「京浜便り(28)」 フィリピンの人権問題と日本 【社会司牧通信145号】

京浜だより(28)
フィリピンの人権問題と日本
阿部 慶太(フランシスコ会)

 私事ですが、修道会のJPIC(正義と平和と被造物の保全)委員会の国際会議のため、フィリピン・セブに行きました。会議の内容は、人権やアジアの環境問題など多岐にわたりましたが、非常に印象に残ったのが人権関係の現地学習でした。


 私が参加したのはレイテ・オルモックシティの市街地から車で1時間半ほどのところにある、サン・オーガスチンという集落でした。この場所で、去年の後半から今年の初めにかけて、地域農民のリーダー虐殺が国軍によって行われました。現地に到着したときに、人々のおびえたような、不安そうな表情はそのせいだと感じました。被害者の家族と地域住民にとって心身両面の大きな傷が消えていないのです。
 現地学習のコーディネーターによると、フィリピンでは、マルコス政権後も引き続き、国軍や国家警察の関与が疑われる人権侵害、政治的な動機による超法規的処刑が続いてきたとことと、近年もその件数は減らずにむしろ増加している、ということでした。その原因として、ラモス政権時に始まった和解政策が放棄され、アロヨ大統領が反乱鎮圧作戦を推進したことにより、近年こうした虐殺や人権侵害が増加したということです。
 つまり、反政府主義者はテロリスト同様に民主化の敵なので、処罰されなければならない、という理由で、テロリストまたはそれに準ずるグループとみなされた場合、こうした殺戮が行われる、ということなのです。アロヨ政権になった2002年以降、テロ・グループの指定が、共産党と同様とみられる市民グループ、人権団体、労働組合、農民組織、学生団体、教会関係のグループまで広げられ、弾圧の対象にされるため被害者が増加しているということです。マルコス政権以降も続く土地改革政策と経済振興策を巡る不正や汚職に対して反対する人々は、命を狙われる状況が続いているのです。
 以前もそうした話は聞いていたのですが、こうした人権侵害の増加は想像を超えていましたし、現地で家族を虐殺された人々の不安と怯えた表情に接し、証言を聞くほど、人権侵害を行うフィリピン政府の問題と同時に、フィリピンに対するODA大国である日本の責任も感じました。


 去年の5月8日に、東大駒場キャンパスにてヒューマンライツナウ主催のシンポジウム『アジアにおける人権保障の実現と市民社会・外交の役割』の中で、国連人権理事会特別報告者フィリップ・アルストン氏は人権問題が深刻化しているフィリピンについて、「最大の援助国である日本政府は、静かなる外交を進めるだけでは不十分であり、フィリピンの人権問題について、真剣かつ持続的に公然と働きかけることが重要である」と指摘しましたが、こうした事実があるにも関わらず、これまでの国会での答弁や市民団体とのやりとりを見る限り、日本政府は、アロヨ政権の反乱鎮圧政策及びその影響も含めた人権状況全般に対しての批判的評価を行っていません。そのためODAにおける「援助実施の原則」で言うところの「総合的判断」に批判が集まるわけです。
 支援を送る側の国民の責任として、相手国の人権状況やその実情についても関心を持たなければならないと感じた出来事でした。


犠牲者に関するデータは、
●【ヒューマンライツナウ】www.ngo-hrn.org
●【NCC】ncc-j.org/sosiki/Philippines/index.html
をご覧ください。
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