アグネス・ガッパタン(CTIC)
 日本には200万人近くの外国人移住者が在留しています。既にご存知とは思いますが、日本に居住する外国人の実態を、あらためて示させていただきたいと思います。

日本における日本人以外の居住者数

-国別に2004年現在で-
   国 人数
  韓国および北朝鮮 607,419
  中国 487,570
  ブラジル 286,557
  フィリピン 199,394
  ペルー 55,750
  アメリカ合衆国 48,844
  他の国々 288,213
  総計 1,973,747

 グラフを見て日本人以外の居住者の大多数が韓国・北朝鮮及び中国からの人たちだとおわかりでしょう。しかしながら、彼らの多くは戦前または戦中に来日した「昔からの在日」です。このグループの歴史的背景はよく知られていると思いますが、その後に「新しく来日した人たち」に関しては、多くはフィリピン、ペルーや他の南米諸国からです。
 次の表は日本の在留資格別外国人居住者人数を示すものです。39%が永住者で19%が日本人の配偶者です。あとは全員が特定の職業や仕事の下に登録されている人たちです。
在留資格別外国人登録者数(2004年)

在留資格別外国人登録者数(2004年)
資格 人数
永住者 778,583 39
日本人の配偶者等 257,292 13
定住者 250,734 13
留学 129,873 7
家族滞在 81,919 4
興行/エンターテイナー 64,742 3
就学 43,208 2
研修 47,682 2
人文知識・国際業務 54,317 3
技術 23,210 1
技能 13,373 1
企業内転勤 10,993 1
教育 9,393 0
教授 8,153 0
永住者の配偶者等 9,417 0
その他 190,858 10
総数 1,973,747 100
出典:外国人登録者統計について(日本在留外国人統計)
入国管理局
法務省(2005年7月)
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 私は今晩日本にいる移住者の状況について皆様にお話するよう頼まれました。このことについての「専門家」ではないのですが、私が移住者たちと共に何年か働いて経験したことを、一生懸命皆様と分かち合いたいと思います。
 定義によれば、『移住者』とは、ある地域や国から別の地域や国に移動する旅人、または仕事を見つけるために定期的に移動する人の意味です。それで『移住者』はよく『移住労働者』(出稼ぎ労働者)と思われがちです。日本人以外の在留外国人のことを、先ほどお見せした資料に基づいて話題にすれば、この人たちの中の誰が『移住者』といえるでしょうか? 次の表をご覧ください。

日本で就労する外国人(2004年)(推計)

在留資格 労働者数
教授 8,153 4
芸術 401 0
宗教 4,699 2
報道(ジャーナリスト) 292 0
投資・経営 6,396 3
法律・会計業務 125 0
医療 117 0
研究 2,548 1
教育(インストラクター) 9,390 5
技術 23,210 12
人文知識・国際業務 47,682 25
企業内転勤 10,993 6
興行(エンターテイナー) 64,742 35
技能 13,373 7
小計 192,124 100
特定活動 61,508  
学生のアルバイト
(資格外活動)
106,406
(推計)
 
日系人等 231,393  
不法就労/不法残留者 207,299  
日本人の配偶者/永住者 1,035,875  
出典:厚生労働省
関西学院大学教授 井口 泰氏による推計
 この表は日本での外国人労働者の数を示しています。「就労が許可され得る種類のビザ」を発行された労働者の総数のなかで、割合が一番高いグループはエンターテイナー(芸人)です。下方に特定活動と学生のパートタイム職(アルバイト)と日系人及び超過滞在の外国人を加えました。この表をさらに要約すれば次のようになります。
移住労働者とは誰か?                             

高度の技能を持つ専門家 21%
エンターテイナー 7%
学生パートタイマー 12%
日本人の配偶者 11%
超過滞在者 23%
日系人 26%
 先に述べた定義に基づいて今理解すれば、日本に在留する移住労働者は、次のような構成になると思われます。

a) 工場で働く日系人たち。ほとんどがブラジル人とペルー人で、少数がフィリピン人です。
b) このグループに次ぐのがオーバーステイの人たちで、当然のことながら工事現場などで雑役に従事し、汚い・きつい・危険な仕事をしています。男性は旅行者として(短期滞在で)来日し、女性はエンターテイナーとして来たがプロモーター(興行主)のもとから逃げ出した人たちです。
c) 次に高度の技能を持つ専門職のグループが来ます。コンピュータ技師、大企業で働く高給の専門家などです。
d) その後に続くもう一つの重要なグループがエンターテイナーで、大部分がフィリピンからの女性たちです。そのほか中国、インドネシア、ロシアからも来ています。2004年だけを見ても82,277人のフィリピン人女性、8,277人の中国人女性、5,775人のロシア人女性、3,012人のインドネシア人女性がエンターテイナーとしてはじめて来日しました。

 私は二つの特別なグループのことに触れたいと思います。どうして日本人の配偶者を移住労働者の資料に加えたのでしょうか? それは、この人たち自身が就労者のビザを持っていなくでも、多くが興行産業を経て来日し、日本人と結婚しても大部分がいまだにクラブでエンターテイナーとして、あるいはレストランでの皿洗いや、ホテルのベッドメーキングなどをして働いているからです。働き続けて、フィリピンにいる家族に仕送りをするのです。
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 注目したいもう一つの移住者グループは、船員です。 勤務の性質上、普段、町で見かけたり会ったりすることの出来ない移住者です。けれどもいろいろな国から日本各地の港に毎日かなりの人数の船員が来ているのです。

日本での移住者生活史とは?                   
 出身国、たとえばペルーとかフィリピンで、父親や母親が家族により明るい未来を手に入れるため、もっとよい働き口がないものかと探し求めます。そんな仕事を、興行主や斡旋業者が、新聞などで広告します。また、日本に行ったことのある友人からの話を耳にします。それから代理店などの助けを得て渡航に必要な要件を整え、書類などを準備します。
 ひとたび日本にやってくると、彼らは様々な難しい状況を体験することになります。文化や風習、言語、働き方などの違いに苦労し、寂しさや孤独感、無力感など感情の問題になやみます。自分自身が根ざしていた文化から引き抜かれ、どのように新しい環境に意義を見出すかに困難さを感じます。しかし、ただ出来るだけ多くのお金を稼いで故国の家族に送金するために、懸命に日本に適応しようと努力します。
 雇用契約または在留許可期間が終わる前に、彼らはさらに滞在を延長する他の手立てを探します。雇用されていた女性が6ヶ月間の契約を超えて残留する唯一の方法は、興行主から逃れて友だちのもとに身を寄せ、不法滞在のエンターテイナーを受け入れる別のクラブを見つけることです。
 もう一つの方法は日本人と結婚してビザの資格を「日本人の配偶者」に変更することです。結婚は正真正銘の場合と、ビジネス上の協定の場合―すなわち50万~100万円を毎年日本人の男性に払って女性が入管からビザを出してもらうもの―とがあります。場合によっては、急ぎのルートの結婚で相手が本当に誰かも知らず、いったん同居しても、お互いに見知らぬ人のこともあります。日本の胎児認知制度や出産後の認知制度も知らずに、妊娠すればビザがもらえると考えてしまう女性もいます。一方で不法超過滞在の男性たちは職を転々と変えて、見つかって捕まらないように祈っています。工事現場で働いている間に、時に事故にあったり、病気になったりすることがあります。ビザが切れてしまっているので、入院すると多額の費用が必要となり多くの場合支払いが出来ません。病気が重いと、彼らはたいていの場合、家に帰ることを選びます。
 その一方で女性たちはなんとか結婚生活を守ろうとベストを尽くします。けれども文化の違い、結婚の動機の違い、その他様々な要因でこうした結婚のほぼ50%が離婚に終わると推定されます。結婚生活を持ちこたえられた人たちは、日本に長期滞在して永住の資格を得ます。離婚したが子どものある人たちは、ビザを更新して働き続けることが出来ます。しかし、離婚して子どもがいない人は、別の日本人男性を見つけて結婚するか、職を得て不法残留するか、または母国に帰って近所の人たちから「失敗者」として見られる恥に耐えることになります。

移住・移動は必然                               
 このグローバリゼーションの時代に、移住・移動の人流は避けられない必然です。多くの国ですでに多様性が現実となっています。3月に国連大学でのIOM(国際移住機関)シンポジウムに参加しましたが、表題は『日本は外国人問題にどう対処すべきか?-外国人の日本社会への統合に向けての模索』でした。基調講演者はIOMの事務局長マッキンレー氏でした。彼はこう語りました。
 「いまや先進国が直面しているのは移住者を受け入れるかどうかの問題ではなく、唯一の問い、『いかに移住者が受入国で積極的・建設的な役割を果たせるように移住が確保運営されるか?』に答えることです。受入国の移住者対応に関する法制度、行政制度をいかに整えて改良してゆくかが、ここに含まれます。ヨーロッパ諸国とアメリカはこれについて合意しています。日本はこれらの国々より遅れています。しかし、遅れたがゆえに諸国の先例と経験から学んで、日本は良い対策を選ぶことが出来ると思われます。
 国連のレポートは、日本人口の老齢化に伴って、人口と生産力を支えるために、年間60万人の移住者を受け入れる必要があるとしています。もし入国管理局の推計が正しくて20万人の超過滞在者がいるとすれば、彼らの存在はこの社会で最もよく知られている秘密です。もし、どこかほかに働ける職場があれば、彼らは自発的にこの国を去って帰国するか、もっと青い牧場を探すでしょう。けれど日本の政府はこの現実を支持しませんし、まるでかれらはいないかのように振舞います。このような人たちはよくトラブルに巻き込まれた時、たとえば女性が家庭内暴力の犠牲になって警察に訴えると、入管法の違反者としかみなされず、被害者として扱ってもらえません。警察から入管に通報され、入管はただ彼女を強制送還して帰国させてしまいます。
 政府に望みたいことは、第一に、移住者は当然必要であることを認めて受容すること、そして、彼らがいろいろな面で積極的に日本の生活に貢献できるように、日本の社会に統合するのを助けることです。国連が準備したレポートは結論として、受入国への移住者の統合は次の領域にかかっているとしています:法的な身分資格、国語の言語力、適正な給料が支払われる仕事を見つける能力、市民生活への参与、そして社会サービスを受けられる権利。
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このチャレンジを受け入れた多くの国は、現在、移住者の統合に関する方針とプログラムを立てています。受入国の地域社会の人々も、移住者の自国への積極的貢献を進んで認めて支持してゆくべきでしょう」。




司牧的チャレンジ                              
 これらの事情に対して、日本カトリック教会にとってどんな司牧的なチャレンジがあるでしょう? CTIC(カトリック東京国際センター)は外国人信者や外国人グループがいる小教区に次の提案をしたいと思います。


あちこちの教会で他国語の日曜ミサが行われていることを感謝していますが、外国人のミサを生活の中の出来事やニーズに適合させる必要があります。外国人信徒はミサの中に移住者の現実と困難と喜びを反映させなければなりません。時間と労力をかけて本当によく日曜のミサを準備すれば、その実現は難しくありません。

どうか外国人信徒を教会家族の一員としてください。外国人を典礼だけではなく、教会生活の他のあらゆる領域にも純粋に参加させてください。
外国人信徒が自分のアイデンティティーを失うことなしに共同体の中に溶け込むことができるように、助けてください。現在のところ、聖歌隊に加わって歌ったり、当番制でミサの朗読をしたり、何か催しの時に自分の国の料理を作ったり、快く歌や踊りを披露したりはしています。しかし本当に参加するということは、これだけにとどまりません。小教区の教会(運営)委員会、小教区チーム、各種委員会などに参加して、教会共同体で何か決定をする過程にもあずかり、外国人信徒の意見が十分に聞かれるようになることが大切です。

外国人信徒に生涯養成の機会を与え、技術、信仰、霊性、生活、家庭などに関して学び、向上していけるようにしてください。外国人信徒は信心業には熱心ですが、教理教育を十分には受けていません。外国人の多くは子どもの時、教理を習っただけで、その後、教理教育を受けて成人としての信仰の知識を学ぶ機会を得る者は少ないのです。また、外国人信徒は日本の社会の中で生きるために、必要な生活技術を習い、それに慣れるよう訓練されなければなりません。どうか、日本の生活の現実に合うような形で自分たちの文化をどのように表現すればよいのかがわかるように、外国人信徒を助けてください。
 小教区のヘルパー、ボランティア、カテキスタ、特に洗礼や他の秘跡の準備を受け持つ人たちには養成と訓練が必要です。この役割を効果的に果たすための資料、教材その他の資源も必要です。
 もし、公式・非公式の外国人グループが小教区にあれば、どうかケアして(共に歩んで)ください。リーダーたちが養成、訓練されるための場所を提供してください。協力の過程としては、まず時間と労力をかけて彼ら自身とその活動や計画を知り、その上で地域共同体への奉仕に向けて彼らが働くのを、導き助けてください。
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外国人信徒には純粋な異文化間対話の場所が必要です。外国人信徒がお互いに知り合うのはもちろん、国の違う人々とも会合して交流し、本当にお互いの文化を理解して尊敬できるようにならなければいけません。それは単に、ミサの後にコーヒーやお茶を共にする集まりや、毎年行われる東京教区のインターナショナルデーや、バザーだけにかぎりません。こうした活動は、異文化間の相互理解のためのよいきっかけではありますが、おそらく今日、もっと歩みを進める時が来ているのではないでしょうか。
 外国人信徒の置かれた状況について、日本人と日本人以外の人々の意識を高めるために、共に学習し、働かなければいけません。彼らの祖国と日本の社会の双方が、どのように作用して、この現状をもたらしたのかを、皆が理解する必要があります。

外国人信徒がどのようにして日本教会の刷新を手伝うことができるかを、共に集まって考察する必要があります。外国人信徒は経済的理由によって自分たちの祖国を離れましたが、自分たちの信仰を携えて来ました。外国人信徒は地域の教会にどのように奉仕できるでしょうか。それを確認して、その輪郭を描き出した時、外国人信徒のなし得る貢献を実行に移すにあたって、多くの支えと協力が必要です。

最後に、一番重要なお願いとして、子どもたちに場所と時間とプログラムを用意してください。子どもたちが信仰を知り、アイデンティティに自信を持つように、愛情深くつき合ってください。学習と遊びを支え、能力に応じて役割を与え、仕事をさせてください。
 ここに提案したことはどれも、多くの時間と創造性と技術を必要とします。真に多文化が共生する教会を築きあげるのは、一朝一夕でできる仕事ではありません。その道のりは遠く、歩みもゆっくりです。私たちは共に短期・長期の司牧計画を作り、体系づけ、考察し、協調して努力する必要があります。日本人と外国人の信徒がお互いにできるかぎり助け合い、献身しなければなりません。おそらくこれまでの組織と活動スタイルはもう通用しないでしょう。新しい「教会のありかた」を見出す旅路を、みなさんと一緒に歩んでいきたいと思います。

<2006年4月12日、カトリック麹町(聖イグナチオ)教会、メルキゼデクの会での講演。筆者はフィリピン人で、聖母被昇天修道会の信徒宣教者。>





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