【社会司牧通信 141号 2007/12/15】
映画
 
 久しぶりにメジャーな映画を見た。脚本・監督は、人気劇作家の松尾スズキ。出演者は内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう、妻夫木聡、大竹しのぶ…と、豪華な顔ぶれだ。だが、舞台が何とも重たい。精神病院の、女性だけの閉鎖病棟なのだ。インターネットであらすじを読んで、観るのをためらったが、ユーザーレビューに精神科医が、「患者の病態がよく描かれている」と書いていたので、思い切って観てみた。面白かった。そして考えさせられた。

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 クワイエットルームとは、自殺のおそれなどがある患者を保護する部屋。主人公の28歳の女性は、ある日、目覚めるとクワイエットルームで拘束されていた。本人には前後の記憶がない。同居している男性が面会に来て、どうやらOD(Overdose、薬物過剰摂取)で強制入院させられたらしいと知る。保護者の同意がないと退院できないが、同居する男性は海外出張で連絡が取れなくなる。そこから2週間にわたる主人公の、涙と笑いの入院生活が始まる。
 患者仲間は、食べたくても食べられない少女。過食症の中年女性。ODで入院した、常識あふれる、医師の妻。少しでも食べ物を口にすると、カロリーが気になって走り回る若い女性。5年も入院している、ブルジョアなのに拒食症の少女…それぞれ深刻な問題を抱えた女性たちが、社会から隔離されて、24時間同じ空間で暮らす、精神病院の閉鎖病棟。「こんなにたくさん人がいるのに、こんなに寂しい場所はない」という患者の言葉は、実は閉鎖病棟だけのことではない気がした。
 自分は自殺しようとしたのではない。ODは単なる事故だと信じる主人公は、患者仲間や看護婦たちと、時にはぶつかり、時には助け合いながら、一刻も早い退院をめざす。だが、同居する男性からの手紙は、彼女が無意識に忘れようとしていた、ODの本当の理由を突きつけていた…

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 こう書くと、まさしく重たい映画のようだが、そこは人気劇団を率いて20年のキャリアを持つ監督のこと。随所にシニカルなユーモアをおりまぜながら、独特の映像センスで楽しく見せる。出演者たちの達者な演技もあって、「限定された場で、登場人物すべてに物語がある、群像劇をつくりたかった」という監督の意図は、みごとに実現している。
 だが、インターネットのユーザーレビューでも多かった感想は、「やっぱり重たい」というものだった。精神病という微妙な問題をどう考えていいのか。重たい問題を笑いにくるんで、娯楽作品に仕上げたこの映画を、どう評価したらいいのか。悪ふざけしているだけなのか。ユーザーレビューの書き込みには、そんなとまどいが見える。
 でも、僕個人としては、何も知らないよりは、笑いながらでもこの映画を観た方が、はるかによいと思う。「心の悩み」に取り組むタスクチームとして活動してきて感じるのは、まさに上記のような、人々の「とまどい」だ。誰にでも起こりうる「心の悩み」。でも、あまりに怖くて、できれば見たくないし、触れたくない。だから、タブーになってしまって、実際に我が身に起こるまで、何も知らないままなのだ。一番こわいのは無知だ。私たちは知らない相手をおそれ、排除するのだ。

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 自分のODの真実を知った主人公が、こんな独白をする。「わたしは、神様に居場所を選んでもらうため、薬を飲んだ。そしてクワイエットルームにたどり着いた。それ以上でも以下でもない。最高にめんどくさい女が着地するべき正しい場所に、ただ、いるのだ。ようこそ、クワイエットルームへ」
 私が今いる場所はどこなのか。私とはいったい何者なのか。自分をごまかさずに考えたい人に、おすすめの映画だ。

<社会司牧センター柴田幸範>



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