柴田 幸範(イエズス会社会司牧センター)



 2003年5月23日、東京・四谷の主婦会館で、「TOGETHER FOR LIFE」と題して、死刑廃止に関するセミナーが開催された。主催はイタリアの聖エジディオ共同体。1968年に設立されたカトリック信徒のNGOで、不偏不党の立場から、社会から疎外された、弱い立場の人々に代わって声をあげる働きをしてきた。中でも刑務所の受刑者、特に死刑囚の処遇に関心を持ち、積極的に関わってきた。近年、他の諸団体と協力して、死刑執行停止(モラトリアム)を呼びかける運動を、国際レベルで展開しており、そのための署名を全世界で400万人分集めている。また、世界の都市に呼びかけて、「Cities for Life-死刑に反対する都市」というキャンペーンを、2002年11月30日に行い、ローマ、ニューヨーク、パリ、バルセロナなど世界60都市が参加した。今年も11月30日に開催される予定で、長崎・広島両市にも参加を呼びかけている。
 今回の来日も、日本で協力できる団体や個人、地方自治体などと出会い、ネットワークを築くためのものだった。その一環として、日本で死刑廃止に関わっている市民団体や宗教者を集めて、今回のセミナーが開催された。当日、会場には60名ほどの参加者が詰めかけ、パネラーの話に熱心に耳を傾けていた。
 当日、パネラーとして発題したのは以下の通り。
  • 柳下み咲(アムネスティ・インターナショナル日本)
  • 古川龍樹(生命山シュバイツァー寺)
  • アルベルト・クァトルッチ(聖エジディオ共同体)
  • 菊田幸一(明治大学教授、死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90)
  • 末廣哲(監獄人権センター)
  • 廣瀬靜水(大本・人類愛善会生命倫理問題対策会議/病気のため代理出席)
  • ホアン・マシア(イエズス会・上智大学)
  • 雨森慶為(真宗大谷派・東本願寺、同和推進本部本部委員)
  • 保坂展人(衆議院議員、死刑廃止を推進する議員連盟事務局長)
各パネラーは、各々の団体の死刑廃止に関する取り組みを説明した。
また、以下の3人がメッセージを寄せた。
  • ホセ・ヨンパルト(上智大学・イエズス会)
  • 西郊良光(天台宗宗務総長)
  • 左藤恵(元法務大臣)
 その後、会場からの発言もまじえて、討論に移った。現在の日本における死刑廃止運動の焦点は、今国会中に「死刑廃止を推進する議員連盟」が超党派で提出予定の、「死刑執行停止法案」だ。このシンポジウムのちょうど翌日に、法案を説明するシンポジウムが開催される予定で、議員連盟の保坂事務局長は、「半世紀ぶりにようやく、死刑廃止に向けて、国会に法案が提出されます」と、その意義を語っていた。
 だが、これはあくまで「執行停止」に過ぎない。真の「死刑廃止」を実現するためには、死刑容認派が多数を占める国民世論、そして、その背景にある文化を変えていかなければならない、という意見が出された。そして、その「文化を変える」ために、もっとも活躍が期待されるのは宗教者である-という点で、参加者の認識はほぼ一致していたようだ(おそらく参加者の半分以上は宗教関係者だったと思われる)。ただ、宗教者のネットワークを創り出す(正確に言えば、休眠状態のネットワークを再生させる)ために、世話役を引き受ける組織がない。当センターも含めて、各団体・宗派とも、既存の活動で手一杯なのが現状だ。
 そんな事情も考慮して、当面、次の2つが提案され、了承された。
  1. シンポジウム参加者をメンバーに、ネットワークをつくる(アムネスティが事務局)
  2. このシンポジウムを来年以降も毎年、開催する。近年、法務省による死刑執行の強行によって、停滞気味だった日本の死刑廃止運動に、今回のシンポジウムは大きな刺激となった。聖エジディオ共同体の情熱的で、創造力あふれる活動に触れて、私たちも再び、日本の死刑廃止に向けて、力を尽くしていきたい。