イガル・ブローナー 203年10月5日 |
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第一のウソは、「隔離壁」という名前のウソだ。この「隔離壁」という概念は、不安で消耗しきったイスラエル市民に、「パレスチナ人は、彼らに対する私たちのひどい仕打ちと共に、『壁の向こう』に行ってしまう」と約束する。私たちはこちら、彼らはあちら-そしてみんな平和、というわけだ。だが、この壁は実際にはパレスチナ人とイスラエル人とを隔離しているのではない。それどころか、建設中のこの壁は、西岸地区のかなりの部分をイスラエルへと併合するのだ。壁の西、イスラエル側には、何十万というパレスチナ人が残される。東のパレスチナ側にも、何千というイスラエル入植者が残るだろう。だから、この壁はパレスチナとイスラエルを分ける壁ではない。 第二のウソは、この壁は「国境」であり、壁の東側には、シャロンが好んで口にする「パレスチナ人国家」が樹立されるだろう-というウソだ。なぜなら、その壁は一枚ではなく、少なくとも二重の壁だからだ。そのうちの一つ、西側の壁は、グリーン・ライン(第一次中東戦争の停戦ライン)に沿って、可能な限り多くのパレスチナ領土を切り取ろうとしており、もう一つの東側の壁は、アリエルやキリヤト・アルバなど、遠く離れた入植地を編入するものだ。この2枚の壁の間には、さまざまの障害物、フェンスや塹壕が置かれる。この壁は、西岸地区の人口密集地を半永久的に隔離するものだ。それは国家などというものではなく、ゲットー(隔離居住区)といってよい。 エルサレムを例にとると、そこにそそり立っている壁は、パレスチナ領とイスラエル領の間をはしる境界線と一致していない。壁はすべてパレスチナ領内にあって、地域を二分している。これにより、10万人以上のパレスチナ住民がイスラエルに編入されている。 |
さらに、何十万というパレスチナ人が壁の外(パレスチナ側)に取り残されているが、その大多数がイスラエルのIDカードを持つエルサレム住民であり、その暮らしはエルサレムの町に全面的に依存している。彼らはエルサレムに入ることができなくなるばかりでなく、生活の糧を得る手段や、学校・病院を利用する機会まで失ってしまう。かといって、いまさら東エルサレムに戻ることもできない。 というのも、東側はマアレ・アドゥミム、ピスガト・ゼエブ、ノックディム、テコアを包み込んで建設された壁や道路によって、取り囲まれつつあるからだ。エルサレム東部をズタズタに切り裂いて、いくつもの飛び地の集合体にしてしまうような、こうした隔離壁がもたらすさまざまな人道的諸問題は、筆舌に尽くしがたい。だが、イスラエル世論はこの人道的諸問題について、考慮しようともしない。というのも、この隔離壁は、イスラエルが長年待ち望んできた安全をついにもたらす-と言い聞かされてきたからだ。そして、これこそが壁にまつわる第三のウソだ。 |
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明らかに、問題はエルサレムに限らない。パレスチナ領とその住民を編入することなく、グリーン・ライン上に壁が建てられるケースも、少ないながらある。たとえば、カルキリヤとトゥルカレムそうだ。だが、隔離壁が安全をもたらすと考えて己を偽わる人々は、間違っている。たとえばガザ地区でも、隔離壁の効用を信じる人々がいる。これは実際、興味深いケースだ。隔離壁で囲まれたガザ地区は、地区内のかなりの部分を共同で管理する一握りの入植者のおかげで、実質的に安全だ。 |
ガザがあまりに平穏なので、イスラエル国防軍は大規模な侵攻をねらって絶え間ないロビー工作を行う一方で、イスラエル空軍は継続的な爆撃の任務に就いている。(パレスチナ側の)手製ミサイルの攻撃を受けているスデロットやアシュケロンの住民が、隔離壁のおかげで安全に暮らせるようになったことも、周知の事実だ。だが、占領が続く限り、ガザのパレスチナ人は抵抗し続け、隔離壁の下から上から抜け道を掘る方法と、より洗練された武器を見いだすのも時間の問題だ。不安におびえるイスラエル市民の安全への願いと、パレスチナとの政治的隔離を求める大多数の世論につけ込んで、シャロン政権は隔離壁を建設しているが、それは隔離を達成することも、国境線を引くこともなく、現実に安全をもたらすこともないだろう。 今回の「壁」の問題で私たちが直面している問題もまた、隅々まで計算し尽くされた典型的な「シャロン流」詐術なのだ。壁の本当の目的はまったく違う。この壁は、イスラエルの占領政策をなす複雑な管理の諸方策-入植者、道路建設、道路封鎖、夜間外出禁止令、飛び地の囲い込み、非道な軍事力行使-の新たな一手段として考えられたものなのだ。シャロンが建設中の壁は、1967年にイスラエルが獲得した領土の領有権を、半永久的なものとする目的がある。この壁は、二つの国家(イスラエルとパレスチナ)という解決策の息の根を止めるものだ。私たちは、これから2年半の間、いくつかの飛び地からなる冷酷な国家(イスラエル)が、ヨルダン川から地中海に至る地域で勢力を拡大する、劇的な状況の変化が起きるかどうか、注視しなければならない。この国の冷酷さは、南アフリカのアパルトヘイトも顔負けだ。暴力は減らないどころか、逆に増え、憎しみと人種差別とが燃えさかるだろう。その結果はといえば、想像するだに恐ろしい。 筆者のイガル・ブロナーはテル・アビブ大学で東南アジア学を教えるかたわら、「タアユーシュ」(アラブ・ユダヤ・パートナーシップ)の活動家として活躍している。 |
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