[報告]足立インターナショナル・アカデミー 【社会司牧通信146号】

安藤 勇(イエズス会社会司牧センター)
 近頃、修道会が会員のための老人ホームを開いたり、幼稚園や学校、病院を閉めたりすることは珍しくない。でも、足立区(東京)にインターナショナル・アカデミー(といっても小さな家だ)を開くのは、どういう訳だろう? リスクを冒してまでアカデミーを開く理由は何だろう?
 国レベルでは、日本は何十万人という滞日外国人に、十分な日本語教育を提供しているとは言えない。実際、外国人労働者やその子どもたちは途方に暮れている。全国どこでもそうだとは言えないが、ある地域では日本語教育が火急のニーズであるのは確かだ。足立区もそうした地域の一つだ。
 この数年、いくつかの小さな外国人支援ボランティア団体が、主に足立区在住の外国人労働者を対象に、日本語学習の取り組みを散発的に行ってきた。たとえば「むすびの会」もその一つだが、この小さなボランティア・グループが足立インターナショナル・アカデミーの前身だ。
 大都市ではしばしば、何百人という外国人労働者がカトリック教会に集まる光景を目にする。私たちは彼らと日本語で話したり、彼らの国の言葉で話したりするが、彼らの大部分は日本語の読み書きができない。彼らは日本語学校に通う余裕もないので、結局、日本語を読み書きできないままなのだ。読み書きできないと、人に頼りがちになり、行動の自由や人権すら制限される。普通、その影響は家庭や仕事の問題、健康や法律の問題として重くのしかかり、不満や恐れ、ストレスの原因となる。多くの外国人が学齢期の子どもを持っているのに、読み書きができないために、子どもたちまでストレスや無力感を感じている。こうして、彼らは自分に自信が持てなくなる。子どもたちだけでなく、大人の人間的成長も妨げられてしまう。アカデミーはこうした状況を解決したいのだ。

アカデミーの新しさ

 アカデミーのようなフル・タイムの「寺子屋」を始めるにあたって、新しいと言えるのは、外国人に日本語教育を提供することではない。このようなアイディアはずいぶん前から、教会や修道会で実現されてきた。
 アカデミーには、創造的な活動を促す新しいコンセプトがある。それは、教育を受ける人を活動の中心に置く新しい教育の試みを実践するため、彼らの「パートナー」として共に働くというコンセプトだ。教育を受けるのは外国人の子どもたちであり、その親たちであり、場合によっては親子一緒のこともある。アカデミーに来てみれば、日曜の午前中に、ボランティアから日本語を習うフィリピン人の母親の横で赤ちゃんが寝ていたり、ガーナ人の男性が他の国の人3人と一緒に日本語の読み書きを習っている光景を目にすることができる。ガーナ人男性の3人の子どもは、午後から日本語と英語、数学の勉強にやってくるし、日本人である妻はボランティアを手伝っている。授業では、黒板もホワイトボードも一切使わない。重点を置いているのは一対一の関わりであり、個性の発達を重視すること、授業を楽しいものにすること、子どもも大人も、お互いに信頼に満ちた親密な雰囲気のうちに勉強できるようにすることだ。ブラジルの教育心理学者、パウロ・フレイレの言葉を借りれば、教師が生徒に教えるだけでなく、教師もまた生徒から教えられるのだ。また、大人が仕事や社会生活の面でしばしば差別され、教会でお客様扱いされていたり、子どもが学校でいじめられている場合、彼らに「自信」を与え、「力づける」(empowerment)ことがとても大切だ。だから、アカデミーは自然に、彼らの個人的悩みを聞く場所にもなる。子どもたちはアカデミーに来ると、日本語で自由に、大声で話しているが、彼らは学校に行けば、先生が何を言っているかも分からないまま、教室で何時間もじっと座っていなければならないのだ。

求められる理念

 アカデミーは、キリスト教的な理念と方針-つまり、全人的な発展を目指す、全体的な教育のアプローチに基づいている。だが、こうした理念を実践するにあたっては、一般企業に要求されるのと同様の条件が求められる。つまり、一人ひとりの(特に困っている人の)ニーズに応えること、スタッフや協力者の献身的取り組み、資金、そして立地条件などだ。固い仲間意識と共に、創造性と柔軟性も要求される。いつも人々を信頼し、神の「見えない手」を信頼しながら、試行錯誤で学んでいく、リスクを恐れない姿勢も必要だ。

 アカデミーが実際に動き始めたのは1年ほど前だ。アカデミーを確固たる体制のもとで運営していくために、すでに滞日外国人の教育に携わって来た経験を持ち、新たな教育施設の必要性を認識している、いくつかのカトリック修道会が集まって話し合った。これらの修道会の活動経験は貴重だった。また、人員と財政の負担を軽くするために、「共同運営」のコンセプトが基本とされた。こうして2008年2月までに、イエズス会を含む4修道会がアカデミーのプロジェクトに参加することを決めた。同じ頃、プロジェクトをスタートするのに必要な資金の大半が、国外の助成団体から提供され、教室の運営に必要な家や備品も少しずつ揃えられた。
 アカデミーの重要な副次効果の一つは、若い人や退職後の人にボランティアの機会を与えることだ。アカデミーはボランティアにとって、自己実現と他者への奉仕の場となっている。もちろん、外国にボランティアに行くのも素晴らしいことだが、日本国内にも貧しい人、困っている人はいるのだ。アカデミーの運営にとってボランティアは不可欠であり、ミッション・スクールがアカデミーを、学生のボランティア派遣に絶好の場所と考えてくれるよう期待している。若いボランティアがいれば子どもたちも楽しく過ごせるし、それによって若者たち自身の生活も、もっと楽しくなるだろう。
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 アカデミーの場所を探すのに一月近くかかったが、幸い足立区の古い一軒家を借りることができた。最近、上智大学教員を退職したばかりの中村友太郎氏を塾長に、アカデミーは2008年6月から活動を始め、7月6日には、50人のお客様を招いて開所式を行った。7月のアカデミー利用者は延べ30人だったが、8月には126人、9月には197人に跳ね上がり、10月には293人になった。アカデミーは、月曜を除く午前10時半~午後8時半に開いている。どうぞ、お気軽にお出でください。
【足立インターナショナル・アカデミー】
〒123-0851足立区梅田5丁目7-2
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