謙虚さが必要です。
 その上で、いくつかの例を挙げましょう。ラテン・アメリカで複雑な貧困の問題に取り組むために、社会センターとイエズス会大学が共同で行っているプログラム。ミレニアム開発目標への意識を高めるために、ヨーロッパの多くの社会センターが熱心に行っている活動。ラテン・アメリカと米国のイエズス会地域協議会の間で取り交わされた、移民問題に取り組む協定。南ヨーロッパのイエズス会ネットワークと密接に協力して、移民問題に取り組むラテン・アメリカのイエズス会ネットワークなどです。
 世界が直面している危機を分析する多くの人と、力を合わせる必要があります。私たちはこれまで、世界経済危機が貧しい人々に及ぼす深刻な影響を、十分理解していませんでした。この危機に対処する最善の道を見出すため、多くの社会センターや大学が既に対話していると、私は確信しています。
 最後に述べたいのは、過去の過ちを繰り返さないための一つの考察です。私たちはイグナチオの有名な原理に従って、すべては神次第だと知った上で、あたかも結果は私たちの努力次第であるかのように、最善を尽くさなければなりません。私たちは、できる限り速く成果を挙げたいという欲望と対決しなければなりません。不偏心というイグナチオの原理と、結果にとらわれずに行動するというアジア的な行動原理が、とても大切です。
 それぞれの大陸のイエズス会が多種多様な方法でニーズに応えています。たとえばブラジルでは、貧困とエコロジーを結びつけています。移民の問題では、フィリピンやアフリカ諸国などの送出国と、日本やヨーロッパ、米国などの受入国をどうやって結びつければよいかが問題です。
 これらの関心事はイエズス会のさまざまなレベルで現れています。JRSの活動は非常に明確ですが、最近、さまざまな事態が発生しています。そこにもネットワーキングと考察の問題があります。
 こうしたグローバルな問題に対応するためには多様な方法で働く必要があります。人類は闘い、苦しみ、解決を求めています。私たちは、限られた資源で何ができるか識別しなければなりません。多くの試みがなされ、たくさんの人が既に深く関わっています。私たちは他のネットワークとどう協力できるでしょう? 私たちは「イエズス会的なこと」をしたがりますが、それはもう通用しません。だから、他者に奉仕するために、多くの方法を見出す必要があるのです。
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