「京浜便り(27)」 聾者への司牧の近況 ―フィリピン ケソンシティ カルバイヨグ- 【社会司牧通信144号】

阿部 慶太(フランシスコ会)

 フィリピンで聾者の教育のため奉仕している佐藤宝倉神父(フランシスコ会)を3年ぶりに訪問し、現地における聾者への司牧の現状について触れる機会がありました。
 佐藤神父は、2002年以来、フィリピンに宣教師として派遣され、現在はケソンシティとサマール島のカルバイヨグ市で聾者のためのリーダー養成や聾者への教育活動を続けています。
 3年前にケソンシティでリーダー養成を受けていたメンバー達は、養成を終えて、カルバイヨグ市他で奉仕を始めていました。前回の訪問時にはフィリピン手話での典礼も日常会話のほか英語の手話の取得に苦労していましたが、佐藤神父の指導や支えによって将来の聾者のための奉仕を担う人材へと変わりつつありました。
 ケソンシティ訪問後に、マニラから飛行機で1時間半ほどのサマール島のカルバイヨグ市に新たに建設されたカルバイヨグ・フランシスカン・デフセンターを訪問しました。3年前は借家でしたが、現在はドイツからの援助とフィリピン国内からの支援で鉄筋コンクリート3階建ての学生寮と教室を備えたセンターが建設されていました。20名の学生とリーダー5名が寄宿生活をしています。
 前回の訪問のときには学生達は、山奥や、町から離れた海沿いの村から来て、センターでの生活を始めたばかりで、手話にも自信がなかったためか、少し引っ込み思案な印象を受けましたが、現在では、上級生になって新入生の学生の予習・復習を手伝ったり、生活指導などをするようになっていました。教育と生活訓練で顔の表情にも自信があふれている、そんな印象も受けました。
 やはり、教育というのは大きいなと感じたのは、手話を習い、学年があがってゆくにつれて、学生達は将来の夢や希望を持ち始めているということです。たとえば、聾学校を卒業後は、手に職をつけたいとか、自分も聾学校の先生になって、自分たちのような学生の助けになりたい、などです。
 以前は、学校にも行けず、手話も全く分からないで、家の中で体力の続く限り家事手伝いをするしかない状況だった聾者が多い、フィリピンの山間部や海岸周辺ですが、少人数ながら、佐藤神父の尽力で学校に通えるようになった子供たちが出てきて、現在は将来の希望を持つまでになっています。
 さて、佐藤神父が、こうした活動を継続するもうひとつの理由は、フィリピン国内の障害者に対する感覚、たとえば日本のようなバリアフリーの意識がまだ低く、隔離という発想が強い点を変えてゆくためには、教員の養成、ボランティアスタッフや理解者拡大が必要条件だと考えているからです。
 今回感じたのは、フィリピン人の聾者による自立した聴覚障害者の共同体づくりや地方に隔離されて暮らすしかない障害者の自立や教育を受ける機会の拡大を目指している活動が、小さいなりに形になりつつあるということです。数年先が楽しみな希望の見える訪問でした。
=====     Copyright ®1997-2007 Jesuit Social Center All Rights Reserved     =====