阿部 慶太(フランシスコ会)
 ここ1,2年の韓流ブームで、韓国のドラマや観光ツアーが人気です。そのため、ハングル教室の数も増えていますし、韓国の料理やグッズの人気から、去年の統計では数千億の経済効果があったといわれます。

 では、マスコミもこぞって取り上げたこのブームを、在日韓国人(以下在日)社会はどのように捉えているのだろうか、と疑問を感じ、機会があるたびに、在日の民族教育関係者や地域活動のスタッフなどに、このブームについて質問してみました。
 意見として、ブームに肯定的な在日のグループもいますが、首をかしげる人々も大勢います。統計を取ったわけではないのですが、少なくとも在日の地域活動などにかかわってきた人々にとって、このブームは警鐘にも映るようです。
 その理由は、深い部分での理解がなされていないのに、ドラマなど表面的な部分でしか理解されていない点や、本当の意味で日本と韓国が友好的な状況にあるとはいえないからです。
 確かに、日本と韓国の間にある問題を少し挙げてみると、竹島問題のように日・韓両国の間で領土問題の議論が続いていますし、戦後補償問題でも、日・韓政府間の過去の条約文書公開後の民衆への波紋、いわゆる従軍慰安婦の補償に関する問題、日本統治下の韓国におけるハンセン病患者への補償問題などがあり、また、民族教育の改善を行政に訴え続ける活動が、奈良県のケグリ オリニ(ハングルで、かえる子ども会の意味)などで続いています。
 また、四半世紀以上、大阪の生野区の地域活動で、民族教育に関わってきた団体(聖和社会館など)のスタッフの間でも、今ブームだからこそ、足元を見つめてゆく活動を地道にしなければならない、という意見がありました。
 その理由は、1990年代中ごろまで、総理府(現内閣府)の世論調査では、「韓国に親しみを感じる」という人は国民のわずか35%ほどしかいなかったことや、民族教育や民族文化祭などの行事をするために、日本人側からひどい妨害や嫌がらせがあった時代を知っているがゆえに、手放しで喜ぶのではなく、気を引き締める必要があるのではないか、というものです。確かに在日社会にとって、人権の面で苦しんできた歴史がそれだけ長かった訳ですし、現在もいじめや嫌がらせが全くなくなったわけではないわけですから、手放しで喜ぶことが出来ないのは理解できます。
 今のブームの中で、10年、20年とこうした取り組みをしてきた人々の活動を改めて見てみると、そこには変わらない流れがあります。それは、日本と韓国の間の歴史的な溝を埋めるための活動や、民族のアイデンティティとは何かを問う動きです。
 日・韓のわだかまりが一気になくなったわけではない。日・韓関係の摩擦の原因が払拭されたわけでもない。むしろ、ブームであるからこそ、それだけで終わらない相互理解を深める努力が必要なのだ、といことをこうした流れの中で感じました。

<お知らせ>
 日本の統治下にあった韓国、台湾などで、強制隔離されていたハンセン病患者は、第二次大戦後、補償の対象から除外されました。彼らへの補償を求める訴訟「ソロクト(小鹿島)訴訟」の署名運動を行っています。署名にご協力くださる方、詳細を知りたい方は下記にお問い合わせください。

〒635-0003
奈良県大和高田市土庫726-2
ケグリ オリニ会 代表金 康子(キム カンジャ)FAX 0745-52-0402