合衆国従軍教区のエドウィン・オブライエン大司教は、2002年9月30日の声明で、ブッシュ政権が対イラク軍事行動を正当化したいのなら、「9・11の事件とサダム・フセインの強制排除の必要性とが、具体的につながっていることを証明する」必要があると述べた。全文は以下の通り。

 このところ連日のように、対イラク戦争についての議論が新聞の一面や政治会合の話題となっているが、どんな状況のもとでならイラクへの「先制攻撃」が道徳的に正当化されるかを問うことは、非常に重要だ。もし、イラクに対するそうした敵対行為が9・11テロに対する戦争の一環と見なされるなら、我が国の大統領とそのスタッフは、9・11の事件とサダム・フセインの強制排除の必要性とが、具体的につながっていることを証明する必要がある。
 世界の大部分の国は我々と同様に、ウサマ・ビン・ラディンとその軍隊の逮捕・告発を望んでいる。同様に、16もの国連決議を拒否したサダム・フセインの傲慢さと、イラクの大規模な破壊能力については、疑問の余地はほとんどない。
 こうした状況にもかかわらず、過去十数年にわたって、我が国のクェート、ボスニアとコソボ、アフガニスタンへの軍事介入を支持してきた友好国・非友好国が、今回のイラク軍事介入計画に不支持を表明している。実際、軍部や議会の指導者のみならず、市民一般にも同様の分裂が見られる。
 米国司教協議会はブッシュ大統領に対して、伝統的な正戦論に照らして、今回のイラク攻撃はまさに正戦であるとは到底言えない、と指摘してきた。教皇庁も強い留保意見を表明している。
 ウサマ・ビン・ラディンとイラクのつながりが証明されず、対イラク武力行使が「テロに対する戦争」に他ならないと認められなければ、カトリックの伝統的な正戦論に照らして、次のような実際的な問いかけをしなければならない。

- イラクの現在の姿勢は、サダム・フセインに対する一方的な攻撃を自己防衛として正当化できるほど、米国に重大で差し迫った脅威を与えているのか?

- その脅威を排除するために、米国は可能な限りの手段を講じたか?
- 軍事行動が人命や資金、中東地域の政治的安定にもたらすコストはいかほどか?

- a)合衆国軍はすでにイラクに深くコミットしており、b)太平洋、バルカン諸国、イラク以外の中東諸国でさらなる紛争が起こる可能性をふまえれば、我が軍にはイラク攻撃に十分な力が残っているのか?

- 軍事介入はどれほどの期間続くのか、また介入によって、大部分の無垢なイラク人を苦しめる現状の独裁体制が、顕著に改善されると保証できるのか?

 私は、ブッシュ大統領の誠実さと、彼の経験豊かなスタッフを心から尊敬する。だが、合衆国民や同盟諸国、国際社会は、我が国が最後の手段として軍事行動をとらざるをえないとすれば、よりいっそう説明するよう期待するだろう。合衆国政府は我が軍をイラクへのさらなる武力介入へとコミットさせる前に、少なくとも以下のことを行う必要がある。

- 十数年前の湾岸戦争の際と同様に、不可避の深刻な脅威を取り除くためには軍事介入しかないという合意を、国際社会で取りつけること、もしくは

- イラクが深刻で差し迫った脅威を与えているという確かな証拠を合衆国が提出し、単独でも軍事行動を行うことが必要であると、明確に意思表示すること

 いずれにしても、我々の側からの軍事行動が必要でなくなることを祈りたい。そして、我が国の指導者たちが各国政府と協力して、イラク現体制が疑問の余地なくもたらしている潜在的な危険を、平和裡に排除する道を見いだすよう祈る。