阿部 慶太(フランシスコ会)
 この夏、フィリピンで聾者の教育のため奉仕している佐藤宝倉神父(フランシスコ会)を訪ねフィリピンの聾者のケアについて話をうかがう機会がありました。佐藤神父は、日本で司牧していた時代から聾者のための奉仕をしていました。2002年からフィリピンに宣教師として派遣され主にマニラ市とサマール島のカルバヨグ市で聾者のためのセンターを設立し、リーダー養成や聾者への教育活動をしています。

 まず、佐藤神父が設立したマニラ市内にあるフィリピン・アシジの聖フランシスコ・デフ・センター・マニラ支部(以下デフセンター)には、カテキスタになるための勉強をしている6人の聾者、手話インストラクターになるための訓練をしている1名の聾者、そして手話通訳を学ぶ3名の聴者、合計10名(女性6名、男性4名)が祈りの生活と寝食をともにしています。

 彼らは信徒のメンバーで、年齢も21歳から33歳までと幅があります。この共同体での第一言語は、フィリピン手話で、典礼も日常会話もすべて手話なので、苦労もありますが、聴者のスタッフも生活を通じて手話と聾者の生活を体験します。共同生活をしながらリーダーとして養成されて行くので、定期的に佐藤神父が霊的な部分や生活指導などをしています。

 次に、マニラから飛行機で1時間半ほどのサマール島のカルバヨグ市での活動は学生のケアになります。現在、12名の小学生、6名の高校生、3名の大学生、2名のスタッフ(以上聾者)、教師4名(聾者1名、聴者3名)の計27名が、借家でマニラと同様の共同生活をしています。

 佐藤神父によると2002年、初めて子供たちに出会ったとき、山奥や、町から離れた海沿いに住む子供たちは、学校にも行けず、手話も全く分からないで、家の中で体力の続く限り家事手伝いをするしかない状況だったそうです。その子どもたちが今は、手話で豊かなコミュニケーションが取れるようになり、進学してスタッフになりたいという生徒も出てきています。

 さて、フィリピンの聾者への司牧について話を伺ったところ「やはり聾者の信徒数が違います。単に聾者の司牧と言ってもキリスト教国のフィリピンではマニラにある国立聾学校の生徒だけでも900人、彼らの黙想会をする場合、赦しの秘蹟だけでも5時間はかかります。でも、こうしたことも手話の勉強にはなります。なぜなら、相手の心の状態をふくめて判断するわけですから手話の裏にある意味を汲み取る訓練にもなりますね」ということでした。
 フィリピンで聾者が多い理由については「胎性風疹が原因として多いです。日本と違い医療の問題も大きい。胎生風疹で生まれながら聾者になる人がまだ多いのです。だから、医療の問題も見逃せないし、無医村など開発されていない地域なども多いので将来的には医療の問題と並行して考える必要があるでしょう」と医療との連携が今後の課題のようです。

 苦労も多い海外での聾者への司牧ですが、「もうすぐ韓国の聾者のフランシスカンが始めて司祭に叙階されます。こうしたことが聾者にとって喜びや励みにもなります。また、仕事を通じて人を育てることの喜びや手ごたえを感じています」と人材育成で感じる喜びについて語り、当面の目標は「カルバヨグにデフセンターと寮の建設があるのでこれを完成させ充実させたいです。まず、サマール周辺に点在する多くの聾者に就学の機会とまたそれらのために奉仕する人材を育成したいです」とのことでした。

 フィリピンの国内で、理解されず、認められないできた時代が長かった聾者たちの司牧は信徒数が多い分、人材が不足している状況です。信徒数の多い国なので、聴者の司牧が優先され、聾者の司牧はあと回しになってゆくからです。また、聾者のための雇用や仕事もフィリピン国内には少なく、教育の次の課題は仕事を作り出すことや聴者との協力です。

 最後に佐藤神父は「今、私の願いは、いつの日か、彼ら自身が、自分たちの言葉で、自分たちの必要を叫び、聾者の文化を開花させていくことです」といいました。こうした願いが次世代のリーダー達に引き継がれ実現する時代がいつか来ることでしょう。

フランシスカン・デフセンター
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