【社会司牧通信 141号 2007/12/15】
 

 死刑制度に反対する運動を続けていくうちに、裁判員制度の問題に興味を持つようになった。というのも、裁判員制度の対象となるのが、死刑に相当する重大犯罪であるというのが一つの理由だ。だが、それ以上に大きな理由は、裁判員制度が私たち市民に、「裁判とどう向き合い、どう関わるのか」を問いかけているからだ。
 法務省は、死刑存続の最大の理由を、「死刑を支持する国民感情だ」と言うが、それは積極的な支持というよりも、むしろ裁判を他人事としか感じていない結果のように思える。ドラマを見るように犯罪報道を見て、被害者に同情し、加害者を憎み、リンチのように「死刑」を求める今日の日本社会。気楽な第三者の立場を享受する私たちを、裁判員制度は根本から問いなおす。
 2009年の裁判員制度スタートまで、ついに2年を切ってしまった。だが、正直言って、私自身、裁判員制度をよく知っているとは言いがたい。そこで、にわか勉強ながら3冊の本を読んでみた。
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 まず、裁判員制度の全体像を紹介するのが、『裁判員制度がよ~くわかる本』(秀和システム、2007年、700円+税)。著者の「開かれた裁判制度」研究会は司法関係のジャーナリストらの集まりだ。「ポケット図解」シリーズの1冊だけあって、▲司法制度改革、刑事裁判の流れ、▲裁判所と法廷の仕組み、▲世界における裁判への市民参加、▲裁判員制度の仕組みと実際の仕事…などについて、わかりやすくまとめている。巻末には、各地方裁判所ごとの裁判員候補者になる確率(最高は大津の0.28~0.56%、最低が佐賀の0.05~0.10%、ただし2004年のデータによる)など各種データがあり、便利だ。

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 2冊目は、『裁判員制度』(平凡社新書、2004年、720円+税)。この本は、裁判員制度と陪審制度(裁判官を含まず市民だけで評決する)・参審制度(市民が裁判官と協力して評議する)の比較、
裁判員制度の導入決定の舞台裏などを詳しく述べている。 著者の丸田隆氏は、アメリカのロースクールなどで教えてきた法学者。裁判員制度の不備を認めつつも、市民が裁判に関心を持ち、「市民による、市民のための」裁判へと変えていくために、裁判員制度を積極的に活用し、改善していくべきだと主張する。
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 3冊目は『裁判員制度の正体』(講談社現代新書、2007年、720円+税)。タイトルを見れば分かるように、これは裁判員制度批判の書だ。著者の西野喜一氏は、裁判官出身の法学者。裁判実務に詳しいだけあって、著者の裁判員制度批判には、相当の現実味がある。ただ、気になるのは、「刑事裁判は複雑で難しいのだから、専門家(裁判官)に任せて、素人は口出ししない方がいい」という、著者の基本姿勢だ。実際、本書には「素人」という言葉が実にひんぱんに出てきて不快だった。「市民蔑視」は結局、司法の腐敗につながることを忘れてはならないと思う。

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 とにかく2年後、裁判員制度はスタートする。ドラマではなく現実に、私たちは裁判に参加し、人を裁く。その時、私たちの良心や法意識、他人への想像力、人間性が試される。だからこそ、私たちは司法をめぐるさまざまな問題を、他人事ではなく自分のこととして考えていかなければならない。そのきっかけとなるなら、それだけでも裁判員制度導入の意味はあるのではないか。西野氏が言うように、「素人の参加が刑事裁判の崩壊につながる」のかどうかは、私たち自身にかかっている。
【イエズス会社会司牧センター/柴田幸範】