書評  『セラピューティックコミュニティ』
-回復をめざし共に生きる-
アミティを学ぶ会編、かりん舎、2004年1月31日、1,000円

柴田 幸範(イエズス会社会司牧センター)
 癒(いや)しの時代と言われています。誰もが傷つき、重荷を負い、疲れ果て、癒しを求めている。癒しはどこにあるのでしょう?

 先日、第29回日本カトリック映画賞の授賞式&上映会に行きました。今年の受賞作は『ライファーズ-終身刑を超えて』。アメリカでおこなわれている犯罪者更生プログラム「アミティ」の活動に、刑務所の中で関わる終身刑を受けた人々(ライファーズ)の姿を描いたドキュメンタリーです。

 監督の坂上香さんと連れ合いの岩井信さん(アムネスティ職員から弁護士になった)のことは、死刑廃止運動を通じてよく知っていました。坂上さんは、前号の「シスター・ヘレン・プレジャン・スピーキング・ツアー」でも紹介した、米国で被害者遺族と死刑囚の家族が一緒に講演旅行をする「ジャーニー・オブ・ホープ」を、日本に紹介した方だったからです。長年、映像の仕事に携わって、虐待される子どもたちや暴力を受ける女性たち、旧日本軍従軍慰安婦といったテーマを取り上げてきた坂上さんは、まさに「癒しと生き直し」を追求してきました。


 なかでも、やはり彼女が日本に紹介した犯罪更生プログラム「アミティ」の活動は、死刑廃止に取り組む者として、大きな関心を持ってきました。というのは、「更生の可能性がないから死刑にしろ」という意見が多いこと。そして、死刑を廃止しても社会の安全が保たれるためには、有効な犯罪者更生プログラムが不可欠だからです。

 「アミティ」はラテン語で「友愛」を意味し、米国・アリゾナ州を拠点に、犯罪者やアルコール・薬物依存者などの更生・社会復帰を支援するNPOです。セラピューテイックコミュニティ(治療共同体)という心理療法的手法を取り入れて、20年間にわたり活動してきました。


 犯罪や薬物・アルコール依存に陥る人々の多くは、子ども時代に何らかの虐待を受けるなどして心に傷を受けていると、アミティは考えます。その記憶を押さえつけることによって、他人への共感や自己反省が妨げられ、犯罪や依存症に至るのです。そこで、アミティはワークショップを開いて、参加者が今までの生き方を見直し、自分の人生と向き合い、新たな価値観をはぐくんでいく手助けをします。

 特徴的なのは、スタッフの多くが以前、受刑者だったり依存症だったりした人たちだということです。彼らはアミティのプログラムに参加した後、トレーニングを受け、カウンセラーの資格を取り、スタッフとして働きます。スタッフが参加者と同じ痛みを経験していることが、アミティの共同体的な性格を強めています。
 刑務所内で受刑者が中心となっておこなうプログラム、出所後社会復帰までの間、100人ほどで共同生活をするプログラム、社会復帰後の訪問サービス、家族へのセラピーなど、実に幅広く活動しています。ある刑務所では、一般受刑者の再犯率が63%なのに、アミティ体験者の再犯率は26%と、その効果が認められています。

 『セラピューティックコミュニティ-回復をめざし共に生きる』は、坂上さんも参加して2001年10月に開かれたアミティ・シンポジウムと、「アミティを学ぶ会」が2002年10月から2003年3月におこなった連続勉強会の記録です。そこではアミティの活動だけでなく、日本のさまざまな活動の体験も報告されています。

 DARC(Drug Addiction Rehabilitation Center)の薬物依存者更生プログラム、子どもへの暴力防止プログラム、精神病院、身体障害者のピア(仲間)カウンセリング、少年院、“非行児童”の自立援助ホームなどの現場からの、生々しい報告が記されています。そこに読みとれるのは、当事者同士の支え合い、スタッフが当事者と同じ高さの視点を持つこと、どんな人間でも変われるんだという希望、過去を語り尽くすことで未来を生き直そうという強い意志、そして形にとらわれず、よいことは何でもやってみようという柔軟性です。何よりそこには、生き生きとした共同体の姿があります。

 同じ痛みを持つ者同士が、再生への強い意志を持って支え合う共同体。それは、犯罪者や薬物依存者の更生にとどまらず、病める日本社会の再生にも、大きなヒントとなっているように思われました。



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