【報告】 フィリピン人の日本語教室(東京・足立区)
 
むすびの会ボランティア

 10年ほど前から、足立区周辺に住むフィリピン人の労働者たちが、毎週日曜に梅田カトリック教会のミサに集まるようになった。今では、毎週230人以上がミサにあずかっている。平日は仕事で忙しいが、日曜になると教会に集まって、フィリピン人同士でリラックスして、情報交換したり、交流をおこなったりしている。フィリピン人の多くは家族そろってミサにあずかり、声を合わせて聖歌を歌っている。
 以下に紹介するのは、ボランティア・グループ、「むすびの会」の活動だ。むすびの会は主に、東京の北部に位置する足立区周辺の外国人労働者(主にフィリピン人)と、10年以上関わってきた。むすびの会はイエズス会社会司牧センターと密接な協力関係にある。幸いなことに昨年、独立した事務所を借りることができた。狭いながらも、フィリピン人たちを迎えて、さまざまな活動をおこなっている。
 むすびの会の活動は、梅田カトリック教会の信者さんたちにもパンフレット(財布に入る小さなサイズだ)を配って紹介している。パンフレットには、健康問題や子どもの教育、仕事、霊的指導、家庭問題、区役所や大使館での手続き、入管や警察、拘置所・病院訪問、法律問題などについて相談を受け付けていることが書かれており、事務所の電話番号と地図が添えられている。「いつでも相談に来てほしい、相談内容の秘密は厳守する」と約束している。
 外国人労働者にとって、日本語の基礎知識を持つことが大切なのは当然だが、健康問題や仕事、住む家、法律問題など、差し迫った問題に対処するのに手一杯で、日本語まで手が回らないのも仕方ないことだ。だが、むすびの会は、足立区に住むフィリピン人の子ども13人がさまざまな理由から学校に通えずにいるのを見て、3年前からボランティアで学習教室をはじめた。

外国籍の子どもたち
 「現在、日本には約200万人の外国籍住民が生活し、そのうち学齢期の子どもたちは約20万人といわれている。その他外国にルーツをもつ日本国籍の多くの子どもたちがいる。…たとえば父母のどちらかがフィリピン人の子どもの出生数は、厚生労働省の統計によると、1995年から2001年までで、36,139人。非婚カップルから生まれた子どもも入れると、実際に何人の日比国際児が日本で暮らしているのか実数はつかめない」(カトリック中央協議会『カトペディア2004』「多文化共生にチャレンジするカトリック教会」より)。

 足立区にはいろいろな国の子どもが住み、両親が異なる文化・国籍をもっている子どもたちが増えている。

 梅田教会では英語のミサに参加する子どもたちの信仰教育の必要性を感じ、数年前から3ヶ月間の初聖体の準備、毎日曜日のバイブル・クラスを始めた。また、教会に一泊するサマー・キャンプや子どもクリスマス会などを計画し、毎年30名以上の子どもたちが参加している。この子どもたちと話す中で、学校の様子、友だち関係、いろいろの問題についての先生の対応の仕方、彼らの喜び・悲しみ・困難などについて自然に語ってくれる。

 いろいろの問題をかかえている中で、特に言葉の問題は大きい。学校で勉強する場合、国語の力がなければ他の教科もわからない。こんな例もあった。1年生の「さんすう」の宿題をもち帰ったが、わからないので、子どもの教育に熱心なフィリピン人のお母さんは、むすびの会のメンバーに電話してきた。3人で話せるように電話をスピーカーに切り替えて、一緒に宿題をする。問題は「すいそうに、きんぎょが5ひきおよいでいます。そのすいそうに2ひきいれました。あわせるとなんびきになりますか」。子どもが読み終わるとお母さんが「すいそうって何?」「きんぎょって何?」とたずねた。「5+2=」であれば簡単にとける問題が、文章になるとわからない。
 しかし、このお母さんのように子どもの勉強を見てあげられる場合はよいが、「日本語も話せるし、学校にも行っているから大丈夫」と思われている子どもの中にも、語いが少なく、十分に理解していない場合がある。また、小学校に入学すると、日本語力に応じて学年を下げてもらえる場合はいいが、基本的には年齢相応の学年に入ることになっているので、日本語がわからないまま、小学校の高学年にはいると、いくら補習をしてもついていけない。学校に行ってもわからない。おもしろくない。そして、そこでいじめにでもあうと、不登校になる。
 むすびの会では、不登校の子どもたちの学習の指導もしている。「学校に行きたくない」と言っている子どもたちが、勉強の日をたのしみに待っていて、目を輝かせて学び、終わると「ありがとう。楽しかった」と言ってくれる。本来、こんなに明るく素直で、学習意欲もあるのに学校に行けない子どもたちのことを、保護者・学校・教育委員会学務課がよく話し合って、子どもの成長に一番良い方法をとらなければならないと思う。
その他、 ●学齢期にあるのに未就学の子どもの問題、
●読み書きの指導、
●いじめや暴力による心の傷のケア、
●アイデンティティの問題
 -など、子どもたちが日本で幸せに成長していくための今後の課題が多い。
大人のための日本語教室
 昨年半ば、むすびの会は大人向けの日本語教室を始めた。最初のクラスは7~9月の2ヶ月間のカタカナ・ひらがな集中コースで、11人が学んだ。次のクラスは10~12月で、6人がカタカナ・ひらがなコース、10人が漢字初級コースで学んだ。
 今年は受講希望者が多く、4クラス・31人が学んでいる。クラスは毎日曜日のミサ後におこなわれ、受講者の多くは日本人男性と結婚したフィリピン人女性だ。
 彼女たちにとって、毎週1回、自分の勉強のために1時間半を割くことができるのは、決まり切った日常に変化をもたらすよいチャンスだ。生活の中で出会ういろいろな場面にピッタリな言葉を習うことは、新鮮な喜びを与えてくれる。


 言葉を習う以外に、生徒同士で情報交換できるのも貴重だ。毎週のクラスを楽しみに待っている生徒同士、特別な友情と連帯感が生まれる。日本人社会の中で暮らすストレスや悩みを互いに打ち明けて、悩んでいるのが自分だけではないと知ったとき、彼女たちは大きな慰めを得る。
 日本語教室を始めた直接の理由は、フィリピン人女性自身から、もっと日本語を勉強したいという強い希望が寄せられたからだ。私たちもフィリピン人の問題に関わってきた中で、たとえばどれだけ多くの労働問題が、日本語の読み書きができないことから起きているかを思い知らされた。

たとえば、経営者は日本語で書かれた書類を持ってきて、フィリピン人にサインするように言う。サインするやいなや、彼らはクビにされる。彼らは自分の解雇通知書に知らないうちにサインしていたのだ。後で私たちの事務所に相談しに来て、経営者からもらった書類を私たちに見せたとき、彼らははじめて真相を知る。
 フィリピン人の多くは、フィリピン語の他に英語も話せるが、仕事で忙しくて日本語学校に通えず、日本語の読み書きはできないままだ。こうした状況は彼らにとって不利に働き、彼らが搾取される主な原因となっている。どんな国でも、読み書きの力はもっとも基本的な人権の一つなのだ。
 以下に、日本語教室参加者の声をいくつか紹介したい。
「む
すびの会日本語LESSONによって私はすごくたすかりました。みなさんにおしえてもらってからことばのつかいかたがただしくなりました。こちばのつかいかたとかんじのいみ、もっともっとおぼえたいとおもいます。今5才と3才の子供がいますのでただしいく、やさしい日本語をかいわしながらおぼえさせたいとおもいます。又おしえてください」(原文のまま)
「は
じめはファーダー(神父様)やシスターにおれいをしたいと思います。なぜならば、わたしたちに、やさしくおしえてくれたからです。ファーダーやシスターは、いそがしくても、わたしたちに、べんきょうする時間をくれました。わたしは、べんきょうしてた時、自分でべんきょうしてたよりも、だれかが、おしえてくれた時とは、ぜんぜんちがかったです。なぜならば、この日本語のクラスにはいる前に、すこしかんたんなかんじはよめたけど、かくときは、どいゅうふうにかくか、どいゅうふうにただしくかくかわかりませんでした。だからわたしは、日本語のクラスにはいって、すごくたのしかったです。なぜならば、みじかいあいだでもべんきょうして、いろいろなことがおぼえられたからです。だからこれからもべんきょうをつづけたいことと、ともだちがふえたことと、もっといろいろまなびたいとおもいます」(原文のまま)
 別の参加者はこう言っている。
「に
ほんごのよみかきをべんきょうして、とてもたすかりました。わたしはにほんのおとこのひととけっこんしたばかりで、もうすぐはじめてのあかちゃんがうまれます。かぞくがふえてあたらしいせいかつがはじまるので、にほんごをべんきょうするのはとてもやくにたつとおもいます」(英語からの訳)