[書評]『チャイナフリー-中国製品なしの1年間』 【社会司牧通信145号】

  『チャイナフリー-中国製品なしの1年間』
A Year Without "MADE IN CHINA": One Familiy's True Life Adventure in the Global Economy
サラ・ボンジョルニ著、雨宮寛・今井章子訳/東洋経済新報社/2008年/1800円+税
 

 本書は経済もののドキュメンタリーだ。だが、なぜか笑えるし、泣ける。350ページ近い本を、一晩(3時間)で読み通してしまった。
 著者はアメリカの一流新聞で執筆する経済ジャーナリストで、三児の母。その彼女が、ふとした思いつきで「中国製品を買わずに1年間過ごしてみよう」と思い立ったことから、一家の苦闘が始まる。電化製品からおもちゃ、靴、サングラス、大工用品に至るまで、中国製品に取り囲まれたアメリカで、「チャイナフリー」(中国製品なし)で暮らすために、あの手この手を繰り出す一家の様子が、ユーモアたっぷりに描かれている。


 著者が「チャイナフリー」を思い立ったのは、2004年のクリスマスから2日後の午後のことだった。ふと部屋を見回すと、DVDプレーヤーは中国製。クリスマスツリーの飾り付けも中国製。自分がはいている靴下も、靴も中国製。ピアノの上のスタンドも中国製。クリスマスプレゼントは、中国製が25個で、それ以外が14個。クリスマスはいつから中国製のお祭りになったのか? こう自問した著者は、急に自宅から中国を追い出したくなった。
 といっても、著者が中国を憎んでいるわけではない。遠い祖先は中国人だという著者は、中国にノスタルジーすら感じている。それに、既に家にある中国製品を一掃するわけでもなければ、一生中国製品を買わないわけでもない。それでは、文明生活を諦めなければならない。さらに、他人からもらうプレゼントは中国製でもかまわない。子どもが自分のお小遣いで買うおもちゃも中国製でもかまわない。こう聞くと、「いい加減じゃないか」と思うかもしれないが、それでもたった1年間、「チャイナフリー」を貫くのは大変だ。


 まず、生産国を調べるのが大変だ。生産国表示がヨーロッパに比べて徹底しているアメリカでも、場合によってはメーカーに電話をかけまくって、生産国を調べなければならない。 次に、運良く中国製でない製品が見つかったとしても、たいていの場合、値段が高い。子どもの靴など中国製なら1000円で買えるのに、それ以外は7~8000円はする。
 さらに、モノによっては中国製以外ないものさえある。著者が一番困ったのは、コンピュータのプリンタ・カートリッジだった。結局、図書館や夫の職場のプリンタで印刷して、しのいだ。
 もう一つの「部品」だ。製品の生産国は確かめられても、部品一つひとつは無理だ。
 そして何より、「チャイナフリー」な生活は、ストレスに満ちている。おもちゃやクリスマス用品、衣類など、暮らしに楽しみを与えてくれる製品は、圧倒的に中国製品が支配しているからだ。
 こうして、時間と知恵を使い、ときには妥協し、夫婦や親子の衝突を乗り越えて、著者の「チャイナフリー」の実験は終わった。


 「チャイナフリー」は、日本で暮らす私たちにとっても他人事ではない-特に、中国製品の安全性に対する不安が高まる昨今は。だが、日本から中国製品を閉め出したら、いったいどうなるのか? 著者は、「中国製品を閉め出しても、私たちが飢え死にするわけではない。ただ、生活がおそろしく不便になるだけのこと」と言う。問題は、私たちがその不便さに耐えられるかどうか、ということだ。
 著者が学んだのは、消費者としての私たち自身の選択が、世界経済のあり方を決め、私たち自身のライフスタイルを決めるということだ。「そんなことは分かりきっている」? では、明日からやってみましょうか、「チャイナフリー」

<社会司牧センター柴田幸範>



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