消えゆく語り部
阿部 慶太(フランシスコ会)
 夏の休暇を利用して、福岡で行われた「全国キリスト教学校人権教育セミナー」に約5年ぶりに参加しました。現地研修では福岡における在日朝鮮人と被差別部落の歴史を辿るコースを歩きました。その中で、在日韓国朝鮮人(以下在日)の強制連行に関する証言が印象に残りました。


 大阪生野にいた頃は、強制連行の関係で日本に来たハルモニ(おばあさん)たちの話を聞く機会はたくさんありましたが、炭鉱で働いたハラボジ(おじいさん)の話を聞く機会が少なかったので印象が強かったのだと思います。
 また、内容も大変貴重な証言でした。強制連行されたのではなく、勉強のため日本に滞在していた彼が、炭鉱で働くまでの経緯や労働がいかに過酷だったのか、戦後の在日のたどった苦しい道のり、証言とともに、一世のハラボジの額に刻まれた皺と炭鉱
での拷問の傷あとが長く苦しい歴史を物語っていました。


 さて、こうした体験を持つ人々は今の日本社会の中で高齢者です。その多くが70代後半以上の世代です。そのため、こうした人々は年々減少の傾向にあります。それだけにその証言の一つ一つが貴重なものといえます。
同様のことは教会関係にも言えます。仕事の関係で高齢の宣教師たちの聞き取り調査を行う際に感じるのもこうしたことです。たとえば、中国で宣教師として働き、1940年代後半、毛沢東率いる共産党に捕らえられ、強制送還された経験のある本会(フランシスコ会)の宣教師は3人だけになりました。皆80歳以上の高齢者です。
 彼らの証言は、戦後、信教の自由のある日本で宣教を始めた外国人宣教師たちが、再び中国で宣教するために、とりあえず日本で待機していたことや、中国で宣教のために使うための資金や資材が、日本の宣教のために使用されることになったことなど、戦後の日本で行われた本会の宣教の背景を知るのに貴重な話でした。
 正義と平和協議会関係では、去年、全国大会で9月1日を関東大震災朝鮮人犠牲者追悼の日として定め、これをうけてさいたま教区では9月に証言を聞き、こうした悲劇が繰り返されないように語り継ぐ動きも始まっています。


 こうした悲劇の歴史や私たちの身近にある地域の歴史も含めて、歴史を知る人、証言のできる語り部は消えゆく傾向にあります。何かの活動を行うことと同時に、こうした歴史を語り継ぐことも、私たちに与えられた課題ではないのか、そんなことを考えさせられた夏でした。