『修復的司法とは何か-応報から関係修復へ』 新泉社、2003年、2800円+税
『犯罪被害の体験をこえて-生きる意味の再発見』 現代人文社、2006年、2000円+税
『終身刑を生きる-自己との対話』 現代人文社、2006年、2000円+税
 「死刑を止めよう」宗教者ネットワークは、7月5日、米国の社会学者ハワード・ゼア氏を迎えて、『「罪の裁き」から「きずなの回復」へ-修復的司法の青書的・霊的基礎』と題する講演会を行った。『修復的司法とは何か』は、この修復的司法の理論的枠組みを丁寧に紹介している。
 近代司法(ジャスティス)においては、国家が被害者をさしおいて加害者を裁き、罰を加える。その目標は、被害者の救済や加害者の更生よりも、秩序の維持に重点が置かれている。私たちはこの応報的な近代司法を唯一の司法とみなして、犯罪の問題を考えることが多い。だが、実は近代司法が唯一の司法ではない。ゼア氏によれば、聖書の説く正義(ジャスティス)とは、罪を裁き罰を与えることよりも、紛争を解決し、関係を修復することに重きを置く。また、中世の社会では、法廷外の交渉で紛争を解決するコミュニティ司法という代替手段も存在した。さらに、現代でも、カナダやニュージーランドの先住民族の中には、独特のコミュニティ司法のシステムがあるのだ。
ゼア氏はこのように、司法の問題を考える時、「視点〓レンズ」を替える(本書の原題は「チェンジング・レンズ」である)ことを勧める。
 ゼア氏は単なる学問としてこの問題を考えているのではない。長年にわたって、犯罪被害者の支援や死刑廃止など、現場の問題に取り組んで来た。その一つの成果が『犯罪被害の体験をこえて』と『終身刑を生きる』だ。この両書はそれぞれ、犯罪被害者と終身刑受刑者をゼア氏自らが写真撮影し、インタビューした記録だ。そこからは、被害者と加害者が顔を持った一人の人間として立ち上がってくる。
 
 これらの本を読むと、マスコミの論調にのって、「犠牲者の無念を晴らすためには、犯人には死刑しかない」とか、「こんな凶悪な犯罪者は一生閉じ込めておけ」などと、無責任に言えなくなってくる。誰のための、なにをめざす「司法=正義」なのかを考えさせる本だ。
<社会司牧センター柴田幸範>