[書評]『ルポ 貧困大国アメリカ』 【社会司牧通信146号】

 
 

 先日、反貧困ネットワーク主催の「世直しイッキ大集会」に参加してきた。ワーキングプアや派遣労働、ホームレス、生活保護や年金、母子家庭、多重債務などの問題を、「貧困」という観点から考え、行動しようという催しだ。東京・明治公園で開かれた集会には2,000人が集まり、集会後は高級ブランドショップが立ち並ぶ青山・渋谷の街中をデモ行進した。主催者はもっと多くの参加者を期待していたようだが、それでも日本で貧困問題が市民権を得たことを実感させる集会だった。


 ところで、アメリカが日本にもまして貧困大国であるとは、ずいぶん前から言われている。2007年に岩波書店から翻訳が出版された、アメリカのジャーナリスト、デイヴィッド・シプラー(David K. Shipler)の『ワーキング・プア-アメリカの下層社会』(THE WORKING POOR: Invisible in America, 2004)では、アメリカにおける貧困層の現状が、400ページにわたって克明に記されている。
 そして、本書『貧困大国アメリカ』は、サブプライムローン問題などで、その後さらに悪化しているアメリカの貧困を、コンパクトに紹介している。
 著者の堤未果(つつみみか)は、ニューヨークで大学院を卒業後、国連婦人開発機関(UNIFEM: United Nations Development Fund for Women)やアムネスティ・インターナショナルNY支局員を経て、米国野村證券に勤務しているときに、9.11に遭遇した。以降、NYと東京を行き来しながら、ジャーナリストとして活躍している。


 本書はアメリカの貧困問題という大きなテーマを扱っているが、切り口がユニークで分かりやすい。各章のタイトルを並べると、こうなる

第1章 貧困が生み出す肥満国民
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
第4章 出口をふさがれる若者たち
第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
第1章では、フードスタンプ(食糧切符)で食いつなぐ貧困層が、安くて高カロリーのファーストフードやインスタント食品によって、肥満と病気に捕らわれていく様子が描かれている。
第2章では、民営化されたアメリカ連邦緊急事態管理庁(FEMA: Federal Emergency Management Agency)の不手際で、2005年のハリケーン・カトリーナによって国内難民と化したルイジアナ州の貧しい住民や、
1994年の北米自由貿易協定(NAFTA: North American Free Trade Agreement)のせいで、自由競争に敗れてアメリカに出稼ぎにくるメキシコの農民たちが描かれる。

第3章では、本紙140号(2007年10月)でも紹介した(映画"SICKO")、アメリカの民間健康保険会社の横暴ぶりが描かれる。第4章では、民営化された学資ローンへの借金に縛られ、就職難から軍隊にリクルートされていく若者たちが描かれる。

そして第5章では、アメリカだけでなく、世界中の貧困層をかき集めて、戦闘地域に送り込み、アメリカ政府から戦闘を請け負う傭兵会社が描かれている。そのトップ企業が、アメリカ現副大統領のチェイニー(Dick Cheney)の関連企業であることは、あまりにも有名な話だ。


 さすがに新自由主義の本家アメリカだけに、貧困の度合いも日本とはケタ違いだ。日本の方がまだマシなのかと、安心してしまいそうだ。だが、日本の貧困格差は、是正されるどころか、ますます拡大している。もうすぐ、アメリカに追いつくかもしれない。前ページで見た中国の貧困、この本で見たアメリカの貧困、そして明治公園で見た日本の貧困。貧困は国境を越えて広がっている。これこそ、グローバリゼーションの闇なのだろうか。

 中国の食品汚染の問題もそうだが、「"グローバリゼーション"なんて言われても難しくて分からない」と言っている内に、グローバリゼーションの負の影響は、どんどん身近に現れてくる。分からなければ、勉強しなければならない。その教材は、こんなにもたくさん身近にあるのだから。

<社会司牧センター柴田幸範>



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