阿部 慶太(フランシスコ会)
 先日、南アフリカ(以下南ア)のヨハネスブルグ郊外の末期エイズ患者ホスピス:フランシスカン・ケア・センター(以下ケア・センター)で働く、根本昭雄神父が3年に1度の休暇で帰国し、久々に話をする機会がありました。
 やはり、聞きたかったのは南アのエイズの現状です。2年前患者数が500万人を突破したエイズの猛威はどうなっているのか? 新しい療法ARVの普及は? などの話を聞いてみました。
 まず、患者数は、2年前の発表に比べ増加しているそうです。理由は胎内感染の新生児が新たな患者となること、性交渉ばかりでなく、麻薬の針などによる感染など、患者は簡単に減らず、現在も増加しているそうです。
 また、公表されている患者数のほかに、家庭の都合で感染したことを隠すケースも多く、表面化している数に表面化していない数が後から加わるため、この数が減りそうにない、ということでした。まだ、エイズに感染することは、地域社会や親族からも見捨てられるケースが多く、そのことを懼れる患者が表面化しないのです。ケア・センターでは、そうした患者の受け入れを優先しますが、ベッド数が約60ですから、患者数が多く対応できないときもあるそうです。このような患者が2003年だけでも317人、ケア・センターで亡くなっています。
 次に、エイズの症状を抑えるARV(抗レトロウィルス)療法ですが、薬の保存に冷蔵庫が必要であること、定時に薬を飲ませなくてはならない、飲み始めたら一生薬を飲み続けなければならないので、患者と家族の負担は大きいということでした。それと、やはり薬が高くて月の収入の5~6倍もの薬を入手するのは、貧困層の患者が大多数を占める南アフリカでは一部の患者にしかいきわたらない、ので現実的に貧困層に普及するのはまだ先の話になるだろうとのことでした。
 さて、根本神父が働くケア・センターでは、連日亡くなる人が多いので、それについて訊いたところ、こう答えられました。「今回も思い切ってこちらに来ましたが、若い人が亡くなるのはこたえますね。先日も17歳の高校生がなくなったのですが、この人は洗礼をさずけて洗礼名も『強い体がほしい』と願ったのでジャンヌ・ダルクの霊名をもらったのです。しかし、やはりエイズには勝てなかった。死ぬ前に『キリストの体をください』を頼みました。わたしはいつも聖体、聖香油、聖水を常備しています。理由は、何時患者が亡くなるかわからないから。そうして、その女子高生は聖体拝領しました。それから、わずかな時間がたって息を引き取ったのです。でもなくなる前に輝くような笑顔で聖体を受けました。忘れられない表情でした。このように一つ一つの死に向き合うとき一つ一つのキリストに出会っています。その現場を離れられない理由の一つです」
 最後にケア・センターでの今後の活動について訊いたところ、「尊厳をもって生涯を終える場であるホスピスのほかに、エイズの原因の一つである薬物依存の温床であるスラムやそれを産む貧困が南アからなくなるためには教育が必要です。ホスピスと共に地域の青少年の教育に力を入れたいし、人材を育成するため日本で勉強できる今回も受け入れ先をさがしているのです」とのことでした。実際ケア・センター付近には聖アントニオ・エデュケーション・センターがあり職業訓練や基礎教育を受けることができますが、国の援助がなく経営は困難を極めています。しかし、根本神父は言います。「マザーテレサの言葉に『わたしの働きは大海の中の一滴の水滴にしか過ぎませんが、生涯、一滴であり続けようと思います』というのがありますが、その一滴が、大海を確かに豊かにしてゆく、という気持ちでこの問題にとりくんでいきたいのですよ」と。
 サッカー・ワールドカップ開催が決まり、治安と貧困、エイズの問題の解決を迫られている南ア政府ですが、政府レベルの対策と共にこうした地道な取り組みの必要性も大切だと今回の話を通じて感じました。


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