[映画]女工哀歌 【社会司牧通信146号】


 前号の書評で、『チャイナ・フリー-中国製品なしの1年間』という本を紹介した。アメリカで、中国製品なしに過ごすことがどれほど大変か-という体験談だった。今回ご紹介する映画は、その手前-つまり、それほどまでにアメリカの市場に大量に入り込んでいる中国製品が、どのように作られているか-というルポルタージュだ。
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 主人公は中国四川省の農村出身の少女ジャスミン。家計を助けるために、16歳になると都会に出稼ぎに行く。彼女が寮に住み込んで働くのは、欧米や日本向けにジーンズを作る工場だ。
 経営者は元警察署長。「自分は寛大な経営者だ」と言いながら、納品先の欧米企業の厳しい要求に応えるため、低賃金・長時間労働を強いる。急ぎの納品に間に合わせるため、12時間、16時間労働は当たり前。時には27時間労働さえある。それでも月給は200~500元(3,000~8,000円、$29~72)。しかも、居眠りや無断外出が見つかれば、50元、100元の罰金をとられる。経営者は、「貧しい連中には規律が必要だ。連中はほんの少しの金のためでも、人殺しさえしかねないのだから」と言う。
 こうして、750人が働く工場では、1日に3,000枚、1ヶ月で10万枚ものジーンズが作られる。その工程は多くの段階に分かれている。生地の裁断、縫製、ファスナー付け、アイロンがけ、梱包…。働き始めたばかりのジャスミンがやらされるのは、余分な糸の始末だ。ハサミで余分な糸を切り、生地をブラシがけしてゴミを取る。この仕事を1日15~16時間にわたって、何十枚もこなす。


 こうしてできあがったジーンズは、欧米で1本数十ドル(数千円)で売られる。そのうち、15~16人がかりでジーンズを作った工員たちの給料が占める割合は、わずか1ドル(100円)。1人あたり8円にも満たない。
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  北京オリンピックも無事に終え、今なお好景気に沸く中国。GDP(国内総生産)はアメリカ、日本、ドイツに次いで世界第4位(ただし、一人あたりの額はベトナムやロシアより低い)。2020年には日本を、2040年にはアメリカを抜くとも言われている。その原動力は、安い賃金に物を言わせた圧倒的な価格競争力だ。だが、いまや「世界の工場」と呼ばれる中国の工場は、搾取と悪条件の温床でもある。
 この映画の監督は、スイス生まれのミカ・ペレド(Micha X. Peled)。前作「STORE WARS: When Wal-Mart Comes to Town」(ウォルマートが町にやってきた)では、巨大スーパーの出店が小さな町を激変させる様子を描いた。そして、ウォルマートが仕入れる商品がどのように作られているかを描いたのが、本作だ。政府の監視をかいくぐり、地下労働組合の助けを借りて完成したこの映画は、間違いなく超一級の「グローバリゼーション」の教材だ。

<社会司牧センター柴田幸範>




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