【社会司牧通信 138号 2007/6/15】
阿部 慶太(フランシスコ会)
 以前、127号(2005年8月発行)の中で、南アフリカ共和国(以下南アフリカ)でHIV/AIDS(以下エイズ)のために尽力していた根本昭雄師(フランシスコ会)が南アフリカでの活動を終えて、ロシアに宣教に行ったことを紹介しました。
 その根本師から最近便りが届きました。内容は、なぜ南アフリカからロシアに向かったのか、ロシアのエイズ患者を生む土壌などについてでした。


 根本師は、依然として世界中に蔓延し続けるエイズの猛威に、信仰者としてどう立ち向かうべきなのか、アフリカで出会ったエイズ患者に対して自分は何もしてあげられなかったのではないのか、などのことを考える中で、命の尊厳を尊ぶことを伝える必要性を痛感したそうです。
 薬、医療施設や医療スタッフの拡充は緊急対策として要求されますが、患者は減るどころか、むしろ、ますます増え続け、中国、ヨーロッパ、ロシアなどの広範囲に広がっています。
 実際、エイズは破壊的な規模と、対応の難しさから、比類のない課題と言われています。完治する治療薬やワクチンは開発されておらず、様々な努力にもかかわらず流行の勢いは一向に衰えていません。2004年一年間に世界で490万人がHIVに感染し、310万人がエイズにより死亡しています。国連のエイズに関する調査では、アフリカ、東南アジアはもとより、中国、東ヨーロッパ、ロシアへの拡大が懸念されています。


 根本師は、そうした状況を見れば見るほど、ほかの地域での対応も考えていきたいという思いが強くなっていったといいます。
 そして、ロシアに行き、アフリカ同様、非常に貧しいスラムのような環境の地域が多く存在するということは、エイズの蔓延に繋がるという点で共通していると確信したといいます。
かつて働いていた南アフリカでの環境がそうでしたし、そうした環境がエイズを生む土壌となったからです。
 現在、南アフリカには、国連そして世界諸国が支援・救済の手を伸べていますが、こうした、支援の及ばないほかの地域にエイズの波が広がりつつあると感じるそうです。
 ロシアではストリート・チルドレンが増えています。こうした、悲惨な社会現象がエイズ拡大への引き金にもなっている、ということです。大国とはいえ、その影に隠しきれない貧しさが横たわっているからです。就職難、家庭内の争い、両親のアルコール中毒、離婚等々のために、子供たちは登校拒否に始まり、家出、麻薬やシンナー遊び、暴力、レイプなどの犯罪へとエスカレートし、そこから感染につながってゆくからです。


 世界のどの国も、手遅れにならないように、アフリカの二の舞にならないようにと訴え続けたい、そのために根本師はロシアの宣教プロジェクトに参加したそうです。
 その中で、根本師が取り組みたいのは、患者同士が支えあえる環境、薬や医療対策だけではなく、命の尊厳を尊ぶ“命の教育”の場が世界中に広がるよう、国境を越えて連帯の輪を広げるということです。
 まだ、歩行が可能で、しかも、語ることが出来る状態の患者なら、病床にある患者を訪問し、痛みを分かち合い、祈り励ますことが出来、お互いに死と向き合う短い命であっても、互いを慰めあうことが出来る。これに勝る薬、適切な医療行為を、他には考えられないし、また命の尊厳を証しするものも他にはない。そのため、こうしたプロジェクトを実施してみたい―ということでした。
 いつの日か、ロシアからアフリカへ、アフリカからロシアへと患者たちが、何らかの方法で交流し励ましあうなら、癒しの輪は大きく広がると確信している―と根本師の手紙の結びにありました。
 今年76歳の根本師のチャレンジは、南アフリカからロシアに場を移して続くのだと感じました。