「報告」住居建築を通じ貧困解消に貢献 【社会司牧通信143号】

特定非営利活動法人ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン
 ハビタット・フォー・ヒューマニティは、キリスト教精神に基づき、キリストの愛と教えの実践として、人々に住まいを持つことの重要性を訴え、世界中に存在する低水準住居やホームレス問題の解消に向けて、住居建築を通じて貢献しようと活動している国際非政府組織(NGO)です。安全で手の届く価格の住居を持つことは人間の基本的な権利であり、わたしたちは世界中のすべての人々にシンプルながらも丈夫な住居を持つことの必要性を訴え続け、信仰、人種、性別、貧富を問わず世界中の人々とパートナーシップを結んで、住まいを必要としている家族や地域住民、世界中から集まったボランティアとともに住居建築・修繕の活動をおこなっています。
 国連の統計によると、地球上の5人に1人に相当する12億人を超える人々が、1日1ドル未満の極度の貧困状態の中で暮らしています(国連開発計画「人間開発報告書2003」)。こうした所得貧困層の人々は、保健医療、教育などの恩恵を受けられないだけでなく、「十分な栄養」「安全な水」「住居」「トイレ、風呂、下水道などの基本的な衛生施設」「就業の機会」といった、日本では当たり前と思われているような基礎的社会システムを利用できずにいます。貧困のために社会システムにアクセスできない、社会システムにアクセスできないために貧困から抜け出せない-という貧困の悪循環は、いずれも深刻な生死に関わる問題に直結しているのです。
 このような所得貧困層が多く生活する開発途上地域では、農村部や都市スラム街などで住居環境の改善が緊急の課題となっています。ハビタットの活動は住居建築に限られるとはいえ、彼らに生存の基礎を提供することを通じ、人としての尊厳や仲間との連帯意識、さらには地域への愛着を生み育てることに役立っています。
 住居を持てない理由は貧困だけではありません。近年、世界で頻発している災害、紛争も家を失う大きな原因です。このうち災害による住居の被害は日本も例外ではありません。ここ数年だけでも2004年新潟県中越、2005年福岡県西方沖、そして2007年には3月に能登半島、7月に新潟県中越沖と立て続けに大きな地震が発生し、多くの住居が被害を受けました。ハビタットでは、こうした災害により住居を失った人々が立ち直ろうとする努力を地域の人たちとともに少しでも手助けする活動を続けています。
 ハビタット・ジャパンでは、2006年以降だけでもパキスタン大地震、バングラデシュ洪水、日本では能登半島地震などの大規模災害により被害を受けた方々への支援活動をおこなってきました。

 また、ハビタットは災害時の支援だけでなく、地域において日常的な活動をおこなっています。
 地域社会などの周囲から孤立した高齢者世帯(とくに一人暮らし高齢者)では、住環境が極端に悪化する傾向が顕著です。若い頃は何でもなかった住居の小修繕や家具の配置換え、清掃といった日常の当たり前のことが、高齢者には大きな負担となっています。例えば、高い位置にある電球の取り替えさえ困難なケースも稀ではありません。誰にも頼めず、相談する相手もいないという状況が事態を困難にしているのです。
 ハビタットの国内事業では、こうした地域の中で孤立している高齢者世帯に直接働きかけをおこない、ボランティアの力による小修繕や清掃などの住環境の整備をきっかけとして、高齢者-ボランティア双方の地域との関わり、世代を超えた交流などを実現しています。これにより、高齢者が地域で安心して元気に、きちんとした場所で暮らせる環境づくりに貢献しています。
 「中野区すまいるオペレーション」と名づけたこの活動に参加したボランティアから、次のような体験談が寄せられています。


国内事業・
中野区すまいるオペレーション体験談
【神田外語大学3年・新井泰香さん】
 今回参加して、このような国内での支援活動の必要性を改めて実感しました。お年寄りの一人暮らしは、毎日の掃除やストーブなど重たいものの移動が困難です。Kさんのお宅の様子から、たとえ住む場所があったとしても、快適に生活できる状態を維持することが、体の弱っているお年寄りにとっていかに大変かが感じられました。
 実際に掃除をしてみると、思いのほか夢中になってしまい、あっという間に時間が経ってしまいました。Kさんも、「そこのスポンジ使ったらいいよ」「ゴミはこの袋に入れなよ」と私たちを気づかってくれ、最後には涙を流して喜んでくれました。たった2時間掃除をしただけで、そんなに喜んでもらえるとは思っていなかったので、「やってよかった」と心から思い、Kさんの「ありがとう」という言葉や笑顔が、とても嬉しかったです。
 Kさんは「きれいにしてもらっても、自分で維持できない」ということを気にしていました。だから掃除中、何回も「適当でいいよ」「またすぐ汚くなっちゃうから」と言っていました。確かに、一回きりの支援では意味のないことかもしれません。お年寄りには、自立支援というのも難しいと思います。今回のような支援が、継続的なハビタットの活動のひとつとして、これからも続いていくといいなと思いました。その時はぜひ、また参加したいです。

【明治学院大学2年・倉田あゆ子さん】
 私はハビタットの活動に参加してから今まで「家を建てる」という方法で居住問題を見てきましたが、今回新しく国内事業に参加したことで、新しい視点で取り組むことができたように思います。今までの方法だと、日本国内ではあまり需要がなく、あったとしても実施することは困難でした。しかし、今回の「独居高齢者宅の修繕、清掃」という点では国内でも非常に需要が高いように感じました。今回のKさんのお宅では2時間程の作業でしたが、来る前に比べると大分きれいになりました。この程度ならば、学生支部の活動の一環として取り入れれば大きな成果が出せると思います。
 ただ、今回の参加にあたり一つ注意しなければいけないと思ったことがあります。それは、中途半端な気持ちで入ってはいけない、ということ。これは、どの支援を行うときも同じだとは思いますが、今回はとても強く感じました。私たちが作業を行っているときKさんは、「もういいから。あんまりきれいになり過ぎると使い方がわからなくなっちゃうから」と、何度も言っていました。私は、その言葉が高齢者の方が一人で暮らしている寂しさを表しているように感じました。普段一人で生活していて、急に若い学生が来てにぎやかになる。でも、いなくなった後の寂しさが目に見えるから、それ以上きれいにしなくていい…考えすぎかもしれないけれど、そんな風に聞こえて、支援をするならば1回きりで終わらせてはいけない、きちんと計画をしてから入っていかなければいけないということを強く感じました。
 高齢社会が進む日本でKさんのようなお宅はたくさんあり、需要はこれからどんどん出てくると思います。今回はその需要を実際に目で見ることができ、またその需要に対し気をつけていかなければいけないことも感じることができました。パイロットプロジェクトとして成功だったと思います。ありがとうございました。

【青山学院大学1年・冨永和弥君】
 自分はこの4月からハビタットの活動に加わり、GVに行くことなどを通じて世界中さまざまな場所が抱えている貧困住居の問題に触れてきました。しかし、今まで海外への支援は色々行ってきたものの、日本国内での活動にはあまり関わったことがありませんでした。そんな自分にとって、今回のプロジェクトは新鮮なものであったと感じています。また国内での活動という点以外にも、家を「建てる」ではなく、もともとある家を「清掃、補修する」という新しい形での関わり方を通して、「家がある人でも問題がないわけではない。こういった支援も必要なのだな」と、別の視点から見た住居の問題について考えさせられました。今回は中野区でのパイロットプロジェクトということでしたが、ぜひとも継続して支援を続け、ゆくゆくは支援対象をもっと増やしていかれたらな、と思います。今回の体験で得た、国外だけでなく国内の問題にも目を向けることの大切さを忘れず今後の活動に活かしていきたいです。
 世界には無数のNGOが存在し、活動していますが、ハビタットは住居の建築・修繕を社会問題解決のひとつの手掛かりとして展開する数少ない団体であり、地域に根ざした独自の活動を続けています。適切な住居を必要とする低収入家族や高齢世帯など社会的な弱者に目を向け手を差し伸べる活動を通じ、貧困や住居問題に対する理解促進に貢献することがわたしたちの役割です。

海外建築ボランティア活動
 次に、ハビタットの中心的なボランティアプログラムである「海外建築ボランティア活動」を紹介します。
 ハビタットでは主に2つの海外建築ボランティアプログラム、「グローバルヴィレッジ(GV)」「ジミー・カーター・ワークプロジェクト(JCWP)」を提供することによって、ボランティアの皆さんとの協働による住居の建築・修繕を行い、貧しい住居環境の解消と地域社会の発展を目指しています。
 GVとは、世界中にあるハビタットの事務所と連携しておこなう7~10日間の海外建築ボランティアプログラムで、15~25名程度でボランティアチームをつくり、世界各国にて住居建築活動を実施します。参加申込みはチーム単位が基本ですが、個人参加希望者も既存のチームへの参加、または個人参加者のみで結成されたチームへの参加が可能となっています。
 JCWPは、毎年1週間、ハビタットのボランティアの一人である元アメリカ大統領のジミー・カーター夫妻が、世界から集まったボランティアと一緒にハビタットの住宅建築活動をおこないます。何千人というボランティアが一堂に会し一斉に家を建てる、いわば建築ボランティアの祭典といったところです。世界各国から集まるボランティアと寝食を共にし、住宅の完成を目指します。
*ボランティアと活動先
 日本からは毎年700~800人のボランティアをアメリカ、インド、インドネシア、カンボジア、キルギスタン、サモア、スリランカ、タイ、バヌアツ、パプアニューギニア、バングラデシュ、フィジー、フィリピン、ベトナム、マレーシア、モンゴル、ルーマニア等へ派遣しています。老若男女、日本人・外国人を問わないさまざまなボランティアの皆さんの中には数多くのリピーターがいる点も建築ボランティアプログラムの大きな特徴です。
 そして、もう一つの大きな特徴として学生ボランティアによる活動の支援があげられます。建築ボランティアプログラムに参加するボランティアの皆さんの約80%が高校生・大学生によるものです。これら学生ボランティアの皆さんの活動をハビタットではユースプログラム(Youth Program)という形で支援する体制を整えています。

*ユースプログラム
 ユースプログラムは、ハビタットのミッションである途上国における住居建築活動を通じておこなう若者育成支援プログラムです。ハビタットサポーターとしてユースプログラムに参加する若者は、「世界から貧困住宅をなくす」を合言葉に、彼らの想像力、エネルギー、希望を最大限発揮・実現するための活動を自ら計画・実行しています。ハビタットはそんな若者の活動を応援しています。現在、ユースプログラムの大きな原動力になっているのが、キャンパスチャプター(CC)、キャンパスクラブ(CClub)と呼ばれる学生団体(大学生・高校生)による活動であり、1987年以来、世界に900近いキャンパスチャプターが設立されています。2007年10月現在、日本でも8つのキャンパスチャプター、4つのキャンパスクラブの計12団体(内大学10、高校2)が活動しています。

*キャンパスチャプター(クラブ)の活動内容と役割
 キャンパスチャプター(クラブ)は、学生によって自主運営されているハビタットの学生団体です。日本の国内外で活発な活動をおこなっており、ハビタット学生支部としての重要な役割を担っています。そして、次の3つの大きな役割を担い活動をおこなっています。

住居建築活動 -Building House-
 ハビタットが活動を推進する途上国において現地ハビタットと、ホームオーナー(家の持ち主)と協力して、家の建築・修繕活動をおこないます。

啓発活動 -Awareness Raising-
 学校、コミュニティ、そして各地で開催されるイベントや自主企画するイベントで、貧困住居問題の現状やハビタットの活動を多くの人たちに伝えています。加えて、国内外の居住や貧困問題などの勉強会もおこなっています。
募金活動 -Fund Raising-
 街頭募金やフリーマーケットを通して、ハビタットの活動を支えるための資金を集めます。学生たちは、キャンパスチャプター(クラブ)の活動を通して、社会問題への関心を実際に行動に移し、同じように関心をもつ人々と協力して活動の裾野を広げています。


*学生ボランティア体験談
ルーマニア(Pitesti)
2008年2月18日(月)~3月3日(月)
 私たちはルーマニアのピテシュティで約8日間建築活動をしました。ワークサイトはホテルから車で約30分の場所に位置し、周りには大草原が広がり、既に完成しているアパートに住んでいる人たちと楽しく作業をすることが出来ました。私達が携わった建物は2階建てアパートで、既に1階部分が完成した状態からの作業でした。主に水道管と下水管のための側溝をつるはしやスコップを使い約70cm掘り、管を通した後に土を被らせ平らに均しました。後半は、2階部分の骨組みとなる木の部品を作りました。側溝を掘る作業は目に見える形としてはわかりにくいものでしたが、私達は水道管、下水管という生活には欠かせない設備を完成させた事への達成感を得る事が出来ました。私達が訪れる前に1階部分を他の国のチームが手伝い、私達が帰った後も他のチームが手伝うそうです。人が住む為の家を建築するという大きな流れの一部になれたことに対して、私たちは誇りを持っています。

フィリピン(Taguig)
2008年2月20日(水)~2月29日(金)
【Kyoto Gaidai Habitat (京都外国語大学)】
 私たち14名はフィリピンのタギグ市において、建築活動を行ってまいりました。ワークサイト周辺には、スクウォッターという地区がありました。ハビハウスとスクウォッター地区はフェンス一枚で隔てられていました。ワークサイトは7軒がほぼ完成に近い状態で、8軒目の土台作りから携わらせて頂きました。
 他にやらせてもらったワーク内容としては、ブロックリレー、セメント流し、CIBブロック作り、屋根作りやペンキ塗りでした。現地の技術労働者さん達は、とても分かりやすく私たちに作り方を教えてくださり、言語の壁を乗り越えて、スタッフの人々と楽しく交流することができました。ワーク中はいつもメンバーの輝く笑顔を見ることができました。これも現地ハビタットスタッフをはじめ、ホームパートナーさん、大工さんの絶え間ない優しさのおかげだと思います。
バングラデシュ(B.Baria)
2008年2月26日(火)~3月9日(日)
【kandaiハビタット (関西大学)】
 私たちはホテルから車で20分のところにあるワークサイトで建築活動を行いました。ワークサイトが2つあり、10人で行っていたのですが5人ずつに分かれて建築活動を行いました。自分がいた方しか詳しく説明ができないのですが、ワークサイトの周りには田んぼが広がりすごくのどかな場所でした。建築する家はレンガ造りの一軒家でまわりにはホームオーナーの親戚が生活をしていました。作業としてはまず家の土台作りで砂を掘るとこからはじめ、レンガ運び、セメント運び、土運びと「かご」を頭に乗せ運ぶ作業がほとんどでしたが、セメント塗り、レンガを積んでいく作業もさせてもらいました。初日はよそ者が来たような感じでホームオーナーや大工さん、まわりの人とも距離があったのですが徐々にそれがなくなっていき、子どもたちやまわりの人々と交流しながら楽しくワークをすることができました。完成まで携わることができなかったのがとても残念だったのですがワークをしながら様々な人と触れ合えたことは私たちにとって貴重な体験でした。
関連行事ハビタット講演会
【日時】 2008年6月30日午後6時
【場所】 上智大学(教室は未定)
【講師】 国際ハビタット代表Jonathan Reckford氏
【共催】 上智大学カトリックセンター、学生センター、ハビタット・ジャパン
【問い合わせ】 電話(03)3238-4161