[映画]休 暇 【社会司牧通信145号】

 今回の映画は死刑に関する映画だ。とはいっても、死刑そのものがテーマなわけではない。主人公が、死刑囚を収容する拘置所に勤める刑務官なのだ。
 ベテラン刑務官の平井が勤務する拘置所には、死刑囚の金田が収容されていた。その金田に対する死刑執行命令書に法務大臣が署名捺印し、書類が拘置所に運ばれるところから、映画は始まる。


 未婚のまま中年に入っていた平井は、姉に勧められて見合いをして、シングル・マザーの美香と結婚することになった。だが、母の葬儀で有給休暇を使い果たした平井は、新婚旅行に行くことができない。そんなとき、刑務官たちに金田の死刑執行が決まったことが知らされる。絞首刑にされる死刑囚の体を支える「支え役」を買って出ると、1週間の休暇がもらえる。結婚を間近に控えながら、休暇をもらうために、誰もが嫌がる「支え役」を希望した平井に、上司は激怒し、周囲は不審の目を向ける。
 一方、死刑囚の金田は、時折あらわれる被害者の幻に悩まされながらも、好きな絵を描いて、淡々と過ごしていた。だが、金田の執行予定を知った刑務官が、独房にラジカセを差し入れて音楽を聞かせようとしたため、執行に気づいたのか、突如暴れはじめ、懲罰房に入れられる。落ち着きを取り戻した金田を独房に連れて行く平井に、金田は一枚の絵を渡す。平井と結婚相手を描いた絵だ。それは、金田のささやかな結婚祝いだった。


 金田の死刑執行の日。牧師の最後の説教を聞き、水を一杯飲んだ金田は、目隠しをされ、おとなしく首に縄をかけられる。やがて床が抜け、落ちてきた金田の体に、もう一人の支え役である初老の刑務官は弾き飛ばされ、腰を抜かす。平井は何とか金田の体を押さえ、やがて死亡が確認される。
 翌日、結婚式と披露宴が開かれるが、客として招かれた刑務官たちは、前日の執行のことを思い出してか、誰一人、肉料理に手をつけようとしない。やがて、美香とその息子と一緒に、温泉に新婚旅行に出かけた平井だが、折あるごとに金田の執行の様子が思い出され、吐き気にさえ襲われる。一方で、平井になかなか心を許そうとしない、美香の息子。三人がそれぞれの思いを抱えながら、旅は続く。
 原作は吉村昭の同名の短編小説だが、わずか30ページで、新婚旅行での心理描写に重点が置かれている。それに対して、映画は死刑囚・金田の日常や刑務官の仕事ぶり、そして何よりも、拘置所での死刑執行の準備と、実際の執行の様子を非常にリアルに描いている。この映画を見て、私も死刑執行を目撃したような気持ちになって、しばらく動揺が治まらなかった。
 このリアルさをもたらしたのは、坂本敏夫氏をアドバイザーに招いたからだ。坂本氏は元刑務官の立場から、死刑執行に関しての著書を執筆し、積極的に発言している。死刑に関する議論といえば、ややもすると抽象論の応酬になりがちだが、死刑の現場に立ち会ってきた坂本氏の発言は、死刑廃止運動関係者にとっても大きな重みを持っているのだ。


 とはいっても、この映画は最初に書いたように、決して「死刑廃止」を訴える映画ではない。むしろ、刑務官・平井役の小林薫や、死刑囚・金田役の西島秀俊、上司役の大杉漣など、一流のキャストを迎えて、監督の門井肇は、「簡単には是非を問えない制度が厳然としてある中…逃げることなくその中でのた打ち回って、苦しみながらも自らの生を紡いでいく」人々の姿を描いている。
 私たちはどうだろうか? 「厳然としてある制度」から「逃げることなくその中でのた打ち回って、苦しみながらも自らの生を紡いで」いるだろうか

<社会司牧センター柴田幸範>




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