[報告]洞爺湖サミットをふりかえる 【社会司牧通信145号】

マッカーティン・ポール(コロンバン会)
●はじめに-世界で今、何が起こっているのか
 私はこの夏、サミット関連企画に参加するために札幌に行った。無料で配ったり、売ったりするための本やパンフレットをスーツケース一杯に詰め込んで、タクシーでイベント会場に向かった。タクシーの中で運転手に、最近テレビで見たタクシー業界の規制緩和のニュースについて話してみた。それによると、より多くのタクシーに営業許可が出て、タクシー会社の利益が増えるが、競争の激化で運転手の収入は減るそうだ。私の話に運転手はこう答えた。「まったく、やめてほしいよ」
 私の友人は、札幌で行われるデモに参加するために、タクシーで会場に向かった。彼女が乗ったタクシーの運転手は、「デモに突っ込んで、ひき殺してやりたいね」と話したという。タクシー業界の規制緩和の黒幕はG8で、デモ行進の参加者はまさにタクシー運転手たちのためにデモ行進していることを、彼は知らないのだろうか? その運転手も、いっしょにデモ行進すべきなのだ。  1月に東京で開かれた世界社会フォーラムで、ある公務員の人が言っていたが、多くの人は社会構造-つまり、世の中がどう動いているか-を知らない。デモ行進の参加者たちと違って、そのタクシー運転手は、規制緩和の理由を知らなかった。だから、彼が規制緩和を進める政党に投票しても、まったく不思議ではない。
 (世の中がどう動いているかを知るよりも大事なことはそうそうないのだが、現代社会の教育制度はそれを教えてくれない。どうしてだろう? 私たちは9年も16年も学校教育を受けているのに、世の中の仕組みを知らないとは? カリキュラムを組んでいる人が、そのことを知られたくないのだろう)
 私もまた、世の中が動く仕組みを知る手がかりなしに高校を卒業した。後でとても残念に思ったのは、経済学と政治学、歴史学を勉強しなかったことだ。世界のもっとも貧しくされた国々の債務を帳消しにしようという「ジュビリー2000キャンペーン」に参加して以来、私はそうした事柄について理解する必要があることを学んだ。貧しい人びとを助けるため、貧困を撲滅するためには、貧困の原因を知る必要がある。だから、私は経済学や政治学について知る必要があるのだ。
 私が完全には理解できない理由で、強い国々は弱い国々を搾取したがる。古代ギリシャは帝国を創りあげた。やがて、それはローマ帝国に取って代わられた(イエスがガリラヤに生まれたとき、そこはローマの植民地だった。だから、ピラトがイエスの裁判を執り行ったのだ)。

それから時は流れて、オスマン帝国とモンゴル帝国が出現した。そして、ヨーロッパ諸国が世界中に植民地を築いた。その中でも、イギリスはもっとも強大な帝国となった。「大英帝国に日は沈まない」(世界中に領土があるので、どこかは必ず昼であるという意味)。第二次世界大戦後、アメリカがそれに取って代わった。そして今や、アメリカはソ連帝国の挑戦を退けて、絶対権力を握った。アメリカ軍は百ヶ国以上の国に展開している。
 なぜ、諸国は帝国を築くのか? 確かなことは、彼らは支配している国々から何かを得ようとしているということだ。ローマ帝国は、支配下にある国々に税金を払うよう強制して、ローマ市民がぜいたくに暮らす費用に充てた。だから、イエスの時代に徴税人が嫌われたのだ。彼らはローマ帝国のために税金を集めていたのだ(これが、新約聖書のザカリアの物語の背景だ)。
 ヨーロッパ諸国は、資本主義と呼ばれる経済体制を確立した。そして、アメリカがそれを引き継いでいる。「アメリカ」と書いたが、実際に資本主義を引き継いでいるのは、アメリカの大企業だ。大企業は多かれ少なかれアメリカ政府をコントロールしていると思われるし、アメリカ政府は大企業の代弁者・代理人でしかないように見える。それは、日本を含めた他の多くの国々でも同様だろう。その結果、たとえば国連やWTO(世界貿易機関)でアメリカが主張する政策は、単に大企業のための政策であり、アメリカの多くの国民、たとえば恵まれない人々のための政策ではない-という事態が生まれる。それは日本でも同じことだ。これが私には不思議でならない。国民が政府を選んだのに、政府は大企業の利益ばかりを代弁して、国民全体を無視しているのだ。どうして政府は国民の面倒をみないのか?(どうして、国民は自分たちの面倒を見てくれる政府を選ばないのか?)
 資本主義はとても複雑なシステムだが、どうも貧しい人から豊かな人にお金を集めているように見える。どうも、これが資本主義が生まれた理由ではないかと思う。人々はお金をほしがる。そして、お金を生み出すために会社を設立する。会社は、彼らがお金を儲けられるような政策をとる政府を作る。こうして全てのものが、人生そのものでさえ、大企業がお金を儲けるのに役立つかどうかで、価値を判断されるようになった。貧し過ぎて何も買えない世界中の何億という人々は、資本主義の中で居場所がなく、飢餓状態で取り残されている。これまで常に人類全体の庇護のもとにあった、さまざまな生活様式さえ、今では大企業に独占され、特許までかけられているのだ!


●サミット
 G8サミットは、世界でもっとも大きな力を持っている国々の政府が、彼らにとって重要な問題を議論する場として始まった。最初に開かれたのは1975年で、当時はG6だった。ある人によれば、サミットが生まれた背景は、旧植民地諸国が経済・政治の分野で台頭してきたことだという。G6諸国は、彼らの目的の障害となりかねない、こうした新興諸国にどう対応するかを話し合いたかったのだ。
 (ここで指摘しておかなければならないのは、さまざまな会議の参加者が強調しているように、G8は世界を代表しているわけではないから、世界全体に関する方針を決定する権利はないということだ。それは国連の役目だが、国連それ自体も、少なくともある程度は、豊かな国々によってコントロールされていると主張する人もいる)
 だから、G8各国は資本主義体制を信奉しており、自国の企業がお金を儲けるのを助けたいと考えている。彼らはこの目的のために協力し、生じてくる問題を解決したいと考えている。こうした国々こそ、グローバル化と経済・金融の規制緩和(日本におけるタクシー業界のように)を推進している国々だ。つまり彼らは、グローバリゼーションと規制緩和こそ、より多くのお金を儲けるのに役立つと信じているのだ。韓国の代表団は、G8がすでに世界の富の2/3を占めていると述べた。言い換えれば、公平な取り分以上を取っているということだ。
 グローバル化がいかに大企業にお金を儲けさせるかという一つの例はこうだ。もし、アメリカの特許制度が世界中に適用されたら、世界中の個人と企業はアメリカの特許取得者に使用料を払わなければならなくなる-たとえ、それが貧しい国で発見された原料から生産された医薬品であってもだ。
 次は、規制緩和がいかに大企業にお金を儲けさせるかの一例だ。日本は、外国企業にとって、製品を輸出したり、ビジネスを展開したりするのが難しい国として有名だ。大部分の国は、日本と同様に、自国の産業を保護するために、同様の規制を行っている。G8は貧しい国々に対して、豊かな国の企業が貧しい国の市場にアクセスするのを制限しないように強制している。もちろん、貧しい国々の企業の大部分は、豊かな国のライバル企業と競争する力を持っていない。
 (外国の企業と金融機関は、長年、日本の郵便貯金を手に入れようとしてきた。郵便局が民営化されて、何千万人もの日本人の貯金は、いつの日か、これらの外国企業や金融機関の自由にされることだろう。最近、麻生太郎自民党幹事長が、貯金をやめて株を買おうと発言した。これもまた、日本国民の貯金を企業や金融機関に開放する試みの一つだ)


●貧困
 だから、G8サミットを評価するときは、サミットの目的を思い出さなければならない。彼らの議題は、私たちの議題とはまったく違う。たとえば、彼らの目標がお金を儲けることだとしたら-たとえば、大企業がお金を儲けやすいような国際ルールを作ることだったら、彼らに貧困のような問題を解決することを期待するのは不可能だ。彼らは、貧しい国々からお金を儲けたいのだ。彼らは、貧しい人々にお金をあげるのではなく、貧しい人々からお金を取りたいのだ。
 世界熱帯雨林運動のアナ・フィリピニが指摘したように、「グローバルな権力の中心でつくられている政策は、飢餓の問題をほとんど解決しないどころか、事実上…ますます悪化させている。その明らかな例は、バイオ燃料推進の動きだ。(気候変動を引き起こす化石燃料からの脱却という)環境保護のお題目と、『バイオ』燃料という環境に優しい名前の下で、何百万ヘクタールという土地が、自動車のための食べ物(ガソリン)生産へと転換されている」
 インドネシアやフィリピンなど、貧しい国々から看護師を招き入れようという動きは、そうした姿勢の象徴的な例だ。フィリピンやインドネシアは、日本よりも看護師を必要としている。日本は世界最大級の経済を持っているから、日本人の看護師を養成するのも簡単なはずだ。だが、日本では看護師が尊敬されていないので、給料も労働条件もよくない。だから、日本人は看護師として働きたがらない。
 私は、ジュビリー2000キャンペーンへの関わりを通して、貧しい人々に対するG8の態度を知った。最初のサミットから33年の間、G8は貧しい人々のために、いったい何をしただろう? ほとんど何もしてこなかった。確かに彼らは、貧しい人々を助けることについて話し合ってきたが、それはカモフラージュに過ぎない。(G8は10年前、グローバル化が万人に繁栄をもたらすと主張した。これは『原子力発電はコストが比較にならないほど安い』とか、『遺伝子操作した作物は飢餓を解決する』といった主張と同類だ。G8の主張を鵜呑みにする人は、いささか素朴すぎる。こうした主張は、アメリカの開拓者たちが先住民に渡したガラクタのようなものだ。聞こえがいいので、その言葉を信じたいのだが、実は価値がないのだ)それでは、G8は貧しい人々を搾取するのに、いったい何をしただろう? たくさんのことをしてきた。スーザン・ジョージは1976年に、著書『なぜ世界の半分が飢えるのか』の中で、貧しい国々から豊かな国々へのお金の流れを説明している。豊かな国の企業収益や、債務返済、貧しい国々に住む豊かな人々が豊かな国の銀行に預ける預金といった形で、貧しい国々から豊かな国々へと流れ込むお金は、豊かな国々が貧しい国々に与えるわずかなお金より、大幅に多いのだ。
 債務帳消しを求め続けている市民団体によれば、債務問題は洞爺湖サミットの議題にすらならなかった。債務は貧困を引き起こす最大の原因の一つであるのに、G8はこの問題を話し合おうかと考えもしなかったのだ。驚くことはない。G8は長年、債務帳消しを拒否し続けてきた。彼らは債務をほんの少し帳消しにする見返りとして、貧しい国々に先進国の企業への市場開放を要求した。たとえば、貧しい国の政府に農業補助金をカットするように要求した。これこそ、今日、貧しい人々が手に入れられる食糧が減った理由の一つだ。債務と飢餓には明らかな関連がある。
 ある分科会では、夕張(財政破綻した北海道の町)の債務と、貧しくされた国々の債務の問題が取り上げられた。そこには共通点がたくさんある。北海道の市民が南の国々から来た市民から、債務について学んでいる様子は興味深かった。
 (日本でサミットが開かれている間、ジュビリー・サウス・キャンペーンのメンバーが、国会議員たちを訪問して、債務帳消しへの支持を求める機会があった。国会議員の内二人は、国会のODA<政府開発援助=政府が貧しい国に無償・有償で供与するお金や品物>委員会のメンバーだったが、債務が帳消しされていないのを知らなかったし、ODAに伴う問題点についても、何の考えもなかった)
 G8の政治家たちや官僚たちは、このことを知っているのか、知らないのか。もし、お金で買うことができる最高の教育を受けていながら、彼らがそれを知らないのなら、無知で無能力で、無責任だ。もし、知っているなら、その解決のために何かすべき道徳的責任があるが、実際には何もしてこなかったのだから、世界の最も貧しい人々が搾取されるよう促してきた点で、有罪だ。彼らは、何百万という貧しい人々の死に責任がある。
 この言い方は厳しすぎるように聞こえるかもしれない。自分の国の政府(カトリックの人もいるだろう)が、そのようなことをしているとは信じたくないかもしれない。ジョン・バーキンスは2004年に、著書『エコノミック・ヒットマン-途上国を食い物にする国アメリカ』で、アメリカ政府が選挙操作やワイロ、脅迫、セックス、殺人、暗殺、クーデター、軍事侵攻などの手段で、どれほど貧しい国を支配し、搾取してきたかを、詳しく述べている。パーキンスは自分の経験からこの本を書いたのだが、多くの人は彼の言うことを信じようとしなかった。2007年には、"A Game As Old As Empire"(帝国と同じくらい古いゲーム)という共著の本が出版されたが、この本は『エコノミック・ヒットマン』をさらに詳しくした本で、この世界で本当に何が起こっているのか、あらゆる疑いを晴らしてくれる。
 (この本は、サミット期間中、多くの人がビザ発給を拒否され、サミット関連のイベントに参加するために来た多くの人々が、空港で入国を拒否された理由を説明してくれる。一部の人は、スーザン・ジョージでさえ、入国を許可されるまで何時間も拘束された。この本はまた、CSOs<市民社会団体、しばしばNGOsとも呼ばれる>の分裂も説明してくれる。つまり、サミットの成果に影響を及ぼしうると考え、G8との対話を選んだCSOsと、サミットの存在自体に反対したCSOsの間の分裂だ)
 何をそんなに驚くことがあるだろう? アメリカや他の豊かな国々が行っているのは、何世紀にもわたって帝国が行ってきたのと同じことに過ぎない。むしろ、自分がそれに関与しているからといって、その現実を認めようとしないことこそ驚くべきことだ。政治家や官僚、経済界のエリートの中にいる私たちの父や母、兄や姉、息子や娘が、何百万という人々に貧困や飢え、死をもたらす政策を立案した。そして、私たちの快適な暮らしは、貧しい人の犠牲の上に成り立っているのだ。

  私が神学生だった頃、先生がよくこんなことを言っていた。「十字架にかけられたイエスは、私たちの三つの現実-つまり、神と私たち人間と世界-を現す究極のしるしだ」。私たちの世界は、愛の権化であるキリストを十字架にかけた。私たちの世界は、私たちが創りあげた世界は、キリストを、人間を、十字架にかける世界だ。それが分かれば、今なお世界中で苦しんでいる人がいるのも驚くに価しない。
 (2000年の世界宣教の日に、当時の教皇ヨハネ・パウロ2世は、ローマに集まった史上最大の宣教師たちの集まりで演説した。宣教師の必要性と、彼らが働く社会状況について、教皇はこう述べた。「無法な競争、何としても他人を支配したいという欲望、自分は他人より優れていると考える人による差別、抑制を失った富の追求は、不正と暴力、戦争の原因なのです」)


●気候変動
 貧困と同様のことが、気候変動と食糧危機についても言える。私たちの世界(農業、発電、輸送など)を化石燃料に依存させ、化石燃料を燃やすことで、気候変動(地球温暖化)を引き起こす温室効果ガスの大半を排出しているのは、豊かな国々(もっと正確には、豊かな国々の大企業)だ。だが、洞爺湖サミットでは、気候変動について何の行動もなかった。これも、驚くに価しない。石油会社は莫大な利益を挙げている。彼らは蛇口を閉めようとは思わない。アメリカのブッシュ大統領が京都議定書に署名しなかった原因の一つは、石油会社エクソンモービルの圧力だった(ガーディアン紙、2005年6月8日)。だから、G8が気候変動に取り組むことなど期待できない。G8は、そうすることが自分たちの利益になると信じられないかぎり、気候変動には取り組まないし、今のところそうは思っていない。(このことは、世界が直面している危機-つまり、破壊された世界ではG8も金儲けできないということ-を彼らが理解していない証拠だ。彼らが金儲けを続けたいなら、気候変動をストップさせる必要がある)。むしろ、彼らが本気で気候変動に取り組むことを決めたら、驚くべきことだ。G8が決めたのは、石油の増産努力を加速することだけだ! もっとたくさんの温室効果ガスを発生させるということだ!
 気候変動はおそらく、人類がこれまでに直面した最大の脅威であり(人類は全滅するかもしれないと言う科学者もいる)、温室ガス削減には一刻の猶予もないと専門家が指摘していることを考えれば、G8が何の行動も起こさないのは、明白な犯罪行為に等しい(日本経済新聞でさえ、洞爺湖サミットは何の成果も挙げなかったと指摘している<2008年7月9日付け社説>)。彼らは現代のもっとも緊急な問題に手を出そうとしなかった。もし、今後も気候変動に関して行動しなければ、彼らは明らかに無能だ。
 変革のための先住民族ネットワークのミニー・デガワンは、気候変動が彼女の国-フィリピン-に深刻な影響を及ぼしている、と述べた。「フィリピンは島しょ国ですから、周辺の島々は海面の上昇で水没しつつあります。一方、山から下りてきた人々は、降水量が増えて、被害を受けています。たとえば、私たち先住民のカレンダーはもう役に立ちません。かつては季節の移り変わりに頼っていましたが、今では移り変わりが早すぎるのです」
 デガワンはまた、バイオ燃料のような気候変動を緩和させようという努力は、フィリピンのサトウキビ畑をエタノール生産に振り向けてしまった、と言い.。「G8への私のメッセージは、『このような偽りの気候変動の解決策をやめて、本当の解決を探る話し合いに、先住民を参加させてください』というものです。私たちの持っている伝統的な知識は気候変動の解決に役立つと信じています。テクノロジーによって引き起こされた問題の解決に、テクノロジーを使うのはやめましょう」
 気候変動についての講演で、憂慮する科学者連合のアルデン・メイヤーは、日本の各省庁の立場はバラバラで、首相は彼らの審判役のようだと述べた。環境と開発に関するドイツNGOネットワークのユルゲン・マイヤーはバリ会議で、日本政府の基本的な立場は、「日本はもっともエネルギー効率の優れた国で、これ以上何もする必要がない。他の国こそ何かすべきだ」というものだと述べた。多くの参加者は、この発言を聞いて驚いた。気候ネットワークの浅岡美恵は、「トヨタは温室効果ガスの排出カットに数値目標を設定することに、真正面から反対している」と述べた。電力会社は、「風力発電は信頼性に欠けるので、補助的な役割しか果たせない」というが、それは本当ではない。彼らがそういうのは、電力市場の支配権を失いたくないからだ。だが、他の国々では、風力発電はすでに総発電量のかなりの割合を占めている。たとえば、デンマークでは2005年には、総発電量の18%を風力が占めている。日本で設置されている風力発電機の多くは海外製だ。
 この事実から、一つの重大な疑問が浮かぶ。日本は、ソーラー発電の分野で先端技術を持っているのを自慢することが大好きだ。なのにどうして、再生可能なエネルギー資源は、日本の総エネルギー使用量の1%にすぎないのだろう? 答えは、日本のテクノロジーはそれほど進んでいないか、コストが高すぎて使えないか、政府や企業がまじめに推進していないか、そのどれかだろう。
 ジュビリー・サウスは、環境破壊は一種の債務-つまり環境債務-だと述べている。気候変動(とさまざまな環境破壊)を引き起こしたのは豊かな国々だが、それによって被害を受け、将来もっとも被害を受けるのは貧しくされた国々だ。豊かな国々はこの被害を補償しなければならない。
 あるワークショップでは、持続的エネルギー・経済ネットワークのジャネット・レッドマンが、大企業が気候変動の危機を、金儲けのチャンスととらえている実例を紹介した。国連の気候変動枠組み会議のもとで、炭素削減はある人々に莫大な金をもたらした一方で、温室効果ガス削減の実現にはほとんど-あるいはまったく-役立たなかった。

●食糧危機
 「食糧危機」も同様だ。実際、この言葉は、すでに飢え死にしそうな何百万人もの貧しい人々を侮辱している。食糧危機はすでに長年続いている。そして、ここでもまた、「危機」はG8諸国が推進する政策によって引き起こされてきたのだ。なのにどうして、G8諸国に解決を期待できよう?
 豊かな国々が貧しく飢えている人々を助けるのを断った例はたくさんある。日本政府は輸入米を、家畜のえさにしかならないほど品質が低下するまで備蓄してから、国内の畜産業者に売り渡している。昨年は、この方法で40万トンの米が処理された。そして政府は、長年にわたって、国内のコメ農家に生産制限を課してきたのだ! なぜ、アフリカやアジアの飢えている人々のためにコメを作らせないのか? 豊かな国が貧しい国々への支援を拒否したもう一つの実例は、アメリカが1974年に、飢餓に直面したバングラデシュに小麦を供給しなかった事件だ。バングラデシュ政府はアメリカに、飢餓を回避するために小麦を引き渡すよう求めたが、アメリカ財務省は、小麦を引き渡せばアメリカにインフレが起きるおそれがあるとして、拒否した。その結果、40万人のバングラデシュ国民が餓死した。
 食糧「危機」の原因の一つは投資だ。大投資家の一部が、投資先を不動産や株から食糧にスイッチしたのだ。私は、これが規制緩和の結果ではないかとにらんでいる。いずれにしても、食糧への投資がより多くの貧しい人に飢えをもたらすとすれば、防止策を講じる必要がある。
 多くの会議やワークショップで、食糧主権(食糧安全保障にとどまらない)-すなわち、食糧の大部分を世界市場の諸勢力に依存するのでなく、「自分たちの食糧や農業、畜産業や漁業を自分たちで決める権利」-が求められた。
 農民連(農民運動全国連合会)とビア・カンペシーナ(小作農、中小農家、土地なし農民、農村女性、先住民、農村青年、農業労働者の国際運動)が主催した会議には700人が参加し、講演者たちは、G8が食糧「危機」を自由貿易協定(FTA)や経済パートナーシップ協定(EPA)を促進するための口実に使っている実態を指摘した。(いわゆるFTAは、実際には自由な貿易協定ではない。もしそうなら、何千ページもの解説は必要ない。1ページで十分だ。自由な貿易なら、どんなルールも規制もなく、何でも貿易できるはずだ)。FTAとEPAは実際には、豊かな国々が貧しい国々に規制緩和を求める企てにすぎない。つまり、豊かな国々(の企業)がほしいものを取り、売りたいものを売り、投資したいものに投資することを認めさせるということだ。豊かな国々は、天然資源を(遺伝子まで含めて)持ち出すことを認めさせたいのだ。豊かな国々は、自国では有害だとして禁止されている殺虫剤や薬まで、貧しい国に売ることを認めさせたいのだ。豊かな国々は、貧しい国々の企業や公共事業(水道など)を買うことを認めさせたいのだ。つまり、豊かな国々は、あらゆることについて、それが貧しい国々にどんな影響を与えるかに関係なく、実行することを認めさせたいのだ。タイからの講演者は、農業の規制緩和の後、小規模農家がどのように土地を奪われていったか
証言した。
 国際公務労連(PSI)本部の政策担当者スベン・ロビンソンは、公共事業を民営化から守るためにPSIが果たす役割の重要性を強調した。(私はこの会議で、フィジーから来たカトリックの看護師と知り合った。彼女は、遺伝子操作と生命特許に関してコロンバン会が出したブックレットを注文して、10月にフィジーで開かれる太平洋看護師フォーラムで配ろうとしていた。バングラデシュの公平と正義に関するワーキング・グループから来ていたモハメド・シャムスドハは、上記のブックレットを翻訳する許可を求めた。彼は私に、貧しくされた国々の視点から見た地球温暖化のブックレットをくれた。このブックレットは、豊かな国々が気候変動を金儲けに利用している実例が示されている)

 コチャバンバ(ボリビア)の水道事業が民営化されたとき、国際企業体は水道料金を平均35%、1ヶ月あたり20ドルにまで値上げした。この値上げ幅は、企業体の社員の母国である豊かな国々ではわずかなものにすぎないだろうが、彼らの新たな顧客である、月収100ドルのボリビア国民にとっては、20ドルは食費を上回る値段なのだ。

●意識の成長
 サミットの一つのプラスの成果は、2000年沖縄サミットに比べて、CSO(市民社会団体)の活動が成長したことだ。日本国内や国際間のCSOの協力も増えた。ただし、前回の沖縄サミット会場に比べて、札幌やその周辺でのCSOの活動は小規模であったことは指摘しておかなければならない。
 サミット前には、地元北海道の住民の中には、北海道で行われるサミット関連の活動に参加する外部の人たちに対して、無関心な人も多いと言われていた。G8諸国が生み出す問題は私たちみんなの問題であり、どこか一国内のCSOによって解決できる問題ではない。

●結論

「神の国の現存を、イエスはあえて宣言された。イエスはあえて、『あなたたちは、まさに今、新しい現実を生きる』と言われた。今やこの言葉は特別な意味を持っている。このイエスのみ言葉に従って、神の国の完成までの時を生きることこそが信仰である。無原罪のおん宿りや教皇への信仰は、しばらく忘れよう。それらはすばらしいことだが、イエスが言われていることではない。イエスが言われているのは、神が夢見ておられる今の世界への夢を生きるための、自由と恵みだ-とはいっても、あるがままの世界を拒絶しているわけではない。この緊張関係は、容易には解決されない」(リチャード・ロア『イエスが計画される新しい世界』Richard Rohr: Jesus' Plan for a New World)

 新しい現実を生きること、つまり神の国を今(!)、生きることとは、神が全ての人を愛されており、全ての人は私たちの兄弟姉妹であるので、アフリカやアジア、ラテン・アメリカの兄弟姉妹を搾取しないような生き方をするということだ。そして、地球環境を損なわない生き方をするということだ。だから、政界や役所、そして大企業で働くキリスト信者は、私たちの兄弟姉妹、そして地球を守るために、自分のできることをすべてしよう。

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