米国におけるホームレスの取り締まり

(Eduardo Jorge Anzorena, SELAVIP NEWSLETTER, Oct. 2002より)

 
はじめに
 2001年には、米国のホームレスは300万人以上にのぼった。1995年には、シェルターを必要とする人の数は11%増加し、その数は近年さらに増加している。「ホームレスと飢餓に関する全米市長会議」が、2001年12月に発表した調査報告によれば、シェルターを必要とする人の数は、2001年には13%増加している。
 そして、さらに多くの人がホームレスの危機に瀕している。2001年1月の住宅都市開発局(HUD)報告によれば、全米490万の低所得世帯が、所得の50%以上を家賃に充てて、最悪の住環境で暮らしているが、その数もHUDの推計では低所得者世帯の30%に過ぎないという。
 給料の支払いミス、病気やケガ、勘定の未払いなどから、たくさんの貧しい家族がホームレスの淵に追いやられる。
 ホームレスは多様だ。全米市長会議が27都市(ボストン、バーリントン、チャールストン、シャーロット、シカゴ、クリーブランド、デンバー、デトロイト、カンザス・シティ、ロス・アンジェルス、ルイスビル、ナッシュビル、ニュー・オーリンズ、ノーフォーク、フィラデルフィア、フェニックス、ポートランド、プロビデンス、ソルトレイク・シティ、サン・アントニオ、サン・ディエゴ、サンタ・モニカ、シアトル、セント・ルイス、セント・ポール、トレントン、ワシントンD.C.)を調べたところでは、ホームレスは次のように分類される。

●20%が失業者
●40%が独身男性
●14%が独身女性
●4%が保護者と離れた子ども
●40%が子ども連れの家族
●その67%が親は一人だけ
●22%が精神障害者
●11%が退職者
●34%がアルコール・薬物依存症
●50%がアフリカ系アメリカ人
●35%が白人
●12%がヒスパニック
●2%がネイティブ・アメリカン
●1%がアジア系
 ホームレス問題を解決するためには、その根本原因を解決するため、新たな政策をとらなければならない。
●適正価格の住宅の不足/今日、低所得者向け住宅に住む資格のある世帯のうち、実際にそこに住んでいるのは30%以下にすぎない。HUDの2001年1月の報告によれば、低所得者世帯向けの住宅戸数は、1997~99年に114万戸も減少している。
●所得格差/アメリカの最貧層は住宅コストの上昇に追いつくだけの所得を得ることができない。何百万という勤労世帯が、民間の住宅建設から閉め出されている。
●住宅サービスや政府援助の切り下げ/同時に、貧しい人々の所得は減少しており、援助政策は厳しくカットされている。ホームレスの40%は疾病給付の受給資格があるが、実際に受給しているのは11%にすぎない。ホームレスの大部分は食糧切符を受ける資格があるが、実際に受けているのは37%にすぎない。ほとんどの世帯は生活保護を受ける権利があるが、実際に受けているのは52%にすぎない。子どもたちの12%は、連邦法の定めに反して、就学を拒否されている。

 世論調査によれば、米国民の多数はホームレスを解決する政策を支持しており、その目標を達成するためには、活発な世論喚起活動が必要だ。
 
背景
 全米ホームレス連合(NCH)は、1984年に設立された、ホームレスの権利を主張する最古の全米組織である。NCHは地域と全米のホームレス団体から成る。全米ホームレス・貧困法律センター(NLCHP)は1989年に設立され、ホームレスの問題をより広い貧困の観点から考察して、その根本原因を解決しようと取り組んでいる。この目標に向けて、NLCHPは法廷闘争、立法運動、世論教育を根本戦略として採用している。NCHとNLCHPは20年ほど前から、全米各地の人々から、「ホームレスの増加に対して、地方政府や警察が、既存の法律を差別的に執行したり、ホームレスをターゲットにした法律を制定したりして、ホームレスを逮捕したり、警官による嫌がらせをしたりしている」という報告を受けていた。本文は、そうした地方政府の憲法に違反する取り締まりの実例を集めて、分析し、全国的な傾向を示した、最新の報告だ。NLCHPは過去4回、同様の報告書を刊行している。
 地方政府はしばしば、貧困やホームレスの根本原因を解決する手段を他に知らない、都心部の経済界からの圧力によって、ホームレス問題を表面的に取り締まろうとする。地元の警察官や公園・清掃労働者は、地域の社会資源にはどんなものがあるかとか、精神病や薬物中毒、慢性病を抱えた人々を相手に働くにはどうすれぱよいかといったことについて、ほとんど何も訓練を受けないまま、ダウンタウンの「クリーン・アップ」作戦に派遣されている。
 本文は、そうした地方政府の取り締まりが、運動のチャレンジによって、しばしば改められたりストップしたりした例、あるいは法廷闘争に持ち込まれて、しばしば地方裁判所や連邦裁判所で、憲法違反という判決を受けたりした実例を示している。また、過去20年間にわたる私たちの体験から、組織化の成功例を紹介し、全国各地での成果に基づく提案を行っている。
 
方法論
 調査は29州の57都市とコロンビア特別区、プエルトリコで、NCHの市民権作業部会とNLCHPが考案した標準調査法を使って行われた。調査を実施したのは全米ホームレス市民権組織化プロジェクトのスタッフとボランティアで、彼らは地域の草の根啓蒙団体やオーガナイザー、奉仕団体スタッフらと共に、ホームレスの憲法に定められた基本的権利を保証するために、ホームレスやその団体の力を強めようと活動している。インタビューを行った人の多くは地域レベルで、ホームレスの人々に対する逮捕や取り締まりの監視に当たっている。そしてインタビュアーの全員が、ホームレスの人々と日常的に接触しており、その中には自分自身も現在ホームレスの人もいる。この報告は、全米各地での取り締まりが、ホームレスの人々にどれほどの影響を及ぼしているか、最新の状況を記録する重要な試みだ。
 報告書を通して、憲法違反の取り締まりの全米規模での許しがたい実態が明らかになっている。

 
問題の所在
 ホームレスの状態に付随した行為-たとえば、公共の場で寝たり、体を洗ったり、座ったり、料理したり、横になったり、放尿したり、私物を保管するといった行為を処罰の対象とする立法措置は、憲法に違反している。というのも、そうした法律は、人々をその行為ではなく、その居住形態において処罰の対象としており、ホームレスそれ自体を犯罪としているからだ。
 それらの法律は、「ホームレス」とか「住居」という言葉を使わずに、ホームレスを犯罪としている。つまり、法律が処罰の対象としているのは、ホームレスの人々こそがするに違いない行為なのだ。以下の報告では、普通ならプライベートなものと見なされる行為を、プライベートな空間を持たないがために、公共の場で行わざるを得ないホームレスの人々が、差別的に処罰の対象とされている事例を紹介する。
 
調査結果

 ホームレスの人権の体系的な侵害は、地方政府やビジネス街の目の届く範囲から、ホームレスを閉め出す作戦の一つとして用いられている。
 都市再開発の試みは、ホームレスの人々をビジネス街や観光地区から閉め出すための、掲載の取り締まりを増やす結果となった。
 再開発地区はしばしば警備会社を雇って、ホームレスのアクセスを厳しく制限している。
 既成の法律は差別的に執行され、ホームレスの人々を一定の区域から追い出すための法律が、新たに制定されている。
 公共スペースへのホームレスの立ち入りも制限されている。公園は「ファミリー・パーク」としてデザインされ、子ども連れでない人の立ち入りを認めない。公園のベンチには、真ん中に棒が渡されて、その上で横になることができないようにしてある。ホームレスの人々は、ジョージア州アーテンズからオレゴン州シンシナティやポートランドに至るまで、さまざまな都市で、近隣住民と呼ばれる人々から閉め出されている。
 政治やスポーツのイベントに先立って、ホームレスの人々が一掃される例は、インタビューが行われた何十という都市で報告された。
 ホームレスの人々が警察官に暴力をふるわれた例も、フロリダ州ジャクソンビルからサウスダコタ州スーフォールズまで、各地で報告されている。
 社会の最も貧しいホームレスに対して、家がないという理由で50~2,000ドルの罰金が科されるが、もちろん払うことなどできないので、結局、監獄に入れられる。
 行く当てもなく街角で眠る人を、警察官がたたき起こして、とにかく町中を「歩き回らせる」ケースも、ジョージア州バルドスタからニューヨーク市に至るまで、報告されている。
  調査した都市のすべてが需要を満たすだけのシェルター(一時庇護所)を持たず、住宅コストも多くの人々、職のある貧困層にとってさえ、手か届かないほど高い。
 貧しい人々が手に入れることのできる住宅が、民間市場でも公共部門でも不足しているため、ホームレスの人数は増加してきている。
 全米市長会議によれば、2001年には、シェルターを必要としている人々の37%が、シェルターにアクセスできない。
 ベッドが収監者のために取っておかれているので、精神病者や薬物依存者はシェルターに入ることを、さらに厳しく制限されている。
 この国のどんな州や裁判所の定める最低賃金でも、政府の住宅・都市開発局が公正な市場価格で提供する借家の家賃を支払うことはできない。
 所得補助の適用が減少していることも、ホームレスの増加に影響している。
 福祉から労働へと移行した世帯も、住宅コストをまかなうに十分な所得を得られずにいる。
 精神衛生や依存症治療を含む、ヘルス・ケアへのアクセス不足もホームレス増加の一因であり、精神的な問題を抱えている人々は、多くの都市で行われている取り締まりによって、甚大な被害を受けている。
 収監されたために、必要な医療や相談を受けられない人々も多いことが報告されている。
 全国の留置所や刑務所収監者の16%が、医者から精神病と診断された人だ。その総数は、精神病院に入院している患者数の4倍に上る。
 ロス・アンジェルス郡刑務所は、全米最大の精神病施設だ。
 各都市は、本来ホームレス問題の解決に使うべき貴重な資源を、その取り締まりに充てている。
 ホームレスの人々を逮捕し、取り調べて収監する費用は、住宅を建てる費用よりも高くつく。
 人々の住宅事情を調査して逮捕するために、費用をかける都市はほとんどないが、アトランタだけでも年間1万8~9千人が、「生活の質」違反で出頭させられており、サン・フランシスコではその数は年間4万3千人にのぼる。
 ボルティモアのホームレスは、年間で平均35日間、収監されている。
 取り締まり強化によって犯罪歴が付いたホームレスの人々は、シェルターや住宅に入ることが、ますます困難になる。
 ホームレスの人々はしばしば、法的代理人や人権知識がないため、時間がかかるのを避けようと、「無罪」を主張する代わりに「異議なし」と申し立てる。

 ホームレスの人々やその組織と、地方政府との間の協力関係のたまものとして、全国のいろいろな都市で模範となる取り組みが行われつつある。
 サクラメントやメンフィスなどの警察は、街頭相談員や奉仕団体のスタッフと協力して、革新的なモデルを創りあげてきた。
 オレゴン州ポートランドやオースティン、クリーブランド、マイアミなどでの法廷における勝利は、全米規模で地域に密着した啓蒙活動を行うのに、大いに役立つ前例となっている。
 前例はなかったが、リチャードソン対アトランタ州裁判のような、ホームレスの人々による共同訴訟の和解は、しばしば司法判決よりも柔軟だ。
 草の根の組織化と併せて訴訟を起こす方法は、司法システムだけに頼るよりも効果的だ。
 ボルティモアからオレゴン州ポートランド、サン・フランシスコに至るまで、草の根の組織化はホームレスの人々に敵対的な都市政策を、効果的に変えてきた。
 
提言
 ホームレスの人々やその組織を、憲法で保障された権利について学習させる。
 ホームレスは、自分たちの市民的権利について学習し、それらの権利が個人的・集団的に侵害された場合、法的な代理人を頼めなければならない。
 ホームレスの人々は、地方レベルで、公共政策の決定過程に参与しなければならない。
 ホームレスの人々の市民的権利が尊重されるよう保証する取り組みが、市民的権利を擁護する運動の主流へと結びつけられるべきだ。
 地方政府による人権侵害にチャレンジし、模範的な取り組みを支えるために、地方政府監視プロジェクトやデータ収集活動を支援し、全米規模のデータ・バンクを作る必要がある。

 警察は、逮捕したり召喚状を発行した人々の住宅事情を記録すべきである。
 警察による取り締まりの乱用や嫌がらせを追跡調査するために、地方警察から独立した中央調査システムを設立すべきだ。
 ホームレスの代表も含む、市民検討委員会を設立すべきだ。この委員会は、ホームレスの人々の逮捕や召喚の全ケースを見直す任務を負う。
 ホームレスに関する警察の取り締まりを監視する全国組織に、地方のデータが送られるべきだ。
 すべての警察官が、ホームレス問題と、ホームレスの市民権について、訓練を受けるべきだ。
 警察は街頭相談員と協力してして、ホームレスの人々を支援するよう関わるべきだ。
 模範的な取り組みの実例を、各地の警察や地方政府、草の根団体や啓蒙団体に配布すべきだ。
 ホームレスの人々の市民権侵害を実態調査するために、連邦政府の対応が求められる。
 とても貧しい人々でも入居できる住宅を作るために、連邦政府が十分な資金を提供すれば、ホームレスの第一の根本原因が解決し、憲法に反した法や取り締まりも排除されるだろう。
 社会経済状態に基づいた集団訴訟の権利を、連邦政府が保護する法律を採択すべきだ。
 投票は権利である。有権者登録は居住状況に基づいて行われるべきではない。
 ヘイト・クライム(マイノリティを標的にした暴力犯罪)を処罰する法律が、連邦レベルで採択され、フルに執行されるべきだ。
 ホームレスの子どもたちが、教育や他の公共サービスにアクセスする権利を保証すべきだ。
 法律の差別的執行や地域分けによる規制、ホームレスを住宅から排除する行為に対する訴訟が、積極的に行われるべきだ。
 ホームレスを取り締まる地方政府に対する連邦政府からの支出は凍結されるべきだ。

 訴訟と、草の根の組織化や世論の啓蒙をリンクさせるべきだ。
 逮捕されたホームレスは、弁護士を頼む権利についてアドバイスを受けられるべきであり、逮捕の状況を独自に記録してもらうために、市民団体の電話番号を知らされるべきだ。
 地方警察を監視するプロジェクトに資金を提供し、ホームレスやその団体が、警察の介入を独自に記録できるようにすべきだ。
 効果的な組織化のモデルを創り出し、記録し、広め、まねさせるべきだ。
 収監と住宅建設のコスト比較についての世論喚起が、最も重要だ。
 長期的な解決策が一般からの支持を得るための鍵は、世論喚起だ。適切な社会資源に投資できるかどうかは、世論の支持にかかっているのだ。


●さらに詳しい情報は…
NLCHP
      e-mail:network@nlchp.org
      http://www.nlchp.org