京浜だより4 宗教の違いを超えて-パキスタン
阿部 慶太(フランシスコ会)
 イラク情勢や度重なるテロとそれに対する報復等、イスラム圏の人々にとって苦しい状況が続きますが、イスラム圏の一つで、アフガニスタンに隣接するパキスタンの、障害を持つ人の施設「ラハト・ガ」(「安らぎの園」の意味)で働く、松本貢四郎(こうしろう)修道士が一時帰国した際に、国内の状況や現在の活動について聞いてみました。
 松本修道士は、今回、一時帰国した理由をこう語っています。「国内の治安が悪化している影響で、施設の子供達を乗せた車がカージャックされ、強盗が銃を乱射して、子供達も拘束されました。結果的に解放されましたが、車は盗まれ、子供達も精神的に傷を負いました。入園者の親達や職員と緊急会議を行い、子供達の心身の安全を考え、しばらく休園することにしました。あわせて、入園者が年々増加しているので、施設の拡張工事と里親制度の準備のためにも、一時帰国しました」このように、国内の治安は良好とはいえないようです。
 イスラム圏のパキスタンでの宣教はやはり難しいようです。「国民の98%がイスラム教徒で原理主義者も多いですし、アフガニスタンも近く、ビン・ラディンを支持するような風潮もありますね。シーア派とスンニ派など、イスラム同士の小競り合いもあります」「身近な例だと、イスラム教徒はお酒を飲みませんから、ミサに使うワインは公には造れません。イスラム教徒の居住地域で醸造したら大変なことになります。でも、キリスト教徒の居住地区で、観想修道会である女子ドミニコ会のシスター達が造る分には黙認です。パキスタン製のお酒もあるし、矛盾した面もあります。何の脈絡もなく、教会関係の施設が破壊されることもありますから、日本のように諸宗教の集いとか、共に平和を祈る集いをするのも並大抵ではない、命がけで交渉する覚悟が必要です」
 「また、同じキリスト者でも、相手の文化的背景や習慣はイスラムで、先ほどのお酒の話でも、『クリスチャンでも、お酒を飲む人はダメな人』というイスラムの精神・習慣が染み付いた中での宣教は、難しいということは言えますね」と、異文化における宣教の難しさを、習慣の違いなどの具体例から説明してくれました。
 しかし、その中で心がけているのは、共存の尊重だといいます。「クリスチャンでも文化はイスラムです。服装も、男子の前では、女子は顔が隠れるベールのようなもので顔を覆うというように、生活に浸透しているイスラム文化とどう共存するのか。それから、施設の子供たちのためにイスラムの祝日を祝うとか、日常の生活習慣などを尊重することが必要です。原理主義者でないかぎり、学校の運動会や行事の前に一緒にお祈りをしますが、その場合もキリスト教、イスラム教両方の祈りをします。やはり共存することと尊重すること、これに尽きますね」
 また、現在働く施設で感じたことを、次のように語っています。「カトリックの施設なので聖劇とかしますけど、親はイスラム教徒なんですね。でも、施設の行事であるのと、障害を克服する教育の一つであるということで、理解してくれます。子供の障害がなければ、彼らにとっては理解できないことだったわけで、障害への取り組み、共通の問題への取り組みが、宗教を超えるカギになったのだな、と感じましたね」
 取材の後、松本修道士は再び宗教を超えた協力のため、子供達の待つパキスタンに戻りました。


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お願い

 パキスタンでは福祉制度が十分に整備されておらず、補助も出ないため、障害がある人は15歳になっても仕事ができず、自立できません。そこで施設の入所期間を延長して、自立の準備をしたいのですが、入所以来の費用を滞納している家族も多く、施設も親も予算がないため、思うに任せません。そこで里親制度を始めようということになりました。ぜひご協力ください。日本での窓口は次のとおりです。

郵便振替口座00180-2-629559
パキスタン「ラハト・ガ」支援の会)