阿部 慶太(フランシスコ会)
 私事ですが、1月22日から2月9日まで、仕事でブラジルに行く機会がありました。日本から宣教師としてブラジルに派遣されている小川満神父の訪問と国際会議に参加するためです。
 小川師を訪問した際に、司牧する南マット・グロッソ州の周辺にあるパンタナールを案内してくれることになりました。よく知られているようにパンタナールは、アンデス山脈とブラジル高原の間の盆地状の低地にできた大湿原で、2000年にユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されています。総面積は日本の本州(23万km2)に匹敵しブラジル、パラグアイ、ボリビアの3国にまたがっているため、その雄大さは説明しがたいものがありました。
 そこで見る景色や動物は珍しいものばかりでした。特に動物はワニ、カピバラ(世界最大のネズミ)、かわうそ、色とりどりのインコなどの鳥は野生の姿で見るのが初めてのものばかりで、動物園とは違う表情や生態を見ることができました。小川師によると彼が日本から派遣されたばかりの28年前は、まだ道も整備されておらず、大雨が降ると川になるような道をワニが横切り、晴れた日は道の真ん中で甲羅干しをしていた風景を良く見たが、現在は道路が舗装されたためすっかり風景が変わってしまったといっていました。
 自然の宝庫だったパンタナールも年々環境問題が深刻になってきています。専門家によると日本の面積ほどあるパンタナールが、10年、20年後には現在の何分の一かに縮小する可能性もあるといわれています。理由は、周辺の農地、牧草地帯としての利用や舗装工事による湿地帯の環境の変化です。農地、牧草地として周辺を利用することが農薬の使用につながり土地や水質に変化を与えるからです。さらに工場も周辺に建設されているケースも同様です。こうした動きに対し地元の反対派の住民や農家もいますが、環境省以外の州議会、政府などは開発に積極的なため少数派といえます。
 最近、ある法案をめぐってパンタナールの自然が危機にさらされました。それは、パンタナールにおける砂糖・アルコール蒸留所設立計画でパンタナールのパラグアイ河流域に工場建設を予定するという法案をジョゼ・ミランダ・南マット・グロッソ州知事が州議会に提出し、これに対しブラジル環境省は、蒸留所建設法案と州政府を批判しました。

法案が議会を通過し一帯に原料の砂糖キビを栽培すれば大量の農薬が使用され、広大な湿原の水質汚染されるため、アルコール蒸留の際に出る廃棄物が南マット・グロッソ州にある地下淡水層を汚染する可能性が大きいためです。
 この法案は、南マット・グロッソ州カンポ・グランデ市での抗議デモが行われたばかりでなく、デモの最中に焼身自殺をして法案に反対したNGOのメンバーもでたため否決されました。しかし、エネルギー資源が不足する中で燃料アルコール増産計画はいたるところで提案されています。理由は、ブラジルが燃料アルコールを世界的に供給できる能力を持っているからです。ブラジル政府は将来の輸出重要種目になると考えていますし、現在ブラジルの燃料アルコールの生産量は年間約180億リットルで、これを蒸留所新設と既存蒸留所設備を整備することで2010年までに年間約250億リットルにする見通しをブラジル通産開発省が出しているからです。そのため、世界的にブラジルは注目を浴びているのです。
 経済の発展、資源の開発は人々に利益をもたらすが、その反面再生できないものを失うという両刃の剣であるということ、こうした開発に反対している現地の少数派の人々の草の根的な運動によって地球規模の環境が何とか維持されているという危うさが、パンタナールの雄大かつ美しい自然を見ながらひしひしと伝わってきました。