[映画]靖国 【社会司牧通信144号】

柴田幸範(イエズス会社会司牧センター) 
 このコーナーの映画は地味な映画が多いのだが、めずらしく話題の映画を見てきた。李纓(Li Ying)監督のドキュメンタリー『靖国』だ。話題のきっかけは、この映画が、文化庁が所管する日本芸術文化振興基金から750万円の助成金を受けていたこと。一部の週刊誌が「反日映画に助成金」と報道し、自民党の国会議員らが問題にして、騒ぎが広まった。
 上映予定の映画館には右翼が抗議に訪れ、一般市民の抗議の電話も殺到したため、上映を中止する映画館が相次いだ。この問題はテレビや新聞でも取り上げられ、逆にこの映画が注目されることになった。上映館が減ったため、映画も見ずに抗議する(!)人まで出てくる始末。上映館では、警察が警戒に当たり、スクリーンと観客の間に警官が立つという異様な光景が見られた。
 ここまで来ると、余計に見たくなるのが人情というもの。公開から1週間後に出かけてみたが、2時間前に切符が売り切れる状態で、いったんはあきらめた。だが、このコーナーで紹介する映画を選ぶ際に参考にしているYAHOOの「ユーザーレビュー」でも、8割方がいわゆる「ネット右翼」の人たちによる非難中傷の書き込みで、逆に興味が高まり、公開2週間後に思い切って行ってみた。
 念のため初回(10時半)の30分前に行ったが、それほどの混雑もなく見られた。ビルの入り口に警官が一人、劇場内に警備員が一人いたが、公開当初の緊張感はなく、リラックスして見た。
 肝心の中身だが、至って常識的で、拍子抜けした。想像していたのとは違い、監督は傍観者に徹して、ひたすら淡々と靖国の「日常」を追っていた。最初の内は、構成があまりに単純で、カメラワークも見づらくて、正直イライラしていたが、後半からグングン引きこまれた。終わってみたら、単純な構成も、カメラのブレさえ、すべて監督の計算だったのかもしれないと、妙に納得した。 画面は靖国神社に集う人々を映し出す。軍服姿で絶叫する青年。海軍の軍服姿で行進するグループ。小泉首相の靖国参拝。その小泉首相の参拝に賛成だという、兄弟が靖国に祀られている女性たち。小泉首相の参拝に賛成して、星条旗を掲げてアピールするアメリカ人男性は、「アメリカの国旗なんか掲げるな」と怒り出した人たちによって、境内から追い出されてしまう。
台湾の先住民女性は、「父たちの魂を返せ」と、神社の職員に詰め寄る。 境内で開かれた追悼集会に乱入した青年は、参列者に殴られて、血まみれで警察に連れて行かれる...
 靖国の「日常」は「非日常的」だ。そこでは誰もが舞台の役者のように過剰に演技してしまう。
 この映画は一方で、靖国神社のご神体である「靖国刀」を作っている、最後の刀匠の老人に密着する。彼は映画完成後、監督に映画の内容について嘘をつかれたとして、自分の登場シーンを削除するよう要求したと言われる。だが、この映画での彼の描き方は、そんなに悪くないように思われる。
 映画の実に三分の一から半分近くが、刀匠のインタビューと刀作りのシーンだ。刀匠は、靖国の「非日常的」な人々と違って、実に淡々と刀づくりをしている。監督から、自分にとっての靖国の意味を聞かれても、うまく言葉にできない。こんな「普通の人」こそが、靖国を支えてきたのだろう。
 監督が「刀」にこだわる理由を私なりに考えてみた。刀は間違いなく人殺しの道具だ。だが、刀は(特に日本刀は)美しい。神秘的な力さえ感じさせる。だから「ご神体」なのだ。宗教も、この「刀」のように、むき出しの暴力と神秘的な力を併せ持ったものなのかもしれない。個人的感想だが。
 見ようかどうしようか迷っている方、特に、靖国神社のことをあまり知らない方にはお奨めだ。プログラムも資料として良くできている。

<社会司牧センター柴田幸範>

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