【社会司牧通信 135号 2006/12/15】
 岩田鐵夫(麹町教会信徒・社会福祉士)
多くの障害者の反対を押し切って2005年10月31日に「障害者自立支援法」が国会で成立しました。そして成立から1年、この10月1日に全面施行されました。介護保険法や支援費制度のときは準備期間が3年近くもありましたのに今回「どうしてそんなに」と思うほど急ピッチで実施し現場の混乱を招いています。あまりに障害者の実情やニーズを把握しないで、福祉の理念より国家財政の福祉予算削減だけを優先した法制化が、この「障害者自立支援法」を難しく分かりづらくしています。
障害者の法律の歩みと現状
 障害者に関する法律は大きく3つに区分されてきました。

1. 「身体障害者福祉法」は昭和24年(1949年)に成立し25年(1950年)に施行されました。全国に351万人の方がいて19万人の方が施設か病院で生活されています。
2. 「知的障害者福祉法」は昭和35年(1960年)に「精神薄弱者福祉法」として成立し、同年施行されました。平成11年(1999年)に「知的障害者福祉法」に改正されました。全国に46万人の方がいて、13万人の方が施設か病院で生活されています。
3. 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」は昭和25年(1950年)に「精神衛生法」として成立し、同年施行されました。平成7年(1995年)に現在の名称に改正されました。全国に258万人の方がいて、35万人の方が施設か病院で生活されています。

 3つの法律の成立時の名称を見ると分かるように精神障害に関する法律が「福祉法」の名前がついていないのが分かります。これは長い間、精神障害は「福祉」の対象ではなく、保健衛生の問題としてとらえられ、行政でも福祉分野ではなく、保健衛生分野、いわゆる「役所の福祉」ではなく「保健所」の管轄という完全に縦割り行政が行われてきました。
 このような中でこの法律では今までの身体・知的・精神3障害の福祉サービスが各々の体系で行われていたものが一元化されました。
しかしこの3障害の一元化も障害特有の違いを認めての3障害の公平さという視点が欠けたものになっているのがとても残念です。特に精神障害者の特質である「体調が変わりやすい」「疲れやすさ」「病気と障害が併存している」などが見落とされているように思います。後述する障害程度区分認定についても他の障害者と同じように実施すれば体調によっては適正な区分が決められない可能性があります。

障害者自立支援法成立の背景
 この法律が作られた理由は障害者の支援費制度の予算オーバーだと思われます。平成15年(2003年)から障害者(身体・知的)の支援費制度が始まりました。ところが厚生労働省の予測を大幅に超える制度利用があり、初年度から予算を超過し、政策の失敗が明らかになりました。そこで浮上してきたのが介護保険と統合する案です。しかし財界や自治体からの強い反対のため、やむなく断念した経緯がありました。そして登場してきたのが「障害者自立支援法」なのです。区分認定や一部負担など介護保険に酷似した制度で、介護保険と自立支援法は似ているので、将来、統合案が出てくるのが必至と言われています。


法律の体系
 この法律では財政的な面も含め国の責任で必ず行う福祉サービスを義務的経費(自立支援給付)と言い、介護給付(ホームヘルプ・ショートステイ・施設入所など)と訓練等給付(自立訓練・就労支援・グループホームなど)と医療(今までの更生医療・育成医療・精神通院公費の3つが自立支援医療として一本化)と身体障害者の舗装具があり、個別給付として日払いが行われます。
 一方、小規模作業所の事業の主な移行先の「地域活動支援センター」は、市町村ごとの財政状況によって行われる裁量的経費(地域生活支援事業)として行われ、公的補助の財政基盤が不安定だと言われています。



応益負担―利用者負担
 そのほか大きな改正点のひとつは、今まで「応能負担」で支払能力に応じて行われてきてほとんど負担がなかったのに、これから福祉サービスを利用すると必ず「応益負担」(定率負担)として、利用料の1割を負担することになるのです。作業所に働きに来ているのにどうして利用料を払わなければならないのかという利用者の声が圧倒的に多いのです。働いた作業工賃と比較して利用料の方が高いという逆ザヤ現象も起こり、作業所に行かず自宅に引きこもってしまう例もあります。このままではますますこの利用控えの傾向が増えていく可能性が危惧されます。医療費についても5%負担から10%負担に変わり、必要な通院回数を減らさざるを得ない例も起こっています。

自立とは
 「障害者自立支援法」の「自立」は本来の自分の生き方を自分で決めていく「自立」ではなく就労自立として位置付けられており、企業に就職して経済的に自立することを優先的に考えられています。企業側の労働環境が整備されてない中で行われるのは法整備の欠陥であると思いますし、障害者の自立は「経済的自立」であると画一的に規定しまうと就労できない障害者を「自立できない障害者」としてラベリングしてしまうことになりかねません。そして「自立できない障害者」をこの制度の対象からはずしてしまうことが心配されます。障害者の自立をニーズに応じて多様に考え理解することが必要と思われます。

競争の原理
今回「競争の原理」も導入されました。何人が一般企業に就職したかによって施設に支払われる給付の報酬が加算される仕組みになっています。施設の利用人員の規定も厳しく、施設運営のために必死になって利用者を確保しなければならないため利用者の獲得競争が心配されています。
障害程度区分認定
 そして今回新たに介護保険に似た「障害程度区分認定」が行われ、介護保険の79の調査項目に障害者独自の27調査項目で6区分に判定されます。判定によっては現在の福祉サービスが受けられないこともありうるのです。この制度と応益負担制度の法制化は「介護保険」と類似させており、将来「介護保険」との統合を視野に入れてのものと思われます。
 支給決定の流れは
「相談・申込」単なる申込ではなく、自分のことを良く理解してもらえるように相談しましょう。
「利用申請」
「障害程度区分の一次判定(市町村)」障害者の心身の状況を判定するためにアセスメント(評価)を行います。当事者は調査項目を事前に見てから受ける、信頼できる人の同席を求めたりした方が良いと思います。
「二次判定(審査会:医師の意見書)」審査会の委員がどのような人がなっているか関心を持って調べると良いでしょう。
障害程度区分の認定」
「勘案事項調査(地域生活・就労・日中活動・介護者・居住など)」
「サービスの利用意向の聴取(市町村)」障害者は自分の希望をきちんと伝えるだけでなく、自分のこれまでの経験や自分の今の生活環境についても理解してもらうように話すことが大切です。
「暫定支給決定」
「個別支援計画」障害者にとって個別支援計画は自分自身のものです。自分の考えや希望が反映できるように計画づくりには積極的に関わることも大切です。
「審査会の意見聴取」
「支給決定」支給決定に納得できない場合には不服申し立てができます。遠慮なく申し立てることも重要です。(訓練給付等を希望する場合は二次判定は割愛されます。)

地域障害福祉計画
 市町村及び都道府県は、国の定める基本指針に即して、障害福祉サービスや地域生活支援事業等の提供体制の確保に関する計画(障害福祉計画)を作成しなくてはなりません。今年2006年から2008年、2009年から2011年の3年ごと2期に分けて、施設数や利用者の数値目標を策定中で、その中間報告など説明会が行われたり、パブリックコメント(市民の意見)を公募したりすると思いますので、その機会に利用者のニーズにあった見直しを求めていきたいと思います。
先日、都内のある区で住民への中間報告の説明会がありました。区民がどれくらい集まり、どのような質問が出るのかが関心事でした。開始10分前に行ったときには2名ほどしか参加者がいなくてチョットびっくりしました。最終的には11名ほど集まりました。
 区側は福祉部長・障害福祉課長・保健衛生部長・保健予防課長などが出席していました。今回参加してとても良かったことは当事者が1名:脳性マヒで車椅子で参加されたことでした。まだ若い方でしたが生活がかかっている、自分たちの意見がどのように具体的に区政に反映されるのか、目標数値を実績の延び率だけで計画するのはおかしい、など苦しい発音で必死に声をあげられていました。その他にも当事者の親の方が2名参加されて積極的に意見をだされていました。
 「障害者自立支援法」が如何に障害者当事者の意見が反映されていないかが浮き彫りにされ、また強く実感しました。なお国は計画の見込み量の策定にあたって、次のような目標をかかげています。2011年度までに、現在の入所施設の入所者の1割が地域生活に移行することをめざし、2012年度までに精神科入院患者のうち7万人を退院させていく、2011年度までに福祉施設から一般就労に移行する者を現在の4倍とするなど詳細な内容で目標設定がなされています。この中で特に精神障害者の退院について厚生省は苦肉の策として「退院支援施設」なる数合わせの施設を提案し当事者や支援者から反対の声があがっています。それは病院の敷地内で入院病棟を改装して作った施設で、形だけの退院になりかねません。入院の必要がない精神障害者を、引き続き社会から隔離して封じ込めてしまうこの方法はとうてい容認できるものではありません。

小規模作業所
 この法律では利用者の他にも、多くの施設を含む福祉サービスが大きな影響を受けます。その一例として私が関わっている「精神障害者小規模作業所」について考えてみたいと思います。
 一般就労が困難な障害者を対象として授産施設や福祉工場が法律で決められていますが、絶対数が不足していることから地域で行き場のない障害者を対象にして無認可の小規模作業所が全国で6千ヵ所以上あると言われています。多くの小規模作業所は都道府県や市町村の単独補助で厳しい運営を強いられています。そこで国の補助の大幅拡充を望む声が大きくなっていた中で「障害者自立支援法」が施行されました。今回の障害者自立支援法では、小規模作業所の移行先は、この法律の中核になっている義務的経費として国が責任を持って行う自立支援給付の「就労移行支援」「就労継続支援」と言われています。この移行先は就労自立が強く打ち出されていること、高い利用料を支払わなければならないことなどから利用者のアンケートでも希望者は少ないようです。
 もうひとつの移行先の「地域活動支援センター」は「通うのがやっと」「仲間がほしい」「働きたい」「訓練をしたい」、といったさまざまな利用目的に応じて、賃金(作業所の場合は工賃という言い方をします)をもらう仕事や、創作活動、行事やレクリエーションをおこないます。
また作業所の職員や仲間に相談したり、就職活動の援助を受けたり、福祉制度の手続きの援助を受けたりするといった現在の作業所に似た事業なので、利用者の希望に沿うものですが、市町村の財政事情によって行う裁量的経費なので財政基盤が脆弱で移行に不安を残します。

最近の動き
 通所やホームヘルプ・ガイドヘルプの断念・抑制・生活費を削るなど、予想以上に深刻な影響が広がっている中、また法制化一年を期してこの10月31日に「出直してよ! 障害者自立支援法10.31大フォーラム」が開かれました。全国から日比谷公園周辺4会場に障害者1万5千人が集まり、「障害者自立支援法」の抜本的見直しを求めて国会請願デモも行いました。参加して障害者の切実な苦しみや辛さ、憤りを肌で感じました。


 また2006年11月28日の朝日新聞によれば「政府・与党は11月27日、障害者が福祉サービスを利用する際の自己負担額が今年4月から原則1割となったことについて、自己負担を一時的に軽減する措置を今年度内に導入することを決めた。障害者の負担増を盛り込んだ障害者自立支援法に弱者切り捨てとの批判が高まっていることを受け、06年度補正予算案に負担軽減策を盛り込む。法律施行から1年もたたず軌道修正を迫られた。激変緩和策として検討されるのは低所得者に対する自己負担軽減措置の追加や障害者施設への補助の増額など。予算規模は月内をめどに財務省と厚生労働省が詰める。ただ障害者自立支援法自体を見直す動きは今のところない。」この負担額軽減は喜ばしいことかもしれませんが、基本的な見直しへの目隠しにならないように注視していかなければならないと思います。
 この法律の分かりづらさは「福祉の理念」や「障害者のニーズ」からでなく国家財政における福祉予算の抑制から出発していることと障害者の実情を把握せずに法制化したことに起因していると思います。
 前述した10月31日の大フォーラムで障害者たちが叫んでいた「私たちのことを、私たち抜きで決めないで」という言葉が心に残っています。同じ思いをもつ人たちと新たにつながりをもち、このような声をいろいろな場所で伝えていきたいと思っています。