イエズス会の社会問題に関するネットワーク


イエズス会社会司牧センター・東京

イエズス会のコルベンバハ総長は2003年1月15日、イエズス会の全管区長に宛てて「社会分野におけるイエズス会ネットワーキングの指針」を送付した。これは、イエズス会における社会問題についてのネットワークの現状を分析し、グローバリゼーションの時代において、イエズス会らしいネットワークを促進するための指針を示したものである。日本語訳はすでに各院長宛に送られていると思うが、ここでは資料編(社会分野におけるイエズス会ネットワーク一覧)を中心に、その内容を紹介したい。
 グローバリゼーションという現象は、国境を越えた諸問題を浮き彫りにしました。その結果、学際的なアプローチが要求され、迅速で的確な対応が求められています。貧しい人々に課せられた対外債務などのような問題に、迅速かつ的確に対応し、持続的な発展を可能とするために、ネットワークとネットワーキングは重要な手段です。最近、ヨハネスブルグで開催された、持続的発展に関するサミットに参加したイエズス会員の体験や、これまでイエズス会難民サービスが活動の中から得てきた実践的知識は、イエズス会がすでにそうした新しいグローバルな課題に、より組織的な方法で対応しようと努めてきたことを証明しています。
 1995年の第34総会は、いくつかの密接に関連しあった洞察を示しています。第一に、イエズス会はすでに、私たちのミッションを実践するにあたって、ネットワーキングを促すだけでなく、要求さえするような仕方で建てられ、組織づくられているということ(第34総会、第21教令、13)。第二に、イエズス会が国際的(あるいは“普遍的”)な体であるにもかかわらず、その可能性を十分に生かし切れていないということ(第34総会、第21教令、5)。第三に、イエズス会におけるネットワーキングの発展は、容易に予測されるものではなく、試行錯誤を通じてのみ進められるが、すでに体験が積み重ねられ、その振り返りがなされているということです(第34総会、第21教令、14)。
 ネットワーキングというテーマは、2000年にロヨラで開かれた管区長会議でとりあげられ、社会正義秘書が、ネットワーキングの現状を調査し、行動の仕方を提案する任務を与えられました。社会正義秘書の第一次草案は、2001年に管区長会議のモデラトールに示され、第二次修正案が2002年9月のモデラトール会議に示されました。そして今日、私は皆様がたに、この『社会分野におけるイエズス会ネットワーキングの指針』をお送りすることができて幸いです。
 イエズス会の中で、「ネットワーク」という言葉について共通理解が得られるような、実際的な定義を確認しよう。「ネットワーク」という言葉で私たちが意味するのは、次のようなことだ。
  1. たくさんの独立した個人や組織が
  2. 離れて
  3. 密接に連絡しあいながら連携し、協力しあい
  4. (アド・イントラ<対内的な>あるいはアド・エクストラ<対外的な>)一つの目的をもって
  5. 一体的にコーディネートされていること。
 以上のような5点の定義をまとめれば、イエズス会におけるネットワーキングとは、行動様式の一つのあり方、「使徒職的に働く一つのスタイル」であり、これまで私たちイエズス会員の活動や任務を制限してきた多くの枠組みを越えて、使徒職を実現し、あるいは強化するやり方なのだ。
 ネットワークが流動的で変わりやすいのは確かだが、その半面、ネットワークとイエズス会の典型的な仕事との間には、多くの共通点もある。だから、ネットワークは一見、とても目新しいように映るが、実はそれほどでもない。大切なことは、ネットワークの有効性を考察したり、優先順位を設定したり、資源を配分したり、どんなステップにせよ踏み出すことを考える際に、有効なデータを集めることだ。この指針はまさに、その見本を示そうとしている。つまり、イエズス会員に割合よく知られている規準を、まるで新奇なものに見えるネットワークの現状に適用するのである。
 ネットワークの中には、未成熟なものもあり、「いったい、そんなものを試してみる価値があるのだろうか?」と疑問を持つ人もいるだろう。他方、それとは反対に、実際に何年もネットワークで活動して、時間と資源を割いた末に、こんな疑問を持つ人もいるだろう。「このネットワークは、使徒職的な可能性を、十分に実現しているだろうか? もし、実現していないとすれば、いったいどう変えればいいのだろうか?」
 ネットワークは時に、コミュニケーションや情報交換、分かち合いのための、より手軽な仕組みに映る。あるいは、任務や場所の制約を越えた共同の働きと映るかもしれない。一見すると、ネットワークは至るところで自然発生しており、コントロールしたり制限したりする必要があるように思われるかもしれない。だが、よくよく見れば、ネットワークを創り出し、維持するためには、多大なエネルギーと創造性、働き、善意、そして祈りが必要だ。同時に、人材や資金、事務所などのインフラも必要だ。
 ネットワークはこうして、イエズス会の他の働きと共通点がある。つまり、イエズス会の他の使徒職においても、新たな仕事を創り出すために、イエズス会員の創造性が絶え間なく求められている。新たな仕事を「創り出し、維持するためには、多大なエネルギーと創造性、働き、善意そして祈りが必要であり、同時に人材や資金、インフラも必要だ」。そうした「投資」を決定するためには、まず、現状評価のうちに見直し(エクサーメン)、計画において識別しなければならない。

AJAN(アフリカ・イエズス会エイズ・ネットワーク)
AJANは、アフリカとマダガスカルにおけるHIV/AIDSに対処するために始められた、新しい試みである。それはHIV/AIDSに対処するにふさわしい社会使徒職、つまり、苦しむ人々のただなかに深く根ざした使徒職、感染者を世話する人々と共に歩む使徒職、感染予防と責任を教える使徒職、地域の文化や信仰、霊性に敏感な使徒職、他の人々と広汎に協力する使徒職を創り出すことを目指す。
1997年、アフリカ管区協議会(JESAM)の決定により設立、2002年にアシスタンシーの事業となる。
関心のあるイエズス会員が、ボランティアで。
Michael Czerny, SJ(CSU-AOR), フルタイム、ナイロビ。ウェブは<www.jesuitaids.net>
EUROJESS(ヨーロッパ・イエズス会社会科学者ネットワーク)
プロフェッショナルな集まりであり、目的は二つある(『規約』第2項を参照)。
 -社会使徒職という枠組みの中で社会問題を考察するのが専門の、ヨーロッパのイエズス会組織や(ヨーロッパに住んでいる)イエズス会員の間で、コンタクトや定期的な情報交換の機会を持ち、協力を促すこと。
 -イエズス会の他の分野の同様な組織や、世界の他の地域で同様な問題を扱っているイエズス会員との関係を育てること。
1949年に、ドイツ、オランダ、フランスの社会哲学者のネットワークとして設立された。1960年代に現在のEUROJESSという名前で再建された。現在では、社会問題の考察に取り組んでいるイエズス会員(基本的にはヨーロッパに住んでいる人)なら誰でも参加できる。
70人(2001年9月現在)。全員がイエズス会員で、約半数が積極的な参加者。
Antoine Kerhuel, SJ(GAL)


GEC(グローバル経済・文化ネットワーク)
現在の新自由主義的な経済のグローバリゼーションが、文化や貧しい人々に及ぼす影響を探る。
第34総会(1995年)に構想され、1999年に4年間のプロジェクトがスタートした。
40にのぼるイエズス会の研究・活動・市民教育センターが加盟し、代表のほとんどすべてがイエズス会員。地域別にはアフリカ8、中東1、南アジア5、東アジア8、ラテンアメリカ・カリブ海9、カナダ1、米国1(他の6つのセンターを代表している)、中・西欧7。
Gasper Lo Biondo, SJ(MAR)
ウェブは<www.georgetown.edu>
IJND(開発のためのイエズス会国際ネットワーク
債務、貿易、統治(ガバナンス)、オルターナティブな開発といった、開発に関わるグローバルな課題に取り組む。3つの行動レベルがある/倫理的・神学的次元に重点をおいた専門研究。ロビイングや世論喚起、他のキャンペーンとの連携。そして開発教育。イエズス会全体からの貢献によって、グローバルな問題や課題について、キリスト教的なビジョンを生み出すこと。
最初に提案されたのは1997年、ナポリで開かれた社会使徒職世界大会。98年にイエズス会債務救済・開発ネットワーク(JDRAD)が発足し、2001年にIJNDに改組した。
約30名の活動的な参加者。

Bernard Lestienne SJ(BRC)が代表、<www.ijnd.org>

IPC(国際人口ネットワーク)
IPCは専門的なアドバイスを提供できる民間シンクタンクとして、国際的な人口問題や人口政策を、貧困やカトリック教会の関心に照らしてモニターする。
1994年に社会正義秘書局が開催したルードヴィヒシャーフェンでの会議で設立された。
人口学、関連する社会科学および道徳神学に携わるイエズス会員、専門家など約30名。
Stan D'Souza SJ(CCU)
イエズス会エコロジー・ネットワーク
想像しうるかぎりのあらゆる学際的観点から、エコロジーを探求する。
リオの環境サミット(1992年)と、『壊れた世界に生きる私たち-エコロジーについての考察』(1999年4月発行)プロジェクト(1995-2000年)の過程で生まれた。いくつかの地域ネットワークが、程度の差こそあれ活動しているが、世界規模のネットワークはいまだ準備中だ。
ラテンアメリカでは、メンバーは個人ではなく、イエズス会系の高校1校と大学9校が参加している。南アジアでは活動は行われているが、ネットワークはほとんどない。米国では、大学をベースにしたリストが作成されている。
インドでは、K.M. Matthew SJ(MDU)。ラテンアメリカでは、Jose Alejandro Aguilar SJ(COL)。米国では、Loretta Jancoski教授。<www.javeriana.edu.co/eco-red>


先住民族の間で働くイエズス会員のネットワーク
世界各地での、先住民族のためのミニストリ
1993年、カナダのアニシナベで開かれた世界会議で地域支部が生まれた。ラテンアメリカ支部は第34総会(1995年)で発足した

ラテンアメリカ/インディヘナの司牧と連帯
先住民族のためのミニストリに携わる、先住民族を含むイエズス会員100人以上、活動的な参加者は40人。
Xavier Albo SJ(BOL)

東アジア/JCIM(先住民族へのミニストリに携わるイエズス会員のコンパニオン)
先住民族のためのミニストリに携わる、先住民族を含むイエズス会員。
Jojo Fung SJ(MAS)
JRS(イエズス会難民サービス)
難民・避難民に奉仕し、彼らと共にあり、彼らの叫びを広めること。
1980年、当時のペドロ・アルペ総長の決断で生まれ、最近、ピーターハンス・コルベンバハ総長によって、財団として生まれ変わった。
約500人(イエズス会員・非イエズス会員を含む)、62人のイエズス会員がフル・タイム、45人のイエズス会員がパート・タイム、100人のシスター、300人の信徒、プラス多数の地元の協働者(その多くが難民)。世界46ヶ国で活動している。
Lluis Magrina SJ(TAR),<www.jesref.org>


MOSJ(イエズス会労働者ミッション)
伝統的にヨーロッパで労働者ミッションに携わってきたイエズス会員や、最近では特に大都市中心部の疎外されている人々の間でのミニストリに携わっている、イエズス会員をはじめ他の修道会員同士を結びつける、一種のギルド
1960年代。最初のヨーロッパ会合は1983年。
「モンド・ポピュラール」(民衆の世界)に携わる100人のイエズス会員と25人の他の修道会員、そのうち、少数がいまも肉体労働や会社勤めをしているものの、大部分は引退している。最近のヨーロッパ会合では70人の参加者があった。
Hugo Carmeliet(BSE)


RED-ラテンアメリカ開発プロジェクト
各メンバーの働きを豊かにすること。(これまで互いにバラバラだったプロジェクト同士に)共通の文化を創造すること。コミュニケートし、行動し、共に提案を行う、共通の力を育てること。国際援助機関に提示する共通のプランを創り出すこと。ラテンアメリカの社会使徒職に協調して参加すること。
1994年以来、何回か会合がもたれ、2000年のロヨラ管区長会議でラテンアメリカの管区長たちが決断した。REDの活動開始は2002年。
社会研究や草の根開発に関わるあらゆるイエズス会のプロジェクトは、大小にかかわらず、NGOと呼ばれるものも含めて、すべて加盟することができる。2002年現在、9管区の15のイエズス会組織が、REDに積極的に参加することで合意している。
Klaus Vathroder SJ(VEN)


<sjsocial>と<alsocial>
世界中の(sjsocial)、あるいはラテンアメリカの(alsocial)社会使徒職に携わるイエズス会員と協力者のメーリング・リスト。次第に非常に活発な「緊急行動」リストになりつつある。
イエズス会社会経済開発リスト<sjsocec>が1995年頃にでき、そこにナポリ会議リスト(1997年)が加わり、英語の<sjsocial>とスペイン語の<alsocial>が成立した。
英語のリストを主に、約80人のイエズス会員。
Luis del Valle SJ(MEX)。共同のサイト「アクシオン・ソシアル・デ・ロス・ヘスイタス」<www.sjsocial.org>が、ラテンアメリカ、特にメキシコにおけるイエズス会関係の社会活動の情報を提供している。

社会使徒職コーディネーター
世界中のイエズス会社会使徒職コーディネーターに向けて、eメールのニュースレターPOINTSが送られている。
2000年に、総長の手紙を送ったのをきっかけに。
管区や地区の社会使徒職コーディネーター、ネットワーク・コーディネーター、JRS地域ディレクター。
社会正義秘書局、<sjs@sjcuria.org>。社会正義秘書局のウェブサイト<www.sjweb.info/sjs>

◆    ◆    ◆

参考までに、以下に社会使徒職の地域グループと、それぞれのコーディネーターを挙げる。
アフリカ・マダガスカルのコーディネーターが1994年からミーティングを始めた。Muhigirwa Ferdinand SJ(ACE)
ラテンアメリカ社会使徒職が1991年以来、毎年ミーティングを始め、現在ではCPALとは別個に集まっている。Ricardo Antoncich SJ(PER)
CIAS(社会活動に関する管区間委員会、CONASから改称)がスペインで1994年から、コーディネートを始めている。ポルトガルやイタリアからも参加者がいる。
コーディネーター/Dario Molla Llacer SJ(ARA)。事務局/Daniel Izuzquiza SJ(TOL)
JCSIM(イエズス会社会・国際ミニストリ委員会)が米国とカナダで年2回、集まっている。Richard Ryscavage SJ(MAR)
JESA(社会活動に携わるイエズス会員)が南アジアで、年1回ほど集まっている。Joe Xavier SJ(MDU)
中欧・東欧の社会使徒職が1996年以来、年1回集まっている。Robin Schweiger SJ(SVN),

◆    ◆    ◆

この文書は基本的にイエズス会員向けの文書です。内容や連絡先などに関するご質問は、当センターまでお寄せください。