追悼教皇ヨハネ・パウロ2世と社会メッセージ


1.『働くことについて』(1981)
 同教皇の最初の社会回勅。「人間は教会にとっての道である」というのが、この回勅の出発点である。労働は人間生活のもっとも基本的な要素であり、人間は労働によってパンを得、科学や文化を生み出す。現代社会にあって、人間生活のあらゆるレベルで、労働の新たな意味と課題を見出す必要がある。労働の問題はこんにち、単なる階級問題ではなく国際問題であり、国際社会の分析によって社会的不正の深い意味が明らかになる。教会は労働を人間的・道徳的価値の観点から捉え、「労働の霊性」を促進する。労働は、肉体的であれ知的であれ、体と魂を含む全人格をもって取り組まれる。人は労働を通して、隣人や神とまじわる。労働は人間の尊厳を表し、高めるものだ。

2.『真の開発とは』(1987)
 開発とは、単に技術的なものでなく、全人類の人格の尊厳と、幸福の追求に奉仕すべきものだ。教皇は、国際社会の発展途上と弱肉強食を告発する一方、人権意識の向上や平和・エコロジーに関する連帯の高まりを肯定する。経済発展は危機に瀕し、人々は物質主義の影響で、幸福を「存在」よりも「所有」に左右されると信じている。真の開発は、神との関係における真の人間性に基づかなければならない。現代社会において個人的・構造的罪が真の開発を妨げており、回心と、「構造的罪」を克服する連帯とが求められる。平和は連帯から生まれる。

3.『新しい課題』(1991)
 教皇を弔問する大群衆は、彼が共産圏崩壊の立役者であったことを示している。この回勅で教皇は、共産圏崩壊の頂点である1989年の意味を語っている。この回勅は、労働と資本の対立、国家と市民の関係、社会主義、自由主義と資本主義、東西対立、消費社会、軍備競争、自由市場経済と貧困、世界システムの代案、本物の民主主義、貧しい人の選択、国際的な協力と対話など、一連の社会問題について過去百年をふりかえり、未来への指針を示す。